今になって気づくこと

俺は今、早乙女学園内の購買、サオトメートに来ている。
卒業オーディションが近いからと控えてたサッカーを久しぶりに音也とした帰りに寄ってみたのだ。
でも、そこは今の俺にとっては嫌味か!と思うほどの色んな種類のチョコが大量に並んでいて、その傍に掲げてある見出しの文字を見て、大きくため息を吐いた。
「どうかしたの?」
「いやさ〜、甘いもん…特にチョコが食いたい時にこの時期って残酷だと思って」
「すっげー分かる。やっぱり男だと買い辛いよね…。それに折角こんなにたくさんの種類のチョコが売られてるんだから、バレンタイン関係なく食べてみたいって思うし」
「ホントだぜ」
そう、バレンタインデーが近い。
日本では女が好きなやつだったり、友達だったり、義理のチョコなんかを渡す日、というのが一般的だ。
それはともかくとして、俺が付き合ってるやつは男だから、俺は特に何もするつもりはなかったんだけど、付き合ってる相手があの那月だから、すげえ催促されて「んな恥ずかしい真似出来るか!」なんて言ってしまった。
サッカーで疲れてて甘いものがほしいのもあるけど、やっぱり買ってやるべきなのかなーって思うわけで…。
「つーか、恋愛禁止してんだったら、わざわざバレンタインだなんて煽るようなことすんなっつーの!」
「確かに…こんなに大々的に売られてると何かありそうで怖いかも」
音也にそう言われて妙に納得してしまって結局チョコは買わなかった。
つーか、那月は…手作りのチョコを作るつもりなんじゃ…。
うっかりしてた…!
どうにか回避する方法を考えないと俺の生死に関わる…!

そうして、考えて那月とやってきたのが学園の外にある那月行きつけのカフェだった。
主にケーキを扱っているお店だから女性客ばかりなのは分かってはいたけど、バレンタイン当日に来たのが悪かったのか店内は男女のカップルばかりだった。
なんとなく居心地が悪く感じるのは、多分…堂々とカップルらしいことを出来る男女が羨ましいから。
女装でもすれば平気になんのかな…。
「那月、やっぱ出ねえ?」
それに店内の奥の席に案内してもらったけど、いつもそれほど気にならない視線がどうしても気になってしまう。
普通に接しているつもりでも、それがどういう風に学園の外の人に見えているのか分からないからかもしれない。
「でも、もうケーキ頼んじゃいましたよ?」
まだテーブルに置かれたメニューを見ていた那月は顔を上げて、不思議そうな顔をした。
「あ、そっか…」
「翔ちゃん?」
那月がそっと俺の髪に触れる。
その瞬間、俺の目に写ったのは俺と目が合って視線を逸らす人だった。
那月は目立つから、たまたま見てただけかもしれない。
だけど、たったそれだけのことなのに、俺は那月の手を払いのけてしまった。
「触るなっ!」
「ごめ、んなさい…」
那月は肩をビクつかせて、でかい体をみるみる小さくして謝った。
いつも触るな、って那月に言っても全然聞いてくれないけど、那月に八つ当たりするみたいに言ったことはなかったのに。
「………俺、こそ…ごめん…」
あぁああ、最悪だ。何してんだろう俺…。
「ごめん…那月」
もう一度謝って、叩いてしまった那月の手に触れる。
「僕は大丈夫です。……だけど、翔ちゃん、僕と席代わろう?」
那月は俺の手を握って立ち上がる。
「……?」
言われるままに立ち上がって席を交換して座る。
「あ…」
目の前は那月が座っていて、その後ろは壁だった。
でも、それだけじゃない。
よく思い出せば、那月とこのカフェやファミレスなんかに入った時、いつも那月の後ろが壁だったことに気づいた。
「限定ケーキに気を取られてしまって…」
俺が男女のカップルじゃないってことに、なんとなく引け目を感じてたのを那月は気づいていたのかもしれない。
でも、いつからこんな気を使われてたんだろう…。
「ばーか。…その、ありがと…な…」
那月の手を握って笑ってみせる。
照れが入ってうまく笑えたか分からないけど、那月も微笑んで言った。
「ふふ、翔ちゃん、かわいー」
「余計なことは言うな!」
「可愛い…可愛いです。翔ちゃん王子…」
「今このタイミングで王子って嫌味か!」
どの辺が王子らしかったよ…。
声を抑えつつ突っ込むと、那月は真剣な表情で言った。
「どんな翔ちゃんでも、僕にとって大事な王子様に違いないんです」
それとこれとはまた意味が違うけど、そう言われて嬉しくないわけがなくて。
「……そ、ういうことをさらっと口にするな…!可愛いも禁止だ!」
「ラブリー?」
「同じようなもんだろそれ!」
自然といつも通りのやり取りに戻ってて、俺は少しほっとした。
人の視線は気になるけど、そればっかり気にして那月を傷つけたら意味ないんだって事に気づけた。
それにいつものように男らしく振舞わないと明らかに怪しいよな…!

ほどなくして、注文していたケーキと紅茶が運ばれてきた。
「大変お待たせいたしました」
バレンタイン限定仕様のハート型フォンダンショコラと表面をチョコレートで綺麗にコーティングした生チョコのタルト、それといつも那月があれもこれも食べたがるから今日は特別に雪化粧のように粉砂糖がふってあるガトーショコラも。
「わあ、すっごく可愛い!よだれが出ちゃいます!」
目をキラキラさせて喜ぶ那月に、やっぱり連れてきて正解だったと思った。
那月の手作りからも逃れられるしな!
「はしゃぐのはいいけど、ちゃんと味わって食えよー」
「はぁい!」
とにかくバレンタインだから全部チョコレートケーキにしたんだけど、おいしそうだからって濃いものばかりを選んでしまったから見てるだけでもお腹がいっぱいになりそうだ。
「うん、おいしいです!あ、翔ちゃんそれ食べてもいい?」
「ん?これか?いいぞ」
それでも、どんな味なのか興味はあって、自分のタルトの皿を那月の近くに移動させて聞く。
「…お前のはどうなんだよ」
「食べてみる?はい、あーん」
ちょうどフォンダンショコラを掬っていた那月にスプーンを目の前に差し出されて、思わず食べてしまった。
人の視線が減った気がして気が抜けたのもあったんだと思うけど、自分のしたことに気づいた途端、居た堪れなくなった。
あぁああ、普段からの慣れって怖ぇ…。
「ハッピーバレンタイン、翔ちゃん」
自分のしてしまったことになのか、チョコと一緒に口の中に広がったアルコールの匂いなのか…。
はたまた那月の言葉になのか分からないけれど、俺は顔を隠すしかなかった。

fin.



-----

ビズログ冊子ネタはいつかやりたいと思ってました。満足…げふ!
相変わらず、題名のテキトーさが酷いw
にしても、ホモって世界観がシリアス過ぎて好きなのは分かるけど、元々そんなつもりなんてこれっぽっちもなかったのに、なんでいつの間にかシリアス要素が入ってるんだろうか。
今練ってる話もシリアスです(白め
見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいラブラブでもいいのよ!
執筆2012/02/12