ショートストーリー 02

ここはブログやツイッターで書いた小話、単発ネタなどをSSにして載せていくページです。
前に一度読んだことある話ばかりかもしれないし、表に出してないボツになった小ネタがあるかもしれない。
まずは補足説明などよく読んでから、読みたい話の題名をクリックしてください。

今宵は全てを仮面の中へnew
那翔。マスカレから妄想。シーノと怪盗ユイ(女装)
四ノ宮那月プロデューススイーツ、四ノ宮那月本人と来栖翔による対談レポートnew
那翔。雑誌の取材を受ける2人。
MOON STONEシリーズ「Fireworks display」のボツカットですが、一応作品との関連性はあります。
アイスが溶けるたびにnew
那翔。アイスちゅっちゅ。R-15?
MOON STONEシリーズ「後編」のボツカットからお蔵出しですが、「後編」に関連性はなく、どちらかというと「もいすすん そくすにとかもちと」を書くときに影響したお話。
勇者番号45番
那翔で戦勇パロ。完全なる下ネタ。漫画で描こうとしてたやつをSSに。
マジラブ2000%
トキ音メイン(音也視点)に、レンマサ・那翔要素有り。ダンスの練習中のできごと。完全なる下ネタ。R-15?
マジラブLive
音翔的だけど、トキ音と那翔でレン→マサ。ライブステージの演出を相談している話。アニメベースで、リピネタバレ有り。かなり前に描いたネームをSSにしてみた。

基本的に新しいものが上です。

今宵は全てを仮面の中へ

「こんな可愛いお顔を忘れられるわけ、ないでしょう?それとも、あなたはこんな仮面なんかで僕が分からなくなってしまうんですか?」
仮面から覗く大きな瞳が僅かに見開かれ、睨みつけるようにキッと目が細められる。
以前見たその瞳と同じ蒼が警戒心で揺れて、僕の手を振り解こうと力が加わっていく。夜空に消えてしまうこの小さな怪盗さんは意外に力が強い。強引に手の平を握りこんでみると、彼女がつけていた薄いレースのグローブがぴりりと破けてしまった。
「ごめんなさい。わざとじゃないんです。あぁ……そんなに睨まないでください。そんなお顔をされたら、今……ここで、あなたをあられもない姿にしてしまいたくなってしまう。僕を、イケナイおまわりさんにしないで」
謝りながらも、力を緩めることはしない。僕からこの手を離すわけにはいかないんだ。

