俺と幼馴染

・那翔(四ノ宮分裂)
・パラレル
・執事×坊ちゃま
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
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「はい、翔ちゃんお花の冠。とっても、似合うね!」
大きな白の花や、ピンクの花、そのところどころに緑の葉が挟まっている花冠を俺の頭にふんわりと乗せて、少女はにっこり微笑んだ。
「嬉しくねーよ…お前がやる方が可愛いんじゃねえの……ほら」
自分の頭に乗ったそれを取って、少女の頭に乗せれば、緑色の目を見開いて、きょとんと上目遣い。
大きな丸いメガネさえなければ、もっと大きく鮮明に見えるのに勿体無い。
花冠の輪っかの間からぴょこんと飛び出すアホ毛が風に揺れた。
「な?可愛いだろ?」
にっと笑って見せれば、少女は花冠にそっと手を添えて、「そうかなぁ?翔ちゃんの方が可愛いよぉ」と、言いながら小首を傾げる。
「お前も可愛いって言ってやれよ」
後ろを振り返り、花畑の上に寝転んだままつまらなそうに空を見ていた、少女と同じふんわりとした髪の少年が上体を起こして、少女を見やる。
「可愛いけど」
そこで一度区切ると、少年は俺を見て鼻で笑った。
「お前もそう変わらねえよ?」
「どういう意味だ!」

***

「以前、新しく執事見習いを2人迎えると申し上げましたが――」
俺に仕えている、白髪が目立つ年老いた執事がそろそろ定年退職する、とかなんとかは聞いていた。
でも、見習いが2人もだなんて、ただの押し付けなんだか、過保護なんだか。
「じいさんだけでも事足りてたんだからさー1人に出来ねえの?」
ぴっちりと制服を着込んだじいさん――俺の専属執事に目をやれば、ゆっくりと首を横に振る。
「いいえ。奥様は海外にいらっしゃいますから、心配なさっているのですよ」
……あれでか。
そう思わずには居られないほど、母親の記憶は少なくて、たまに会っても「相変わらず小さいなぁ」なんてからかってくる親戚の人、みたいな印象しか持っていなかった。
親父も日本中を飛び回っててほとんど家に帰ってこないし、双子の弟の薫は今年の春から地元を出て東京の方で医科大学付属高校に入ることになっている。
俺はというと、地元にあるエスカレーター式の高校に通う予定だ。
「ったく、体弱かったのは昔の話だっつーの」
薫もそれは知ってるはずなのに、執事を「1人やろうか?」って言ったら、「僕にはおじさんがついてるし、翔ちゃんは体が弱いんだからダメだよ」なんて、いつまで経っても俺を病人扱いしてくる。
薫が医者を目指すようになったのもその関係だし、今日だって遅くまで学校で勉強するらしい。
それに、あんなちゃらんぽらんなお袋でも、長男というのは重要なものなのかもしれなかった。
「ええ。ですが、今度迎える2人は坊ちゃまと年齢が近いので、話し相手にしてやってください」
しわくちゃな顔で微笑まれると見透かされてる気がする。
この20ほども部屋がある大きな邸宅には俺と双子の弟のほかは使用人たちしか住んでいないという、何とも勿体無い状況だった。
「……で、どんなやつなんだ?1人は砂月なんだよな?」
「はい。もう間もなく、到着すると連絡が入っているので、本人たちが来てから紹介しましょう」

色んな不安を抱えつつ、いざ執事見習いの2人に会って目を丸くした。
いや、1人は想定内だったんだ。男だから。
でも、もう1人……。
「お久しぶりです!翔ちゃん!あ、翔ちゃん…ってダメですよね、坊ちゃま…?」
ぽわんとしたしゃべり方は変わらないけど、柔らかな敬語が混じっていて、低く声変わりしている声。
お揃いのカッターシャツに赤いラインが入った黒のベストと赤いネクタイをしていて黒のジャケットに、黒のズボン。執事の制服を着た、長身で金髪の男が2人。
「え、え…?」
久しぶりに懐かしい夢を見たな、とは思ったけど、俺はこの2人と幼馴染のような関係だった。
正確には、両親がこの家に居たとき、両親の専属執事の子どもだからとこの家で暮らしていて、入院ばかりしていた俺がちょうど退院していた時期と被っていたんだ。
じいさんは、この2人の祖父に当たる。いわゆる、代々俺の家に仕える執事の家系というやつだ。
「大丈夫ですか?顔色悪いです…」
ふっと顔が近づいてきたかと思ったら、頬に触れられそうになって慌てて飛び退いた。
ソファに座ってるから実際には顔を引いただけだけど。
「おま、お前、男だったのか!?」
銀フレームのメガネの奥で僅かに目を見開いた那月――は短く「はい」と微笑んだ。
昔、俺は那月のことを女だと思って接していて。

