ここはブログやツイッターで書いた小話、単発ネタなどをSSにして載せていくページです。
前に一度読んだことある話ばかりかもしれないし、表に出してないボツになった小ネタがあるかもしれない。
まずは補足説明などよく読んでから、読みたい話の題名をクリックしてください。
基本的に新しいものが上です。
やたらと日向先生の恋人が気になるらしい寿先輩へのカモフラージュのためとは言え、先生が七海を抱き寄せたとき、自分が男であることがこんなにも苦しいなんて、思いもよらなかった。
二人の演技だと分かってはいても、それがあまりに自然で、普通のことで悔しかったんだ。
しかも、俺はそれをはやし立てる役だなんて、先生の本当の恋人である自分の立場がない気がした。
でも、堂々と先生に宣言してもらうことで、先生の男らしさ、格好良さを引き立てようと言ったのはほかでもない俺だ。
自分で言い出したことなのに、先生みたいにちっとも強くなれない。
先生が移籍しなくてほっとして、また別の不安を抱えて、最近増えてきた仕事だけじゃなくて心も忙しいらしい。
だって、先生は寿先輩が茶化すように聞いても、十分すぎるほどに恋人とのラブラブっぷりを話すんだ。
それが演技でも、隣で聞かされれば空元気みたいな反応になってしまう。
ついさっきも、そんな風にやらかしてしまったあとだった。
明日から北海道。憧れのケン王を演じる日向龍也と共演出来て有頂天になってた気分はどこへやら。
旅館の大部屋で、寿先輩と黒崎先輩、トキヤとレン、それに先生と俺の7人で雑魚寝なわけなんだけど、ヒーローショー全国行脚の初日から寝る場所を先生の隣に陣取ってたせいで、今日も先生が俺の隣で寝てて余計に落ち着かない。
なかなか寝付けなくてごろごろと何度も寝返りを打っていると、先生の小さな唸り声が聞こえて、背中に何かが圧し掛かった。
先生の腕…?
と思ったら、自分が寝返りを打つうちに先生の敷布団の近くまで移動していることに気づいた。
退けたら起こしてしまうかもしれないし、このまま、なんて自分に都合のいい大義名分を考えて、なんとなく先生の方へと寝ている振りをして寝返りを打ってみる。
すると、先生は起きていたのか、小さく微笑んだ。
「眠れねえのか?」
くしゃりと髪を絡め取るように頭を撫でられて、心臓が小さく跳ねてゆっくりと落ち着いていく。
「ん……明日のこと考えてたら興奮しちまって」
「まだまだガキだな。早く仕事として慣れろ」
絡まった髪からするりと頬に触れて、ごつごつした手が不器用に撫でてくる。
「そんで、お前はもっと自分のことを信じてやれ」
次いで言われた言葉に、軽く目を見開いた。
俺は、先生を信じてる。それは一生揺るぐことのない事実で、そこに裏切られるなんて言葉はありはしない。
それを先生は分かってくれてるんだ。
先生が俺を信じてくれてる、期待してくれてる、好きで、いてくれてる俺自身を信じろって。そう…。
俺は勢いよく「はい!」と返した。
だけど、俺が声を上げたのをきっかけにして、むくり、と起きた寿先輩が再びトークに花を咲かせ始め、「いい加減にしろ」と黒崎先輩が寿先輩を足蹴にした。それと同時に寿先輩の芝居がかった悲鳴が旅館に響き渡ることになったのだった。
執筆2013/03/19 [目次]
ベッドから起き上がった那月の肩口にある引っかき傷に、居たたまれない気持ちと罪悪感が浮かぶ。
思わず、ごめんな、痛かったろ?って声を掛ければ、那月はなんでもないことのように首だけで振り返った。
「いつも謝らないでって言っているでしょう?」
那月はそのまま、呟くようにして肩の傷に触れた。
「これは翔ちゃんが痛がっている証で、僕はもっと優しくしなきゃって、そう何度も自分に言い聞かせるのに役立つんです。でも、上手くは、いかなくって悔しい……。僕の方こそ、優しくできなくてごめんね…」
俺だって、布団やシーツを掴めばいいだけの話なのに、那月の体温を感じたくてついつい甘えてしまうんだ。
「俺のことはいいんだよ。それより、お前に傷が残らないかの方が――」