2014/01/03  [目次]
ブログに貼ったSSです。

四ノ宮那月プロデューススイーツ、四ノ宮那月本人と来栖翔による対談レポート

8月中旬。
その日は前々から那月がプロデュースしているスイーツの新作に、俺と那月が対談形式でグルメレポートをするという雑誌の取材だった。
取材の前に渡された衣装に首を傾げながらも着替えを済ませ、部屋を移動する。
洋菓子店のテラスのように組まれたセットに、白の丸いテーブルと白のガーデンチェア。
雑誌の記者に挨拶を交わし、軽い打ち合わせのあとに対談がスタートした。
「四ノ宮さんのご実家は北海道にある牧場なんですよね?それで、今日はそんな格好を?」
「ええ、とても懐かしいです。僕はどちらかというと実家ではオーバーオールをよく着ていたんですけど、こっちの方が牧場主のイメージがあるらしくて」
そういう那月の衣装は、カーキ色のつなぎ服で那月が描いたと思われるウシの絵がプリントされた紺色のエプロンに長靴まで履かされている。写真も撮るし雑誌映えする衣装の方がいいんだけど、あえてそうしたのには那月がプロデュースしたスイーツに関係があるからだった。
「どっちにしろ那月は違和感ないな。俺たちが通ってた早乙女学園にはなぜか羊が放牧されててさ。その群れの中に立ってる那月があんまりにも馴染んでて、実家ではこんな風なのかなって思ってたから」
「よく動物との共演をされているので目に浮かびますね。来栖さんは四ノ宮さんのご実家――四ノ宮牧場さんに行ったことは?」
「まだないよな」
隣に座る那月を見上げれば、那月は苦笑する。
「翔ちゃんどころか僕自身もこちらの仕事関係で行く予定がなければ、なかなか足を伸ばせる機会がないんですよ。日帰りで行ける距離ではないですから。でも、実家の牛乳やこの前プロデュースしたプリンもそうですけど、向こうで身近だったものをこっちでも食べられたり飲めたりできるのは懐かしくて嬉しいですね」
「それは分かる気がするな。逆の話になっちまうんだけど、地元では当たり前に売ってる食べ物がこっちにはなかったりして、え!?って」
「つけてみそかけてみそ?」
那月が言ったそれは、俺の地元――愛知では普通にどこの家にもある調味料で、マヨネーズのようなチューブタイプに入った味噌のことだ。
「そうそう。学園にあるサオトメートにはなかったからなー大きなスーパーには売ってることもあるぜって喋っておいてなんだけど、この辺カットされそうだな」
すみません、と謝って、話題を変えるついでにずっと気になっていたことを聞くことにする。
「あー…あのさ、そろそろ聞いていい?何で俺はこの衣装を渡されたのかサッパリわかんねえんだけど」
頭には俺が普段被っているものとは全く形の違う、白くて長いコック帽。服も同様に白く、ところどころにピンクのライン、袖は5分袖ぐらいでボタンが前に2つずつついている。極めつけは、スカーフ――ネッカチーフというらしい――を首に巻いている。色はこれまた俺のイメージが、と切なくなるようなピンクだ。それをスタイリストにふんわりとさせつつ、ネクタイのように締められてパッと見は見事にパティシエ風になっている。
「さっきも言ったでしょう?翔ちゃんに似合いそうだなって思ったからです!」
その言葉に記者も相槌を打つ。
「四ノ宮さんはよくスイーツを作られるそうですが、来栖さんは作られたことはありますか?」
なんでパティシエの格好をさせられたのが曖昧なまま、また話が変わってしまった。
話題性?
「んー那月が作ってるときに後は俺が作ってやるからーって、レシピ見ながら作ったことがあるぐらいかな」
「それはどうして?」
記者は理由を知ってるだろうけど、苦笑してさらっと流す。
「察してください」
三途の川が見えるぐらい超絶不味いから、なんてプロデュースしたスイーツのマイナスにしかならない。
那月だってレシピ通りに作ることさえ出来れば、そこそこ食えるもんになるんだし、紅茶の美味しい入れ方のように「決まりごと」をしっかり守ればいいのに。
「たまーにメガネを外されちゃうこともあるんですよぉ。僕は目が悪いので、続きを断念するしかなくなるんです。それで、いつの間にかお菓子が出来てて」
まさか砂月が出てきてレシピを見ながら一緒に作ったとか、俺が作ってる間に砂月に時間を潰してもらったとか、時間がないときはケーキを買ってきてごまかしたなんてここでは言えない。
那月は俺や砂月が作ったことを知ってるから、那月の言ったことはフェイクだ。
そうこうしているうちに那月は俺との時間が減ると学んだのか、俺がいるときにはほとんどキッチンに立たなくなってしまって、そのせいで俺が居ない間に作ったらしいお菓子を出されることがあって、あの作戦は失敗したな、と後悔している。
まぁ、最近は忙しくてそういうこと自体もないんだけど。
「そのお味のほうはいかがでしたか?」
「美味しかったですよ〜翔ちゃんは男気全開を心情としていますから、意外かもしれませんが実は翔ちゃんもお料理上手なんです」
「も、ってそこに自分も含めてんじゃねえだろうな!?」
「もちろんですよ?愛情をたーっぷり込めたお料理は美味しいじゃないですか」
顔をしかめると、記者がくすくすと笑みを零した。
「なるほど。スイーツをプロデュースしようと思ったきっかけはそのお菓子作りから…?」
「よく作っていたのは確かですけど、きっかけはやっぱり、こっちにやってきて新しい生活をするうちに、どうしても実家が恋しくなる時期ってあるじゃないですか。そんなときに実家から食材が送られてきて、ほっとしたというか、癒されたんですよ。それで僕を応援してくれるみんなに、この気持ちを共有してもらいたいなって思って……それがたまたまスイーツにピッタリだったんです」
「女性ファンにはたまらないですよね。早速、召し上がっていただこうと思います」
前に出した『モーーーリッチプリン』と、新作の『モーーーリッチアイスケーキ』がテーブルに用意される。
プリンは食べたことがあって、口の中で蕩けるようになめらかで、牛乳の濃厚な味が美味しく、カラメルも甘味のほうが強かったような気がする。
どうしても女のファンが多いし、その関係で調節してるのかもしれない。
そうして、談笑しつつ順調に仕事を終わらせることが出来た。
気が早いけど、秋か冬にはチーズケーキを出したいと那月が言っていた。

