シャイニングオンライン

ネトゲを舞台にしたお下品ギャグです。
音翔・龍林を連想するところがちらっとありますがガチではありません。R-15ぐらい?
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
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「あーやべえ…間に合わねえかも…」
電車に揺られながら携帯電話の時計を何度も確認する。
窓の外はもう暗く、一番星が見れる時間はとうに過ぎていた。
終電とは行かないまでも、俺が学校でずっと寝てたからってその説教で遅くなってしまったのだ。
制服のままでは指導されてしまう時間帯。
いや、中学ですでに止まってしまった身長のせいか、普段着でも補導されてしまうけど。
ま、まあ、まだ成長期だからな!
うんうん、と携帯電話に向かって頷けば、時計が目に入ってまた焦る。

今日は俺がハマりにハマっているオンラインゲーム、シャイニングオンラインのアップデート日だった。
シャイニングオンラインは簡単に言うと、主人公である13人のキャラクターの中から1人を選んでプレイする、3Dアクション型MMORPGだ。
大型アップデートではないものの、前々から噂されているイベントが始まるのだ。
オンラインゲームのイベントというものは基本的に初動…つまり、アップデート直後が大事だった。
まず素材となるアイテムをいくつか手に入れて、本命のランダムボックスを手に入れるところから始めなければならない。
その素材を売買するときも、初めが高く売れることが多いし、ボックスから良いアイテムが出れば早く売る方が高値になる。
つまり、ゲーム内マネーの稼ぎ時なわけだ。

オンラインゲームというものは常に不具合や想定外と隣りあわせで、ランダムボックスから出る良いアイテムが運営の意図した数よりも多く出現してしまうと、不具合修正の緊急メンテのついでとばかりに乱数が絞られてしまうこともある。
そうした意味でも早く帰りたいのに、俺は昨日わくわくし過ぎて眠れなくて学校で寝てこの有様だった。
俺はガキか…。
プシューと電車の扉が開いて降りると、勢いよくホームの階段を駆け上がった。