俺は心配だ、そう言おうと思ったのに、那月は眉根を寄せて悲しそうに微笑んだ。
「こんなの、全然、全然、痛くないです」
那月はそう言って、俺に覆いかぶさると、胸の辺りに残る肌よりも少し白い一筋の傷痕に口付けた。
――翔ちゃんが生きていると実感させてくれるものなんですから、僕の特権を奪わないで。
執筆2013/03/09 [目次]
俺の国はこの戦争で負ける。
その確信を真逆へと変えるには、指揮系統が集まる敵本陣を叩くしかない。
夜が間近に迫り、疲弊しきったこちらの兵力はもはや、ライオンの頭が三つ生えた、巨大な召還獣頼み。対峙すれば畏怖しか抱かないライオンに似たそれは、鋭い牙や爪を持ち、あらゆる属性魔法を使うことが出来る。
だが、実際のライオンとは違い、機動力が著しく欠けており、見つかってしまえば敵軍も討伐隊を編成し、召還獣を倒そうと躍起になる。それは言ってしまえば、ただでさえ高い敵の士気を更に上げるリスクも伴うということ。
俺は召還獣の経路を探るため、敵本陣を偵察していた。
気配を消し、岩陰や木々に隠れ、耳を澄ませる。
敵本陣の炎は轟々と燃え盛り、勝利が確定したと言わんばかりに杯を交わしていた。
息遣いさえ、はばかれるこの状況で、冷静さを保つなんてとてもじゃないが出来なかった。
戦える兵士が少なかった。初めから負け戦だと誰もが分かっていた。
それでも、勝利をもぎ取らなければ。
――好機。今なら叩ける。
一瞬にも思える殺気と高揚。
木々がざわめきたち、炎が大きく揺れた。
それを見て取って、気を静めようと目を閉じた瞬間、耳にした草木を踏みしめる小さな音に柄を構えた。
周囲に視線を送り、感じ取れる気配は一人だと察する。
腰に下げた対となる二振りの短刀を引き抜き、地を蹴った。
砂利が音を立て、空気の切れる音に相手がゆらりと武器を構えた。
炎で敵が陰り、長身だということしか分からない。
戦場では小回りの効かない風体の者が多く、そいつらの相手は慣れている。
低めた体勢から上に振り上げた剣は金属音を鳴らし、軽く弾かれた。
軽く弾かれたと思った。なのに、あまりに強い振動に剣を落としそうになった。
相手は殺気を見せない。この暗闇で、ましてや逆光。俺の動きが鈍るのは必然だった。
「一体、何を探ってたんですかぁ?」
じりじりと追い詰められ、ついには背中が岩肌にぶつかった。途端にジジジと、耳につく音がイヤホンから直接脳に響く。
ヤバイ、妨害電波が…これじゃ応援要請も出来ない。
隙を突こうにも、不気味なほどに余裕の笑みで攻撃をことごとく弾かれてしまう。
敵は長身。俺がそんな相手に慣れているように、敵も小回りの効く俺のような相手に慣れているのかもしれなかった。
「くっ…どうせ分かってるんだろ…!」
「ふふ、大敗しているあなたの国は猫さんで一発逆転を狙うしかないですよねえ?」
猫、とは恐らく、召還獣のこと。
多くの国はこれらを所有しており、当然ながら敵国も対策は熟知している。
それでも、それに頼るほかない現状が悔やまれる。兵士の数は同等。ならば、個々の戦闘経験の差が物を言ったと言っていい。
戦場にあるのはそれだけだ。今、俺の前に立つ相手と同様に。
変わらず、くすくすと笑う男は自分の無線を取り出し、口元に当てた。
「ネズミさんを見つけたので、すこーし駆除のため、前線から離脱しますね〜」
「…月、遊び……なよ」
通信の周波数が狂ってしまったのか、俺の耳にも僅かに声が届く。
「はーい、さっちゃんも後で来てください、今度のネズミさんは、とっても可愛いんです!あ、そうでした、猫さん来るかもしれないって本部に伝えてくださいね〜」
取ってつけたように国の危機を伝える男の、黒く微笑む姿が脳裏に焼きついて離れなかった。
執筆2013/01/13 改稿13/03/19〜20 [目次]
懐柔されたあとは中立国で密会なんかしちゃったりして。別国という意味も込めて、軍服はdebutのイメージ。
俺はあまり机に噛り付いて勉強するタイプではないけど、部屋には那月が居て俺に構ってくるから、行き慣れない図書室にやってきた。