2013/04/26〜05/10  [目次]
蛇足かな〜と思ってカットしただけなので、実際にこんな感じのレポをしていました。

アイスが溶けるたびに

6月も下旬に差し掛かって、暑くなり始めると共に沖縄の方で台風の話を聞くようになり、梅雨の時期がもうそこまで迫っているんだと、どことなくじめっとした空気が教えてくる。
カラッとした夏は好きでも、その前の梅雨はうじうじした感じがして好きになれないから、冷たいアイスで気分をすっきりさせたくなる。
「那月も食うかー?アイスー」
冷凍庫からアイスを取り出しながら那月に声を掛ければ、振り返った那月はぱぁっと笑顔になって、冷凍庫を覗きに来た。中にはチョコでコーティングされたバニラアイスや、濃厚なバニラアイス、イチゴのシャーベットの中に練乳が入っている棒アイスなどが入っている。
「わぁたくさん!僕も翔ちゃんと同じの!」
「ほい、バニラな」
「やっぱこっち!」
すっと那月の手が伸びてきて練乳が入っているシャーベットを取った。
そのまま袋から取り出してぱくっとかぶりつく。那月が選んだのはシャーベットがざくざくとした食感で、イチゴのシロップに練乳をかけたようなカキ氷に近い。
「ん〜甘くておいしいです!」
相槌を打ちながらソファに腰掛ければ、那月も嬉しそうに隣に座る。
那月の方にも風がいくようにうちわで扇ぎながら、垂れそうになるアイスを舐め取る。
牛乳やヨーグルトなんかの乳製品が好きなのもあって、俺は濃いめのバニラが好きだ。甘いのに喉の奥が辛くなってくるような、そんな濃厚さ。
「ねえ、翔ちゃんのもちょうだい」
「ほれ。お前のも――」
持っていたアイスを差し出しながら少し那月に寄れば、言いかけた言葉を那月に強引に塞がれてしまう。アイスにかぶりつくときと同じような深いキス。
舌先に残るバニラを絡め取るように重ねて舐められると、シャーベットのイチゴと練乳の味も口に広がって、冷たくて、でも熱くて力が抜けてしまいそうだ。那月がそのまま体重をかけてきて、ソファに凭れるとずるっとずれて押し倒される形になってしまう。
手に持ったアイスが溶けて指に伝わってきたかと思えば、那月の持っていたシャーベットがぼとりと俺の上に落ちた。
「んんっ…」
襟首が開いたTシャツだったせいで、首や鎖骨の辺りに落ちたそのシャーベットの冷たさに、那月の体を押し返せば、那月は名残惜しそうにちゅっと音を立てて唇から離れていく。
浅くなっていた息を大きく吐いて、自分の上に落ちたシャーベットに目をやる。
「あーあ…那月、ティッシュかなんか取って」
自分の溶け始めていたバニラを舐めながら、体を起こそうとすれば那月と目が合って、とんっと体を倒される。
「…翔ちゃん、おいしそう」
げんなりすると同時に、どくんと心臓が跳ねた。
「んなわけ…ねえだろ…退けって」
どぎまぎしつつそう言えば、那月が微笑んだ。
「…かわいい。どうして照れてるの…?」
自分でも何を考えていたのか気づかないフリをしようとしてるのに、聞かれてしまうとはっきりと頭の中にそのことが浮かんできて、どうしようもなくなってしまう。
「……照れてねえし」
そうして、だんだん耳まで熱くなってきて顔を背けてしまった。
「ふふっ想像しちゃったんでしょう?それとも…」
鎖骨に落ちて溶けてきたシャーベットを那月が舐めてきて、肩がびくっと跳ねる。
「…僕としたときのこと思い出した?」
想像も、思い出しもした。那月と居るだけでそういう気分になりやすいのは年頃だから、なんて言葉で片付けられないほど那月のことが強く好きだからだ。
「やかましい!そういうこと聞くな!」
那月の下から出よう暴れれば、手首を掴まれて指についたバニラを舐められてしまう。那月の舌が手の平にまで降りてきて、そこからぞくぞくとしたものが駆け巡ってきて、更に顔を熱くさせる。
「教えてくれるまで、離してあ〜げない」
その言葉通り、那月は全然離してくれなくて最後は熱に浮かされたまま言わされてしまった。
お前が好きなんだから仕方ないだろって、そんなことで喜んでくれる那月がまた愛しかった。