家に帰っても、1人暮らしだから特に怒られる相手がいるわけでもないため、ぞんざいに靴を脱ぎ捨てて真っ直ぐに机に向かう。ワンルームのほかはユニットバスしかないから、あっという間だ。
パソコンの電源を入れて、起動する間にさっさと制服を着替えてカップラーメンでも食べようかとやかんでお湯を沸かし始める。
「やべ、そろそろ掃除しないと…」
ゴミはゴミ箱へ、なんて、分かってはいても、溢れ出してしまったらどうしようもない。
コンビニ弁当ばかり食べてるから、そのパックや食べ終わったお菓子の袋、ペットボトルなんかが転がっている。いくつかの袋に分けながら片付けていると、お湯が沸騰したようだった。
掃除はとりあえず、このまま置いておいて、カップラーメンにお湯を注いで冷蔵庫からお茶のペットボトルと一緒に机の上に運ぶ。
デスクトップの右下に目をやって時計を確認する。
22時6分、ね。
「って、あああ、かんっぜんに出遅れた!」
シャイニングオンラインのショートカットをクリックして、ランチャーを起動する。
そのついでに、ブラウザも起動してアップデート内容の確認だ。
いつもと似通った内容のイベントではあるけど、それ以上に驚いたのが、恋愛システムの実装だった。
結婚、なんて文字もある。
「オイ、どこに向かってんだよ。このゲーム」
というのも、ゲームパッド(コントローラー)推奨のボタンを一つ押せば、軽快に発動する攻撃スキルが派手なのに加えて、芸能人がモデルとなったキャラクターを操作できることを一番の売りにしている。
俺が使っているキャラクターはもちろん、大ファンである俳優の日向龍也をモデルにしたリューヤだ。
ほかには男の娘アイドルの月宮林檎のリンゴや、昭和風三枚目アイドル寿嶺二のレイジなどのほかあと4人ほどいて、残り6人は一般公募でキャラクターが作られた。
一般公募は、芸能人のオーディション形式で行われ、俺は日向龍也と画面に並ぶのに燃えて応募したら、見事受かったという過去を持っていた。
公式サイトの俺をモデルにしたキャラクターが目に入って盛大にため息をついた。
「…何度見てもため息しかおきねえ」
そう、女キャラクターなのだ。
しかも、なぜかストレートから、ゆるふわロング、ポニーテールにツインテール、そんなロングヘアしか選べないようになっている。
一般公募のオーディション会場には女の子もちらほら居たけど、最後に残ったのは全員男だった。
モデルとなった芸能人7人も全員男。
ゲームにログインして、俺のキャラクターに似合わないメルヘンな町に降り立つと、すぐに個人チャットが飛んでくる。
『夜やっほー!』
『遅かったね!!』
『どんだけ絞られたのwwww』
連続で流れてくるチャットの相手は学校の友達、一十木音也だ。
おんぷくん、なんてふざけた名前で、自分がモデルとなったキャラクターを操作している。
そうなんだよ。音也もオーディションを受けて、俺たちは一緒に受かったという体験をした仲間…なのに。
音也は俺と違って、男キャラだった。もうまじハゲる。なきたい。
そんな思いをぶつけるようにキーボードを打ち込む。
『ついさっきまでだよ!!!11つーか、ホモゲー乙wwwwww』
一応、女キャラクター自体は俺だけじゃなく、芸能人の中から、リンゴとアイ、そして、一般公募の中から俺以外にも、2人ほどいることはいる、けど…。
『wwwwwwほんとだよねwwwwwま、最後に残った俺らしか一般公募のやつが全員男だってことしらねえけどwwうぇwwwww』
『俺思ったんだよ…そんなんなるって知らなかったし、意味も知らなかったから…俺、の名前……』
『翔龍wwwwwww嫌なら作り直したら?w』
つい先日の話だ。
楽しそうに話している女子のグループに遭遇したとき、音也が「何々何の話〜?」といつものように乗っかり、言葉を濁す彼女たちに「音翔ってなんの略〜?」なんて追い討ちをかけて「ええと、コンビ名?みたいな〜」と言われ、その時は何事もなかったかのように終わったけど、「翔ちゃんが男前受けで〜音くんがわんこ攻め。音翔マジかわいい。サッカーの相性もいいし鉄壁だよねえ」と言うのを音也と一緒に扉越しに耳にした。
そして、その名前が並ぶ意味を知った。
『名前が原因で作りww直すとかwwwもういいよこれで\(^o^)/』
打つのに夢中で忘れてた、と時計を見れば、22時20分になっていた。
『あ、10分以上も過ぎてたwラーメンwwwごめんろむ』
『ふにゃふにゃwまずそwwwwあーそうそう今日のイベントのボス、結構大変だからPT組んでいったほうがいいよ〜俺は風呂あfk』
『さんきゅー溺れてらー』
カップラーメンの蓋を捲って、割り箸を割れば変に割れてしまった。
綺麗に割れたら、なんとなくラッキーと思うだけだけど、上手くいかなかったらいかなかったで妙にイラッとくる。
それに合わせて、伸びに伸びてしまったラーメンを啜ったところで、余計に顔が歪んだ気がした。
平常時なら進まない箸が、空腹のせいで嫌でも口に運んでしまう。
料理自体は出来なくはないけど、このゲームを始めてから面倒になってしなくなった。
朝方までチャットして狩りをしていることもある。
今日だってもう何度目かの生徒指導室で、成績に支障が出る程度には生活に大きく関わっていた。
イベントの内容は、っと。
もう一度公式サイトの特設ページを開いて確認すると、雑魚モンスターが落とす素材を集めて、ボスマップの鍵を作って、ボスを倒してランダムボックスをゲットする、という手順の多い面倒なタイプのイベントだった。
そんで、ボス大変ってあんまり周回できないな。
だらけながらも、麺を啜っていると唐突にぴこん、とゲーム内ミニメールの着信音が鳴った。
『こんばんわ〜(´∀`)よかったら一緒にイベント行きませんかぁ?』
メールの相手はなっちゃん、という名前のふわふわ文体の僕っ子だ。
音也の下ネタに可愛らしく「なにそれ〜?」なんて返してくる。
俺が居る居ないに関わらず、初めはメールでの誘いが来る。
どうやら、狩りをしてるときにチャットは迷惑になるから、という気遣いらしい。
文体と相まってすげえ可愛い。守ってやりたい系。
慌ててラーメンの汁を飲み込んで、それを机の端に追いやる。
メールの返事ではなく、すぐに個人チャットを飛ばす。
『行く行く!つっても、俺ボスマップに行けるアイテム集めてないから、ちっと待って』
『じゃあ、僕も一緒に集めますから、パーティ組みましょう?』
『マジ?すげー助かる!!俺、今ピンク街のいつものとこ』
どんなあだ名だよ、と突っ込みたくなるこの町はメルヘンな外観をしていて、やたらめったらピンクの風船が飛び交い、男女キャラがイチャついているのを多く目にするから身内ではピンク街と呼んでいる。
『はぁい』
本当の意味を知ってるのか知らないのか分からないけど、なっちゃんもそう呼ぶのがこう…なんかこう…男心をくすぐる。
妄想するのは自由だ!と、一人で突っ込んだところで、なっちゃんが俺のキャラクターの前に現れた。
3D仕様のこのゲーム、リアル寄りではなくデフォルメに近い形のものだから、殺伐としたマップよりもこういう街の方が合う。
問題は俺のキャラがリューヤで、重装備のままだから違和感がすごいことだ。
なっちゃんはというと…。
パーティの申請が来て許可を押すと、キャラクターが礼儀正しくお辞儀をすると同時にパーティチャットがやってくる。
『よろしくお願いしますね!』
『おう、よろしく!!』
ガッツポーズをさせたはいいけど、なんか、なっちゃんのキャラクターがこの前見たときよりもフリフリになっていた。
金髪のゆるふわロングヘアはいつも通りだけど、花畑にでも座ってそうな白とピンクのフリルがついたワンピースに花の冠。片手にはバスケット、もう片方にはウサギのぬいぐるみまで持っている。
一番大事な武器はどこやったんだ。
つーか、女キャラクターは俺がモデルとなったユイ以外にも、リンゴやアイ、マサミ、ナツキがいるのに何でわざわざそれを選んだんだ、と理由を知ってても見るたびに突っ込みたくなる。
そう、なっちゃんはユイを使っている。
初めて話したとき「なっちゃんなら、何でナツキにしなかったんだ!」と突っ込んだら「だって、ユイちゃんの方が小さくて可愛いでしょう?」と言いやがった。
そりゃ、キャラクターとして見たら、そうかもだけど…。
ユイでゆるふわロングにするなら、ナツキでゆるふわロングにすればいいんじゃん。アホ毛のオプションつき。
まぁ、それは俺がサブで持ってるキャラだけど、デフォルトでメガネをかけてるから、音也とふざけてメガネオンメガネをしたらいつも穏やかななっちゃんが「やめてください!」って強い言葉で怒ったのを覚えている。
ついこの前、音也がサブのリンゴを引っ張り出してきて、俺のナツキと一緒に2人で「パンチラ〜」なんてして遊んだなんて知れたらヤバイ。
ナツキのキャラは背だけじゃなくて胸が大きいから、だっちゅーのみたいなポーズとか。そこから覗くパンツ。
『翔ちゃんそこは壁だよぉ?』
操作が狂って、またリューヤにガッツポーズをさせてしまったのは不可抗力だ。
俺の気持ちを体現したのには違いないけど、普通にエモーションであるんだぜ?俺はアングルを変えただけだ。
……ズームにしたのは、誰だってするだろ、男なら…たぶん。
ホモゲー乙、なんて言っておきながら、キャラはキャラで可愛いから案外楽しめてるんだな、とから笑いが漏れた。
なっちゃんがちらちらと後ろを振り返ってくるから、慌ててついていく。
『ごめん、ミスっただけwIDで拾った方がいいよな』
ID――インスタントダンジョンはいわゆる、通常のフィールドとは違い、同じパーティメンバーしか同マップに入れない、孤立したダンジョンのことだ。
『武器どうすんだ?前の槍は』
『あれね、強化したらすっごく大きくなっちゃって、マップに入る前に装備しますよ〜』
『へえ、楽しみだなー!』
このゲームはキャラによって武器が変わるということは特になく、キャラクターは見た目とメインストーリーが変わるだけだった。
俺が使ってるのはナックルで、なっちゃんは槍、音也は大剣のほか、刀や双剣、銃、弓、黒魔法、白魔法、召還魔法などなど、一般的なものが揃っている。
武器自体にスキルを覚えさせていくタイプで、強化はいくつかあるルートを辿っていく。
なっちゃんは可愛い物好きみたいだから、見た目重視のいわゆるネタ武器を作るのかと思えば、何気に槍の最終武器の中でも一番高い攻撃力を誇るものを目指している。
俺もそうだけど、なかなかきつい素材ばかりで強化に至れないのが現状だ。
『上級マップの方がいっぱい素材落ちますから、がんばりましょー!』
『おういえー!』
インスタントダンジョンに入る前になっちゃんはまさに戦うメイドといった服装に変わり、俺のキャラよりも背の高い槍を装備した。
刃が幅広で黒ベースに金の装飾が入った槍。ジャラジャラとくっつくいている鎖が揺れている。
『おー案外スマートでかっけえじゃん』
『見た目はそうなんですけど…僕が持つと、背がちっちゃいのでバランスが悪いんです。避けたと思っても槍がぶつかって飛ばされちゃうなんて事が多くて』
『あ、あ、っそう……』
なんか、ごめんな、って…思わず言いそうになって何とも言えない気分になった。