何より、初恋の…。
あああああ…!!!
叫びそうになるのを堪えるように、勢いよく後ろを振り返ってソファの背凭れに額を押し付ける。
何で、那月が…、……!?
後ろから、くつくつと笑い声が聞こえる、と振り返れば、那月と目が合った。
あぁ、そんな顔で微笑みかけるな、と視線を外すと、那月の双子の片割れである砂月が薄く笑みを浮かべていた。噴出しそうなのを堪えているのか肩が震えている。
「わ、笑うなよ…!」
「…も、申し訳ありません……くっ…は…」
「笑いたいんならいっそ笑い飛ばしてくれ…俺だってその方が――」
「え、遠慮、なく…あ、あっはははは」
砂月が本当に遠慮なく笑い出すから、那月までつられて小さく笑い声を漏らした。
じいさんだって、微笑ましそうにこっちを見てる。
「も、もう!笑いすぎだ!!」
段々恥ずかしくなってきて叫べば、一瞬きり、とした表情に戻った砂月が一瞬の間を置いて、ぶっと噴出した。
「無口な方だったくせに、笑い上戸にでもなったのかよ…」
「違う、けど…あははは……ダメだ。ツボに…くは、っははは」
もう砂月は放っておくことにして、話を進めさせることにする。
手でじいさんに合図すれば、那月が砂月に人差し指を立てて「静かに」と小声で言うけど、小刻みに頷いて口元に手を当てるだけで笑いは止まらないようだった。
たぶん、俺が那月を女扱いして、手を引いて庭を歩いてたり、那月のままごとに付き合って俺が那月の旦那役をやるって宣言したり、スカートの方が似合うぞ?って穿かせたことがあったり…、まぁ、そういうことを思い出してるんだろうな…。
お袋だって、那月に似合うスカート買って、って言った俺を影で笑ってたに違いないし、絶対面白がって秘密にしようと口裏を合わせてたに決まってる。
穴があったら入りたい。
「――――という形を取り、中学校をご卒業までに全ての引継ぎを終える予定です」
卒業となると2ヶ月ほどはあるけど、言い換えれば2ヶ月しかないということだった。
「ふうん……早いな…退職、してもここで暮らすんだろ?」
「……いいえ。老いぼれにはこの広い屋敷は体に堪えるのですよ」
じいさんは昔から毎朝ジョギングをしていたのに、この1年見かける日は少なかった。
体が弱ってきているのかもしれないと医者に見せたけど、特に異常は見当たらなかった。
「そっか。寂しいけどしゃーねえな」
それから軽く2人の紹介をされたけど、2人とも17歳にして海外で大学院を卒業している高学歴様のようだった。
しかも、国際コンクールでも受賞するほどのヴァイオリンとヴィオラの腕前らしい。
指揮者の母親の影響でヴァイオリンをやっていたけど、音楽はとうの昔に捨てたから、そんなこと知るよしもなかった。
というか、俺の世話なんかするより生かせる職種があるはずだろ、と思わずにはいられない。
「なりたい職業ってなかったのかよ」
話を聞いているうちに砂月は笑いが落ち着いたのか、2人して真っ直ぐに俺を見て言った。
「「執事」」
即答した声がシンクロしてて、那月よりも低い砂月の声がハモっているように聞こえた。
「ちゃんと自分で、考えたか?そういう家系だから、とかじゃなくてだな」
「それに何の疑問も抱いたことはないし」
「僕たちは初めて会ったときから、しょ…坊ちゃまに仕えるって決めていましたから」
なんだそれ。
海外に行くことになっても、あっさり去ったくせに、そんな前から決めてたって?
俺が5歳だから、お前ら7歳とかそこらだったろ。1年も一緒に居なかった。
「……あーもう、名前でいいよ…」
嬉しいやら、恥ずかしいやらで頭を掻きながら言えば、那月が再び「はい」と微笑んだ。
首が痛くなるほど見上げる男相手に何できゅんってしてるんだ。
いや、昔を思い出したからであって、気のせい、だ。
言い訳している自分の顔が熱くなってきて視線を逸らせば、砂月と目が合って、含み笑いをされた。
だから、まだ好きと決まったわけじゃねえっての!
那月以外に好きな女が出来たことないのは、何でか分からないけど…今は男だと認識してるわけで。
ぶんぶん、と首を振って気を紛らわした。

拍手ありがとうございました!



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執事四ノ宮が書きたかったんだけど、初めに浮かんだのがエロシーンで…そこに行き着く前に…力尽き…。
しかもこの上の再会すら、過去編という。夢で過去を語って、また過去!?
となって、よくわからなくなりました。続きはなくはないんですが、完成していないのでカットということで。
書けたら、いいですね…。
執筆2012/09/05〜10