2012/06/12  [目次]
ほかにも遊園地で着ぐるみを着て悪戦苦闘する那翔ちゃんの長いボツカットがあるのですが、それはお蔵入りです。

勇者番号45番

「世界に穴が開いた」という噂は本当だったのか、魔王討伐のために俺様を頼って王から呼び出しがあった。
その未開封の通達を持って、俺は急いで那月の家に駆け込んだ。
「俺、勇者に選ばれた!!」
「ほんとですかぁ!?見せて見せて!」
「あ、ちょ!」
言いながら、那月は手紙を俺から取り上げて、俺に見せないように高い位置に掲げて、くるくると逃げながら先に読んで行ってしまう。
「こら、俺のだぞ!まだ読んでねえんだから!」
何度か飛び跳ねていると、那月は弾かれたように俺の肩を揺すって顔を覗き込んでくる。
がくがくと揺すられて頭が痛い。
「翔ちゃんって勇者さんの子孫だったんですか!?」
「へ?」
問われて、内容を見てみれば『勇者の子孫である来栖翔殿には魔王討伐――』などと書かれてあった。
「……聞いたことねえな。本当に勇者の子孫だったら、伝説とかありそうなもんなのにちっともねえし」
「じゃあ、遠い親戚なのかもしれませんね〜」
「かもなーまあ、俺様を頼ってくるぐらいだから、今の王様は見込みあるぜ!」
腰に手を当てて胸を張ると、那月がそっと抱き寄せて来て何かと思ったら、那月の顔が眼前にあって目をぱちくりさせた。
「な、なに!?」
「自信満々ですね、翔ちゃん。でも、僕はとても心配です…」
「心配することなんかねえよ。俺には空手があるし」
「はい、確かに翔ちゃんは空手の有段者です。だけど、触れない魔物が現れたらどうするんですか?手が溶けちゃったら、僕…」
指を絡めるように手を取られて、近づいてくる真剣な瞳に頬が熱くなる。
「も、もちろん剣を帯刀して行くから」
「僕も連れて行ってください」
有無を言わさない強い眼差しから視線を逸らせない。
そうこうしているうちに、那月の手が腰にお尻へと伸びてきて、ぞくっと身震いした。
「あ、遊びじゃねえんだぞ!」
次いで降り注ぐ頬へのキスに那月の顔を押し返して抵抗を試みるけれど、昔から俺の力じゃ那月には適わないのだ。
「分かってます。翔ちゃん、僕を翔ちゃんの戦士にしてください。そうすれば、翔ちゃんはほかの戦士さんを雇う必要が、ないでしょう?」
心臓が跳ねた。
那月は俺を独占したがる。
もちろん俺のことを心配しているのも本心なんだろうけど、それ以上に、自分以外の誰かと居ることを許さないと訴えているようだった。
那月を怪我させたくないけど、正直、俺より強いのは確かだから戦力になるのは間違いない。
「…わ、分かったから、離せ」
ぱっと笑顔になって那月が体を離してくれた。
「頑張りましょうね!翔ちゃん!」
「おうともよ!」