ぶんぶんと槍を振り回す音が聞こえる中、俺は敵の攻撃と共にそれを避ける作業を繰り返していた。
ボイスチャットに誘ったことはあるけど、恥ずかしいからって断られたままで、あまりしつこくするのもどうかと思って言えないうちに、モンスターが強いところばかりで狩るようになって戦闘中は定型文のみの会話しかなかった。
ごめん、死にそうwwwwwwがんばってwwwww
今、俺の状況的にそれが一番合う登録台詞なわけだけど、なっちゃんの前でかっこつけたい俺に言えるわけがなかった。
それに、なっちゃんの前ではあまり「w」を連呼したくないのもなくはない。
あああ、何で狩りに行く前に定型文のチェックしなかったんだ!!!
雑魚とはいえ、上級マップは4人推奨なわけで…!
言い訳はダメだ。
とにかく、この射程距離の短いナックルでどうにか戦わねばならない状況だった。
ひっ、あっぶね、…っ――。
そんな独り言が無意識のうちに飛び交っていて、あぁ、やっぱりボイチャしてなくて良かったと苦笑するしかなかった。
『そっちいったよぉ〜〜!』
『うしろうしろ!』
なっちゃんが注意をしてくれる中、定型文の『さんきゅー!』『助かった!』としか返せないで居ると、音也から個人チャットが流れてきた。
『ただいまー!さっぱりしたよ〜〜』
『あのさー俺、今大剣だけど銃も作ってみよっかなって思ってんだよね〜』
『そうそう学校でさ、翔のこと可愛いっていってる子またいたよ〜すごいね!モテモテじゃん。相手、男だけど』
「うっせ、マジうっせ!それはモテてるっていわねえよ」
『ていうか、ラーメンどうだった?ww全部食べれたの?www』
『…………返事がないただの屍のようだ』
「はいはい」
『もしかして、戦闘中〜〜?』
『b』
鬱陶しいから、個人チャットにしてそれだけ返すと、『終わったら教えてちょ(*´3`)♪』なんて鬱陶しい文章と共に鬱陶しい顔文字がくっついてきた。
さっさとボイチャ繋げとけばよかった。