早乙女学園にある図書室は、吹き抜け作りの高い本棚が壁一面に並んでいて、それよりは半分ぐらいの本棚が通路を作るように並んでいる。半分と言っても、2メートルほどはありそうな高さなため、脚立がそこかしこに置いてある。
そんな膨大な量にも思える本はもちろん備え付けのパソコンからどこに本があるのか、今貸し出されているのかを調べることが出来る。
図書委員というものはなく、学校の職員が受付をしているなど、立派な図書館といった風貌。
滅多に来ることがないから、部屋に入った瞬間、改めて圧倒された。
生徒の数はまばらで、よく知らない顔ばかり。見たことある顔はほとんど会話をしたことがないような作曲コースのやつが多かった。
まぁ、俺も調べ物があるし、顔見知りに会って図書室で話し込むわけにもいかないからいいけど。
パソコンで軽く調べてみると、俺が用があるのは一般書籍が並ぶ、壁際の本棚ではなく、通路のようになっているところにあるようだった。
どうやら、課題なんかで生徒が多く利用する本は取りやすい場所に仕舞われているらしい。
持ってきた筆記具を空いていたテーブルの隅に置いて、本棚と本棚の通路に入り込む。
誰かと通りすがれる程度には通路の幅があるけど、前に一度来たときよりも通路が狭くなっていて圧迫感がある気がした。
目当ての本はダンスのステップを詳細に記してある専門の本……だったらよかったのになぁ、と思いながらその本に手を伸ばす。
伸ばしたところで背伸びしても俺では届かない位置にあるそれにため息を吐いた。
まぁ、こういうのは誰かに教えてもらいながら自分でステップを踏む方が覚えやすくていいから、別にいいんだけどさ。
でも、知識として持っていてもいいはずだし…。
読んでみたい欲求には堪えられず、通路を戻って脚立を取りに行く。
入り組んだ一角なため、通路の先は本棚があり、T字路のようになっているところに出た瞬間、きょろきょろと辺りを見回すふんわりとしたミルクティー色の髪を見つけた。
一際目立つ長身で見つけやすいだけじゃなくて、ただでさえ俺はあいつに目が行ってしまうから。
ヤバイ。あいつと一緒に居たら、あいつのことが気になって勉強にならない。
そう思って、図書室に逃げ込んできたのに見つかったら終わりだ。
瞬間、慌てて隠れようとしたけど、時すでに遅し。
ぱぁと明るくなったそいつ――那月はぶんぶんと手を振って、「翔ちゃ〜ん!」といつものように声を上げて駆け寄ってくる。
「しっ!静かにしろ!」
慌てて人差し指を立てると、一瞬ビクッとした那月は俺と同じように人差し指を立てた。
「よくここが分かったな。俺様に用でもあるのか?」
観念して小声で話しかけながら、脚立を掴む。脚立、と言っても、小さな階段のようになっているタイプで、キャスターがついているものだ。
「うん。女の子の格好してるって聞いたから……でも、もう止めちゃったんですか?」
「は?」
そんなもんした覚えもないのに、何言ってんだ。
「止めるも何も、女装なんかしてねえぞ。誰が言ったんだ」
ころころと小さな階段を移動させて通路に入ってくと、がっかりした様子の那月が後ろからついてくる。
「ええと、名前は分かりません。『さっき翔子ちゃんがスカート翻して図書室入ってったぞー』って教えてくれた人がいて、飛んできたんです!」
誰が翔子ちゃんだ、誰が。
「あ、そう…。からかわれたんだろ。ったく、本気にしてんなよな〜」
「本当かどうかはいいんです。もちろんひらひらしたお洋服を着た翔ちゃんも見たいけど、僕はただ、翔ちゃんに会いたかったから」
そう言われた瞬間、今度は俺がビクつくようにして足が止まってしまった。
静かなはずの図書室が、自分の鼓動の音でいっぱいに満たされていく。
那月と付き合うようになってからの方が男同士というのもあってか、こそばゆくて全然慣れなくて不自然なほど自分を保てない。
「翔ちゃん、耳まで赤く染まってますよ?」