そうして、俺たちは王城へと赴いたわけだが…。
わらわらと王城内に群れを作る人の多さに何事かと思って話を聞いてみると、ほとんどが勇者の子孫だとかなんとか。王宮戦士も多く混じってるけど、子孫かどうかはともかく、手当たり次第に手紙を出したんじゃないか、と噂になっていた。
通りで家に言い伝えとかなかったはずだ。
「拍子抜けしたかも…」
「翔ちゃん、翔ちゃん!翔ちゃんの勇者番号45番だって!」
ぽかーんとしている間に、那月が番号札を持って戻ってきた。
「お、おう……なんでそんな喜んでんのかわかんねえけど良かったな?」
勇者が一人なら必然的に1番になるのだから、この人数を見たあとでは、1番じゃないのか、とは思わなかった。
「ええ〜翔ちゃんわからないんですかぁ?45番ですよぉ、45番」
にこにこと振りまかれる笑顔がどこか怖い気がするのは気のせいか。
「…は?それが何なんだよ」
むしろ、お前はちゃんと戦士として登録できたのか?
そう聞こうと思ったのに、那月がしゃがんで耳打ちしてきた内容に耳が真っ赤になる。
――だから、今日は僕がしこしこしてあげる。
「…っ!?ば、ばかいってんじゃねえよ!!」

2013/03/04  改稿2013/04/10  [目次]
作品名の戦×勇といい、狙ってるとしか思えないよね?(開き直り)

マジラブ2000%

俺たちは前面が鏡張りのレッスン室で振付師の人に新曲のダンスを指導してもらうことになった。
自分のパートがどこかは曲を掛けてればすぐ分かるけど、そのパートに入った瞬間「わぁ〜」と思わず声が上がった。重なるように翔の「ちょ、なにあれ、やりすぎじゃね?」という声と、「翔ちゃんお顔真っ赤です」という那月の声。レンは口笛を吹いて「すごく大胆で素敵だ」と頷き、すかさず「こんな感じかな?」と真似をする。それを見たマサが「けしからん」と呟いて、トキヤが「あれを音也がするのですか?」と怪訝な顔をしていた。セシルは少し驚いた表情で照れ気味にブラボーと拍手を送った。
それからの振り付けにも驚きつつ、振り付けを覚えるのに四苦八苦しながら、その日は解散することになった。