『お疲れ様でした☆』
なっちゃんは一汗掻いた、という風に額を拭うモーションをしながら、何でそんな名前をつけたんだ、というちくわぶなんて名前の白いウサギのペット取り出した。
俺も慌ててペットの大型犬を取り出す。
ペットはモンスターが落としたアイテムを拾ってくれる便利なやつだ。
もちろんそれだけじゃなく、戦闘中に出していると、ダメージを肩代わりしてくれたり、モンスターの気を逸らしてくれたり、ステータスが向上したりと恩恵がある。
でも、なっちゃんは傷ついてほしくないから、という理由で戦闘中は出さないでと言ってくる。
音也がそんなこと言ったら殴りたくなるけど、なっちゃんはなんとなく許してしまう。
『おつかれさま…ほんと、なっちゃんいなかったらやばかった』
『いえいえ、そんなことないですよぉ。翔ちゃんも頑張ってたじゃないですか』
避けるのをな…。
1人で空しく突っ込みつつ、話を変える。
『あ、おんぷ帰ってきたからさ、3人でボス行こうぜ』
『はぁい』
小首を傾げてスカートを広げながら、体を僅かに下げて微笑むエモーション。
このエモチョイスにきゅんきゅんするんだよな。
俺のモデルなのに…。
音也への個人チャットを送る。
『今終わった。ボス行くけど来れる?』
『うん行きたいけど、翔はやくいつもんとこ来てみて!』
適当に返事をして、メルヘンなピンク街へと戻った。

