早乙女学園に入学して早3ヶ月。俺、来栖翔は窮地に陥っていた。
寮の同室である四ノ宮那月は、小さい頃に苦い思い出がある相手だ。
だけど、那月は俺のことを覚えてない上に、小さくて可愛いと抜かしてやたらと構ってきやがる。
男同士なのに勘違いしそうになることを平気で言うし、ボディタッチも多い気がして戸惑っていたら、那月に屋上に呼び出されて告白されていた。
告白までにあれほどのアプローチをされても、俺なりに那月は本当にホモなのか?ドッキリじゃないのか、とか、俺は女の子が好きなんだ、なんて悩んでいたけど、告白された途端に満更でもなかったことに気づいた。
それでも答えられずにいたのは、恋愛禁止令なんていう実にアイドルらしい校則があって、もっと言えばやっぱり俺たちは男同士だからで、どうしたらいいのかいくら悩んでも分からなかった。
とにかく何度も校則のことを言って逃れようとしてたけど、たまに我慢できなくなった那月に襲われそうになることがあった。
押し倒すぐらいだから那月は本気なのか、と気づけても、その先なんて想像できなくて、とにかくその場から逃げることを第一に考えていた。
まぁ、寮の同室だから逃げ道も限られてくるわけで、那月が妙に上機嫌の時は音也の部屋に泊まりに行って事をやり過ごしたり、変な意味で襲われないだろうと那月のメガネを奪って、怯んだ瞬間に逃げたり、というのを繰り返していた。
そんな日が続いたからか、部屋に帰ると制服も着替えず気落ちしたような那月が部屋にいて、俺のせいなんだろうしなんとかしたくて、声をかけようと近寄った。
そうしたら、声をかける間もなく、視界が逆転して気がついたら組み敷かれていた。
勢いよく床に叩きつけられて、頭と背中が痛い。
それに両腕の手首に那月の爪が食い込んでる気がするぐらい、いつもよりも強い力で、あぁ、今まではあれでも手加減してくれていたんだな…と思っていたら、呻き声にも似た低い声が聞こえてくる。
「お前、いい加減にしろよ」
目の前には間違いなく、メガネをかけた那月がいる。
だけど、表情と口調は砂月そのものだった。
手首や頭、背中の痛みなんて吹き飛びそうになるくらい、驚きと焦り、恐怖でいっぱいになってしまう。
「もう1ヶ月だ。ただ逃げるだけのお前が、どれだけ那月を傷つけたと思う」
怒気を含みつつも、抑えた声で訴える砂月に俺は何も言えなかった。
俺の気持ちはもう決まっていたのに、校則違反だから、男同士だからっていう理由だけで、那月の気持ちにちゃんと向き合えなかったのは、周りの目とか色んなものが怖くて答えられなかったんだ。
「…ごめん、那月…」
「今更謝っても遅い。那月は引っ込んだ。この意味がお前に分かるか?あぁ?」
二重人格は誰でもなんとなくは知っている病気だ。
トラウマなどで精神的に傷つきやすい人が、自分自身を守るために別の人格を生み出す。
つまり、那月は人よりも繊細で傷つきやすいと言うことだ。
そう思ったところで、砂月が鼻で笑った。
「分かった、という顔をしているが、那月は戻らねえし、俺の怒りも収まらねえ」
「那月が帰ってこねぇなんてそんなのまだ分かんねーだろ!」
それに、今までの砂月だったら怒りで狂っているのなら、本当に殺しかねない勢いで殴ろうとしてくるのに、そうしないのはどこか冷静に見えて仕方がなかった。
「あぁ、そうかもな。ただ戻ってくる意思がないのは確かだ」
変な違和感を感じつつも、俺は二重人格に詳しくないし、目の前の砂月は那月の今の状況を一番理解できるから、どうしても頼ざるを得なかった。
「俺はどうしたらいい…どうしたら那月は戻ってくる?」
自然と出た言葉に、砂月は口角を上げて、自分の制服のネクタイを外しそれで両手首を縛ってくる。
「は?何これ…痛いんだけど」
「那月がずっと望んできたことを受け入れればいい」
そう言って、俺の制服を捲り上げていく。
「そんなんで、戻ってくるわけねーだろ…!」
縛られた両手で殴ろうと上から振り下ろそうとするけど、あっさりとつかまって押さえつけられる。
砂月は俺の胸に顔を近づけて、乳首を舐めあげた。
