Halloween.それは現在社会において、仮装パーティが主であるが、実際にそんな奴らがいたとしたら――。
ファンタジー始まるよ!那翔で公式のミイラ男×魔女。シリアス風味?をお下品でぶち壊す、そんな感じ。R-15?
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
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偶然というものは時に残酷で、時に――。
昔、両親は魔女狩りにあい、俺を逃がして死んでしまったため、俺は事情を知らない孤児院に身を寄せていた。
魔女の家系に生まれた俺は人より若干寿命が長く、外見年齢の成長が遅い。
それを知らないやつらから背が少しばかり…アレで、バカにされることに、心底うんざりしていた。
真夜中、人目を盗んで、村の近くにある深い森に入れば、黒猫がたちまちやってきて地下住居に案内してくれる。両親の使い魔だった猫で、そこは両親が住んでいた場所。
俺はそこで書物を漁っては薬の調合をしていた。
薬、とはもちろん身長を伸ばす薬だ。
ぼん、と煙を上げた鍋にため息を一つ。
「また失敗…なんでだよぉ…」
似たような草ばかりで見分けがついていないのは自分でも分かっているけれど、少しぐらい成功の兆しが見えてくれたっていいじゃないか。
失敗は成功のもと、なんて知りもしない俺はとにかく色んな草を集めては失敗を繰り返していた。
俺の魔力がまだ低いのもあって、箒で運べる荷物の量はそう多くない。
すっかり薬草の在庫がなくなってしまったから、籠を担いで、箒と小さなランプを持って暗い地下から外の様子を窺う。
ギィ、と音を立てて、板張りの扉を開けるとそこには俺をいつもここまで案内してくれる黒猫がいた。
でも、傍には金の髪をした男が使い魔の言葉が分かるかのように声を弾ませていた。
「何年もここに住んでいるんですかぁ?1人で?」
魔法の石で結界が張られているから、同じ魔女の血を引く者しか、地下への扉を見つけられないため、気づかれずに済んだ俺は男が去るのを息を潜めてじっと待っていた。
「そうなんですか〜、それは悲しかったでしょうね……ええ、しばらくこの辺りに隠れるつもりなので、またお話しましょうね」
割とすぐに身を引いた男が暗い森の中に消えて行き、ほっと息を吐いてしばらく様子を窺ってから地下から出た。
「こら!人間を連れて来たらダメだろ!」
森ごと掘り起こされでもしたら、たまったものじゃない。
両親は魔女としてはそこそこの腕前だったけど、貴重な資料だってあるのだ。例えば、傷をすぐさま治す薬なんかの。魔女の寿命が長いと言われる理由の一つでもある。
にゃん、と鳴いた使い魔はあの男同様、闇に溶け込むように消えていった。
俺はまだ未熟で、契約を結んでいるわけじゃないから、言葉が分からないのに、あの男は理解出来ているように見えたのは気のせいだったのか。
まぁ、いいか、と箒をまたいで気合を入れた。
髪が勢いよく舞い上がり、小さなランプが揺れ、草木がざわめき始める。
飛び上がる瞬間の、空気のうねりが好きだった。
ふんわりと体が浮き上がって大地を蹴れば、木の天辺付近まで楽に到達する。
集中を切らさないように満月の夜を駆け抜けた。
孤児院のやつらに身長のことでバカにされても、俺はこんなことが出来る特別なんだと思ったら、誇らしく思えた。
両親を殺した人間を許してはいけない。だが、闇に囚われてはいけないと、誇りを胸に生きれば、あんな奴らでも、それに紛れて生活すれば生きられるのだからと、必死に自分をいさめていた。
木々の間に隠れながら少し高度を下げて、横を通る葉の群集が大きくしなる。
ピ、と葉が頬を掠って痛みが走り、眉をひそめたけれど、そんなことは日常茶飯事だから気にもしない。
冷たい空気に肩が震えてきて、秋はあまり長く飛んでいられないな、と小さな泉を見つけて辺りを見回しながらひっそりと着陸した。
泉の水は透き通っていて、月に照らされた水面がきらきらと光り、吹き付けてきた風によって波紋が広がった。
水中の草って使ったことないかもしれない。