なっちゃんがいるときは噴水前広場でたむろするのがお約束だけど、音也とのいつものとこ、となるとホテルの前だった。
『あれぇ、翔ちゃん、噴水はこっちですよぉ?』
『あぁ、うん、ちょっとおんぷがこっち来てみろって』
ホテルの中に入ると特別何もない部屋の個別チャットルームになるだけだけど、2人組みが入っていくことがあるわけで、よく音也とそれを観察している。
中で何が行われてるかといえば、ガチだったとしたらチャHだろう。
音也のリンゴを押し倒すリューヤ、なんかもやったことがある。
『ホモwwwwww』と言いながら、ノリノリで『あん、あんっそこらめえ』なんて打つ音也に爆笑した。
音翔の意味を知ってから「ユイで新キャラ作って、おんぷくんで押し倒して遊んでみる?」なんて言われて殴ったけど。
って、思えば俺のキャラでそれやってるやつがいるってことじゃん…なきたい。
木の影にこそこそと隠れる音也を発見して、なっちゃんと2人で前に回りこんでパーティの申請をする。
『たらま』
『あれーなっちゃんじゃん。おかまー!夜やっぷー(*´3`)♪』
音也が顔の横で手の平をひらひらと振るとなっちゃんも同じエモーションを使う。
『ただいまです!夜やっぷ!』
ボイスチャットが出来るソフトを起動して、ログインしているらしい音也に個人チャットで、ボイチャとだけ送りつける。
ヘッドホンつきのマイクを装着して本体にプラグを差し込んだ。
『ここで何してるんですかぁ?』
こっちに来いとまで言ったのだから、理由が分からない人からすれば当然気になるこの行動。
『恋愛と結婚システムできたじゃん?ラブホ入ってくやつチェックしてたんだよw』
音也とはそれなりに長い付き合いで、馬が合うからそれはもう十分すぎるほど察しがついていた。
『そうなんですかぁ。ゲームで恋愛や結婚ってどういうことなんでしょうねぇ…?』
『ただのシステムに過ぎないといえばそうだけど、もしかして、そういうの抵抗ある系?』
いきなり音也が真面目に聞くから驚いた。
『違うんです。ステータスが上がったり、ペアルック衣装が着れたり、そういうのはいいと思うんですけど、実際には触れ合えないじゃないですかぁ』
「やっほー!何て返そっか?」
ヘッドホンから煩いぐらいの音也の元気な声が届いてきて、音量を下げる。
「お前が思った通りに返せばいいんじゃねーの?」
音也が唸りながら、向こうからカタカタと音が聞こえてくる。
このままだとボスを倒した頃には日付が変わってしまいそうだ。
何のために急いで帰って来たんだか。
まぁ、ソロで必死になるよりは楽しいからいいけど。
『実際、ってことはゲーム外でも触れ合ってみたい相手がいるってことなの?』
ぶっ、と音が聞こえるほど噴出すと、「翔、キタナーイ」と聞こえてくる。
「直接的過ぎるだろ!」
「気になってるんでしょ?なっちゃんのこと」
「は?ちょっと可愛いな、って思ってるだけだって」
『ええと、います、よ…』
しどろもどろ感を出した文体に音也が勢いよく食いつく。
『マジ!?誰だれ?!俺らの知り合い?』
『な、内緒です!』
『じゃあ、なっちゃんがいつかここで結婚したとしたら、その相手と実際に会ってえっちしたいってことだよね!?』
「だから、翔汚いってば〜」
「お前が変なこと聞くからだろ!引かれてるって絶対!」
『え……えっち…って』
もじもじしながら見上げてくるエモーションの破壊力にもう何も言えなかった。
「なっちゃんの反応って可愛いよね〜」
語尾に音符でもつきそうなテンションの高さで音也が言ったことが分かりすぎるのが憎かった。
なっちゃんが突然、両手を握って上目遣いをしたかと思うと、予想外の言葉が流れてくる。
『あの、あの、今度、オフ会しませんか?僕の双子の妹つれていくんで…4人で…どう、かな?』
『いきなりだね〜俺はいいけど、翔どうする?』
『俺もいいけど』
と打ちつつも、首を傾げる。
「つーか、大丈夫なのか…今の流れでおかしくね?」
「え、そう?オフ会なんてみんなやってるよ」
あっけらかんとして言う音也は経験あんのかと。
「出会い厨乙」
「1度も出会ったことないよ!」
『えと、ずっといい出せなくて……そういうの1度してみたいなって』
『え!?えっち!?』
「……お前何打ってんだよ…マジ直結乙」
「翔も似たようなもんじゃん。期待してるんでしょ」
「うっせ!」
『ち、違うよぉ…』
『そうだよね、ごめん。何もしないから。えっといつにする?』
そうして、俺たちはなっちゃんと双子の妹の4人で会うことになった。