背後から直接、耳に吹き込まれた、からかうような、それでいて低めの声音にまた更にビクついた。
「あぁ、こんなところまで…桜色に」
言いながら、うなじの辺りに触れられて、慌てて飛び退いて耳を抑えた。次いで、那月の手から逃れるように振り返れば、当然ながら那月と目が合う。付き合うようになってから那月が時折見せるようになった、その、目を細めて微笑む姿に耐性がなくて、その瞬間、血が昇るように顔が火照り、言いようのない感情に口を開閉させた。
俺にはそれが、何か悪戯がしたいと言っているような表情に見えてしまうんだ。
だって、そんなときは大概、何かを企んでいるときで…。
「……お、遅くなるかもしんねえし、先に寮に帰ってろよな」
那月が何か行動を起こす前に先手を打って、小さな階段に足を掛けた。
「お勉強なら僕も一緒にします。何のお勉強するの?」
「ダンスだけど…お前が居ると集中できねえんだよなー」
三段しかない階段の最上階に登って、読みたかった本へと手を伸ばす。
「ふふ、僕が気になっちゃいますか?」
那月の言葉に呆気に取られて、手から滑り落ちた本が大きな金音を立てた。
うわ、っと思わず飛び退こうとして階段の上だったせいで足場がなくてよろけた。ただ、よろけただけなら、飛び降りて着地ぐらい出来そうだけど、足が階段の取っ手のようなところに引っかかって、それはかなわなかった。
どうにかこうにか、ぐらつく体でバランスを取ろうとする手を那月に引っ張り込まれてしまう。
「ちょっ」
俺の胸の辺りに那月の顔が埋まって、そこから那月はもぞもぞと顔を上げた。
「大丈夫…?」
ぎゅっと抱きしめられて身動きが出来ない以外は、何も問題がなさそうだった。
あぁ、問題があるとすれば、この煩い心臓の音を那月に聴かれてるって…。
「俺は大丈夫だから降ろせ!今すぐ降ろせ!」
「翔ちゃん、図書館では大きなお声出しちゃダメ、だよ?」
黒くも見えるその笑顔に口元を押さえるハメになるなんて、想像通り過ぎて図書室には近づかないようにしようと心に決めたのだった。
2012/08/17 執筆13/03/18〜19 [目次]
「翔ちゃん翔ちゃん!」
机にしがみつくように課題をこなしていると、那月が背後から楽しそうに声を掛けてきた。
こういうときの那月は何かよからぬことを考えていることが多い。
例えば、お菓子を作ってきたとか、女装とか女装とか。
生返事をしつつ、耳を傾けると、俺の想像とは違う返事が返ってきた。
「あのね、オレンジジュースの種類って何があるか知ってる?」
ほっとしながらも、那月の声のトーンが高いままで、変に思いながら振り返る。
「種類って、商品名ってことか?」
那月は机の隣にある俺のベッドに腰掛けながら、「そうです!」と人差し指を立てた。
「つっても俺もあんま知らねえな。Qooとか、バヤリース?ファンタのやつもあるよな…」
商品名を答えるたびに那月の表情がぶすっと不満そうな顔に変わっていって、那月の意図が分かってしまった。
少しの間を溜めて思い出したように呟く。
「あぁ、あと……」
期待の眼差しで見つめる那月を横目に別の答えを用意する。
「ポンジュース」
途端に不満気な顔に戻ってしまう那月に、「しゃーねーなぁ」と呟きながら頭を掻いた。
「1回だけだぞ」
「は、はい!」
何がそんなに嬉しいの分からないけど、飛び上がるようにしてぱぁと笑顔になった那月にどぎまぎした。
そのせいで、急に恥ずかしくなってきて、息を呑む。
「…な、…なっちゃん」
「わぁ、ありがとう翔ちゃん!だいすき!」
漏れた声は小さくて、完全に上擦ってしまって余計に恥ずかしかった。
ただのオレンジジュースだって分かってるけど、そういう風に期待されてしまうと仕方ねえって!
那月はことあるごとに「なっちゃん」って呼ばせようとしてくるし!
そう自分を納得させていると、那月がふいに携帯電話を取り出して何かを操作すると、連続で聞こえてくる自分の声に驚いて、次いで真っ赤になって飛び掛った。
「お前えええ消せえええええ」
2012/08/15 改稿13/03/11 [目次]