泉まで寄って、指先だけ水に浸ければ、冷たすぎる水温にぞくりと背筋が凍るようで、慌てて手を引っ込めた。
水温を温めればいいだけの話、でも、それをするとこの冷たい泉に適応して生活する生き物たちに害が及ぶ。
仕方ないと諦めて、泉の周りに生えている薬草らしき植物と、花を摘んでいく。
必要な分だけ、いろんな種類を目安に。
でも、このあたりの植物はほとんどを試してしまっていて、その全てが失敗した。
恐らく、たくさんの種類があるせいで、調合配分と組み合わせが間違っている可能性が高い。
籠の中に入れていた書物をぱらぱらと捲りながら、ランプを翳す。
草と本とを見比べてみてもサッパリ分からない。
それもそのはず、写真なんてハイテクなものはなく、下手ではなくとも決して上手くはない手書きでの写生絵では細かいところまで分からないのだ。
両親が生きている頃にちゃんと勉強すればよかったと後悔しても遅い。
むしろ、身長を伸ばすための薬程度、作れなくてどうする。
魔女の血を誇りに思っても、空を飛べるだけじゃ、自分自身を誇れる理由にはならないのだ。
ここじゃ暗いからと、とにかく草を摘んで籠に入れるだけの作業を繰り返しているうち、泉からすっかり離れて、木の根元まで到達していたらしい俺は何かにぶつかった。
木だったら硬くて、痛い衝撃が来るはずなのに、それよりは柔らかい衝撃だった。
そこまで痛くはなかったけれど、反射的に額を押さえながら、薄っすらと目を開ければ、木の根元に背を預けて小さく膝を抱えながら眠る男が一人。
にゃぁん、との鳴き声に、両親の使い魔が傍にいることは分かったけど、その声のせいか、俺がぶつかったからか、男は身じろいだ。
「ん……ふぁ…」
ランプを男の顔まで持っていけば、「眩しいですよぉ」と腕で顔を隠しながら目を細める男。
俺とは少し違う金の色をしたゆるふわ天然パーマにぐるぐると巻かれた細い包帯。ゆるっと巻いてあるせいで、顔にまで掛かり、長い前髪や包帯の隙間から緑色の瞳が覗く。
ランプを下ろせば、シルバーフレームの細いメガネの奥で細められる目にどぎまぎとしていると、「おはよぉございます〜」とゆったりとして眠そうな声音、それでいて優しく間延びした声に再びどきりとした。
「き、緊張感のない奴だな。まだ夜中だぞ…!つうか、それ、怪我でもしてんのか?」
言われ慣れでもしているのか、男はあぁ、と苦笑した。
「ちょっとした古傷があるので、これで隠しているんですよぉ」
「あ、そう…」
痛みを抑える薬ぐらいなら調合できるけど、余計なおせっかいはしない方が吉か、と籠を担いで立ち上がる。
夢中で草を摘んでいたからか思ったよりも重い籠に顔をしかめて、小さく魔法をかける。重さを1kgほど軽くするもので、今の俺にはそんな僅かばかりの効力しか出ないのだ。
「よっこいせっと」
多少はマシになったけれど、そんな掛け声をしながら担ぎなおす。
「じゃあ――、な?」
ふわ、っと体が浮いた気がして、声がひっくり返った。
いや、気がしたんじゃない浮いてるんだ。男に横に抱き上げられて。
「え、っと…?下ろしてくんね?」
引きつりそうな顔のせいで、少しだけ葉っぱで切れた頬が痛んだ。
「お家まで行くんでしょう?僕も連れて行ってください」
「……ハイ?」
連れて行ってください、ってお前が担いでるのはなんなんだ。連れ去られるの間違いだろ。
はっ、もしかして飛んでるの見られた!?
魔女狩り、もしくは魔女を利用しようとする人間…。
一気に血の気が引くようで叫んだ。
「わ、わああ……下ろせ、下ろせって!!!」
足をばたつかせて、腕を振り回した。
ぼとりと落ちたランプがふっと消えて、箒だけは離すまいと強く握った。
箒にまたいでないけど、魔力を込めれば飛べる。
どうする。逃げるか!?
「ちょ、ちょっと落ち着いてください、あの、…ええっと…」
短い思案の後、ぎゅうと胸に押し付けるようにして強く抱きしめられた。
逃げようと必死に胸を押し返そうとすれば、俺よりも大きな体が小さく震えていることに気づいた。
俺の方が、怖いって、と思っていると、男は掠れた声で小さく言った。
「……小さな、小さな…魔女さん…僕を、人間にしてください…」
人間、に…?
ってことは仲間…?