わけなのだけど、これはどういうことなんだ。

見上げるほどの身長の男が2人、約束の場所にやってきたかと思うと、1人は眉間に皺を寄せてガン飛ばしてきて、もう1人がにこにこと嬉しそうに微笑んで言った。
「改めまして、なっちゃんって言います。よろしくね、翔ちゃん、おんぷくん!」
「「うそだぁあああ!」」

『じゃあ、なっちゃんがいつかここで結婚したとしたら、その相手と実際に会ってえっちしたいってことだよね!?』
『え……えっち…って』
「おんぷ、本気で盛り過ぎだな。シメてやろうか」
お風呂から上がったらしい通りすがりのさっちゃんが声をかけてくる。
「うーん、高校1年生じゃそういうものなんじゃないかなぁ?」
「あれだ、お前がネカマなんかして、わざと初々しい反応するからだろ」
「こういうとき、おんぷくんはそういう話を率先してするけど、翔ちゃんが黙っちゃうのが可愛いんだよぉ」
「お前好きだな、そいつ」
「だって、本当にリアルでも可愛いんだよ。本当にちっちゃくてすっぽり収まっちゃうぐらい…」
腕を小さく広げて、ぎゅうと抱きしめる振りをする。

僕はオーディション会場で見かけた翔ちゃんが気になって、赤い髪をした子と話しているのを盗み聞きした。
「お前、新しく自分のキャラ作るんだろ?なんて名前にするんだ?」
「おんぷくん」
「テキトーだな。一部から、おんぷくんさんって呼ばれるフラグ」
「親しみやすくていいでしょ!そういう翔はどうなの?」
「俺は……女キャラらしいし…作らねえよ」
「あぁ、リューヤでキャラいるもんね。というか、人のこと言えないテキトーさだと思うけど?」
「かっけえじゃん!翔龍!こう、昇竜拳!みたいな!!」
「……どう考えてもテキトーにしか思えないから」
と、こんな風に話しているのを聞いていたから、色んなサーバーで同じ名前の人がいないかを探して、やっとで見つけて近づいたんだ。

「あ、さっちゃん何するの…!」
イスを少しだけ後ろに下げられて、さっちゃんが眉間に皺を寄せながらキーボードを打ち込んでいく。
『あの、あの、今度、オフ会しませんか?僕の双子の妹つれていくんで…4人で…どう、かな?』
「ちょっと、もうさっちゃん!会ったら男だってバレちゃうでしょ〜」
「だったら、男でも大丈夫なように調教してやればいいだろ?」
「そっか、そうだね!頑張ります!」

ナツキを使って変な遊びをしてたことを知られていて、そのモデルが目の前にいる、ということだけで俺には平謝りするしかなかった。
でも、逆効果だったのか、それをネタに言うことを聞けと脅されるようになったんだ。
……俺のバックバージン消失の時期が近い。

完。



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ネタとしてはかなり楽しかったんで、こんなに書くの早かったの初めてかもしれないw
なんか最後、会話文多くなりすぎてダレてしまった…\(^o^)/
執筆2012/09/06〜07