「…!やめ…」
そう口で言っても、触れられた箇所が熱くて、反応してしまう。
恥ずかしいのもあるし、男なのに胸で反応してるのが情けなかった。
「俺は、女じゃねーんだぞ…」
砂月は顔を上げ、顔をしかめて言った。
「…だから?」
「だから、俺は男だろ!こんなん、おかしい」
「別におかしくねぇよ。あぁ、そこまで性別に拘るのはお前が挿れたいってことか」
「挿れ…!?ちげーよ!!もっと根本的な…好きでも、おかしいだろ…」
砂月が何を思ってそう言ってるのか、自分でも何を言いたいのか、混乱しててさっぱり分からない。
「――好きでも?」
「あ゛!そこは拾わんでもいい…!」
なんて言ったらバレバレだって事に気づいて、顔が熱くなってくる。
まともに砂月の顔を見てられなくて、目を瞑ると砂月が俺のまぶたに軽く口付けた。
「好きなら問題ねえな。つーか、お前は根本的な、なんて言ってるから那月に勝てねえんだよ」
「うっせ…」
薄く目を開けるとメガネを取る砂月は少しだけ笑っていた。
「とか言ってる場合じゃねんだよ!マジで那月はどうすれば戻ってくんだよ!」
「あぁ…そんな話だったな」
なんか軽いのは気のせいか…?
「お前が那月に好きだっつって、抱かれてやればいいんだよ」
「オイ、さっきと変わってねーし、むしろ難易度上がってんじゃねーか!」
そう言うと、砂月はポケットから別のメガネを取り出した。
「…お前気づいてなかったんだろうが、さっきまでかけてたのは度の入ってない伊達メガネだ」
「はぁ!!?!?」
「おま、え、…はぁ!?!!?!俺、マジでどうしようかと思ったっつーのに…」
ちょっとだけ砂月に抱かれるの覚悟しようかと思ってたぐらいだ…。
「いいか、那月が不安で傷ついてるのは嘘じゃねえんだよ。どうすればいいのか、もう分かんだろ?」
砂月は俺の胸をトンと叩いて、さっき取り出したメガネをかけた。
「って待て、この状況でかけるなよ!!」
「…はれ?翔ちゃんその格好どうしたの?」
制服だけは辛うじてずり下ろしたけど、縛られてるのは自分では外せない。
「…お、お前が押し倒して縛ったんだろ…覚えてないのか?」
苦しい言い訳をすると、那月は首をかしげてうーん?と唸った。
「だぁあ!!お前が馬乗りになってんだから覚えてなくても、なんとなく分かるだろ…!」
俺はやけになってでっかい声で言うと、那月は両手を叩いてなるほど、と言った顔をした。
「あぁ、そうですね!翔ちゃん今日は逃げないんだね!」
「逃げないんじゃなくて、お前が乗ってて重いし、手首これだしで逃げられねーんだよ…」
「僕、このまま翔ちゃん食べたいな…ダメ?」
少しだけ悲しそうな顔をしてそう言う那月を見ていると、砂月が言った言葉が脳裏に浮ぶ。
――いいか、那月が不安で傷ついてるのは嘘じゃねえんだよ。どうすればいいのか、もう分かんだろ?――
「仕方ねーなー。1度しか言わねーから、よーく聞いとけ!」
「はい、何ですかぁ?」
那月の真正面を向いて、勢いで言い切る。
「俺様はお前が好きだ!」
笑顔になっていく那月を見て、自分の顔がみるみる顔が赤くなっていくのが分かる。
照れくさくて視線を外して、手首を上げる。
「これ外してくれんなら、その…別に、やってもいい…あとベッドで」
「翔ちゃん!!」
がばっと抱きしめられて、いきなり横抱きに抱えあげられる。
驚いてしがみつこうとすれば、キスの嵐が降ってきた。
「言っとくけど、痛いのはイヤだからな…!」
「はぁい。頑張ります!」
fin.
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ゲロ甘…!!なんだこのバカップル!!!
とにかくさっちゃんが別人w
個人的にさっちゃんは嘘をつかない人だと思うけど、なっちゃんのために嘘をつくのもいいな、って思う。
というか、砂翔エロ書く予定だったのに、かすりもしない全く違う話になったw
一人称視点でエロは難しそうだけど、今一人称視点の文章脳(謎)になってて、三人称視点に出来るか分かんない…。
執筆2012/02/03