魔女は裏切りによって、魔女狩りにあうこともある。人間だけが敵ではないのだ。
「人間、なんか、なって何の得があるんだ。寿命だって短いし、集団で集まって少数を狩るやつらだぞ…分かってんのか」
そんなやつらの仲間になって、心の底から仲良く出来ると思ってるのか。
「長すぎる、寿命こそ、本当に辛いものなんですよ」
とても長く生きてきたとは思えない、皺のない顔がくしゃりと歪んだ。
普通の青年のように見えるのに、何がそんなにこの男を辛い目に合わせたというのか。
追っ手に追われる生活をしていたのだろうか。
だとするなら、この男を追っているやつらが森に捜索に入るかもしれない。
逃げなければ。
ずずず、と本格的に泣きが入ってきた奴相手に言うのも酷というものだが、仕方がない。
「……俺は、ちっさくないけど、技術が未熟なのは認める。そんなもん作ったこともねえし、知らねえよ。というか、お前も魔女なら自分で作れ、な?」
小さく首を振る男が首筋に顔を埋めてくる。
自分で作れるならそもそも頼んでこないか、と息を吐いた。
ふんわりと鼻を掠める髪がくすぐったくて、そっと撫でる。
「とにかく下ろせよ。俺は少ない仲間が人間になって欲しいとは思わないから、手を貸せない」
悪いな、ときっぱりと言い放つと、男は俺を下ろして、小さな小瓶を取り出した。
「……じゃあ、翔ちゃんにこれ、上げます」
「何で名前――」
無理やり口に小瓶を突っ込まれて、流れてくる苦い液体にどくん、と体が強く脈打って顔を歪めた。
どこかで嗅いだことのあるような青臭いそれ。
「かはっ……なに、のませ…」
「僕の、えっちな、お薬です。これで、翔ちゃんはぁ、ちょっとの間、僕のお仲間です!」
ほら、と頬を撫でられて男の指についた僅かな血。
箒に乗って飛んでいるときに頬が切れたときのものだろうけど、触られても痛くないだけじゃなく、少しだけ表情を変えるだけで痛んでいたそこは触れられて熱を帯びた以外、痛くもかゆくもなかった。
「仲間、って魔女じゃないのか…」
月の柔らかな光を浴びた男は、ぺろりとそれを舐め取って優しく微笑んだ。
「ミイラ、男、です」
そのときの俺には優しく、見えたんだ。
あれから50年もの間生きてきて、少しも老いない顔、伸びない身長に俺はあの男が言った、人よりも生き続けることの恐怖を僅かながらに身を持って体験した。主に、追われるという意味で。
愛しい者と一緒に年老いることを美とする人間どもを上空から見下ろしながら、隠れるように森に入る。
昔住んでいたところではなく、また別の森で、両親が住んでいた地下の書物は全てここに移動させ、同じように地下住居を構えて、結界を張って暮らしていた。
老いない見た目のせいで人間に追われた俺はのらりくらりとただ生きるだけでは意味がないと魔力を高めた。
薬草はあのミイラ男――那月に教わって知識を増やしたんだ。
そのおかげで身長を伸ばす薬を成功させることが出来たけれど、それを飲もうとすると那月は涙ながらにやめてと懇願してくる。たまに獣のような目のときもあるほどに俺の身長が伸びることが嫌らしい。
家の傍に使い魔である黒猫が闇の中から現れる。
おかえり、と一鳴きする頭を撫でてやって、地下への扉を開けた。
「ただいま」
「おかえりなさ〜い!」
当然のように出迎えるミイラ男、那月は出会ったときから俺と同じで全く歳を取っておらず、仕方ないからと匿ってやっている。
ミイラと言っても、どこかの物語に出てくるようなゾンビを想像してもらっては困る。腐臭はなく俺が調合した石鹸の香りを漂わせるこいつは紛れもなく一度死んだのにも関わらず、蘇ってしまった不老不死の体をしているのだ。
傷を負っても、すぐさま治癒してしまう那月の頭に巻かれた包帯の下には、この傷を負って動いているのが不思議なほどの古傷があって、それが証拠らしい。
那月が人間になりたい理由は全て、今までの恋に関係があったと聞いた。
数百年前に蘇ってからの初めての恋の相手と上手くいっていたようだけど、安心しきって考えもなく自分の正体をバラし、追われるはめになったらしい。
その経験を踏まえて何度か恋をしても、正体がバレてしまう前に逃げ出すことしか出来なかったのだと言う。
「だったら、俺みたいに不老不死にしてやりゃ良かったじゃん」
当たり前のようにそう言った俺に那月は、初めはそんな効果があるとは知らなかったから、そういう行為に及んだときに飲んだ瞬間、相手の体は無残な姿になってしまったという。
実際、そんなところを目撃したら重度のトラウマになりそうだ。そのせいかは分からないけど、別の人格――いや、今はこの話はいい。
思わず、肩を抱いた俺に那月はくす、と笑って、唯一、そんな症状を引き起こさなかった子は魔女の血を引いていて、100年若い姿のまま生きた、とも言った。ただ、残念ながら、人に追われる生活を苦に、一緒に生き延びようとはしてくれなかったらしい。
だから、俺に束の間の不老不死の力を与えたんだとか。
初めはその理由も俺に人間になる薬を作って欲しかったから、だったらしいけど、なぜか今では普通にそんな行為に及ぶほど親密な関係になってしまったわけで。
「僕、翔ちゃんと一緒にいつまでも綺麗なままで生きたいです…」
両手をぎゅっと握られて、潤んだ緑色の瞳が捨てないで、と見つめてくる。
初めて体を重ねたときから、那月は過去を語る中でしか人間になりたかったと言ったことがない。
この言葉は本物なのだ。
「ん、那月……いつまでも、生きられるように、俺に、おくすり…、飲ませて…」
人間になって一生を終えたがっていたこいつが、偶然にも俺と出会って、考えを180度改めるなんて偶然では済ませられないよな?
fin.
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ハロウィンと聞いて、誰がこんな話になると予想できただろうかw
執筆2012/10/15