一日3時間のダンスレッスンが続き、俺としては一生懸命踊っているのに、前で踊る二人を見ていて自分の振りが甘いことに気づいた。
レンの腰つきには色気があって、那月はひたすら楽しそうに腰を振る。
俺の振りはどっちも違っていて、自分でも気づかないぐらいのちょっとした照れが入っているのか控えめに見えた。
あの振り自体が、それっぽさを連想させるのはあるから仕方ないかもだけど、俺はレンと那月に思い切って聞いてみた。
「ねえねえ、どうやったらそんなセクシーに振れるの?」
「おや、イッキ、どうやったらってそんなの簡単だよ。なぁ、シノミー?」
「はい、これにはとーっても分かりやすいコツがあるんです!」
那月がにっこりと微笑んで、人差し指を立てる。
「分かりやすいって言われても、全然分かんないよ、俺」
「目の前に好きな人がいるのを思い浮かべるだけですよぉ」
「……それってやっぱり…」
想像通りの返答にレンは笑ってから、少し考えるように顎に手を置いた。
「実際そのほうが俺たちにとっては分かりやすいんだけど、確かイッキは女性役――」
「わ、わ〜っ!!」
慌ててレンの口を手で塞ぐと、トキヤやマサなんかのほかのメンバーが何事かとこっちを振り向いた。
「どうせ、神宮寺がよからぬことを言ったんだろう」
「ええ、そうでしょうね」
二人は聞こえるように言ってるとしか思えなかったけど、レンはマサがいったような、何かよからぬことを企んでいそうな含み笑いを浮かべた。
翔はセシルにバク転の仕方を教えているようで、そこに那月が話しかけに行ってしまった。
セシルのダンスにバク転は入ってないけど、俺もまだ出来なかったとき、翔と必死に練習したっけなぁ。
「……イッキ、イッチーはさっきからあいつとのパートを練習中みたいだね」
「うん、あのダンス、心臓に悪いよね」
くねくねと滑らかに動く腰に、振られるきゅっとしまったお尻。
トキヤは神経質すぎるほど、体型維持に気を使っているし、恋人となれば釘付けになっても仕方ないと思う。
「イッキはあれを見て、イッチーに挿れたいって思わないのかな?」
唐突に振られた言葉に、ぶっと噴出した。
いれる!?いれるって、トキヤが女役ってこと!?
「……そ、そりゃあ、付き合い始めの頃はどっちがどっちかで揉めたこともあるけど」
「と、いうことはだ、挿れたいって思ったことはあるんだ」
レンはにたり、と笑う。
「まぁ、俺だって男だからね〜」
だからと言って、俺より体力がないトキヤを無理させるわけにはいかないし、なんとなく今の形に落ち着いてしまっている。
「じゃあ、簡単じゃないか。イメージだよ。想像してみるんだ、あの腰つきに男心をくすぐるものがあるだろう?」
俺が、トキヤに挿れる…。
そう思った瞬間、自分の腰が勝手に動いてしまう。
「こんな感じ…?」
「うん、よくなってきたよ。あ、そうそう……」
――鏡を置いて、イッチーの腰振りがどんなものか見てみるのも、アリかもしれないよ。
耳元でぼそりと告げられた言葉に、俺はたまらず叫んだ。
「レンってばいつもそんなこと考えてるの!?」
レンは心外だな、とくつくつと笑い声を響かせた。

執筆2013/04/06〜07  [目次]
そんなこんなで、マジラブ2000%の音也はトキヤを想像しながら感じてるような表情を浮かべているのだと思いました、作文。

マジラブLive

これは彼らが「ST☆RISH」として、行うライブの演出を相談していたときの話である。

上下変動式の床から登場する演出やゴンドラに乗って会場を一周する演出、舞台にお城を作って会場の観客たちにプリンセスのような気分を味わってもらおうなどという、様々な仕掛けやエフェクトを紹介・提案され、そのどれもがやれるならいいけれど、新人アイドルなため、どれが効果的なのかあまり想像がつかない彼らは厳選に困っていた。
社長はとにかく大々的な演出に拘っていて「費用を気にする必要はアリマセーン」と寛容だったが、事務所の経理を任されている、彼らの教師だった日向龍也の渋そうな顔を見れば、それも阻まれるというものだった。

実際に使うスタジオを借りて相談しようにも、スタジオは常に予定が埋まっているのもあり、軽い設備が整っている学園内の体育館での相談だった。
「俺はやっぱり出来るだけ、あっちこっち走って行って会場を盛り上げたいなぁ。それがライブ!って感じがするし」
「俺もそれはやりたいっつーか、自然と体が動いちゃいそうだよな!」
音也が何気なく言った言葉に翔が頷き、資料と向き合っていたトキヤが冷静に指摘する。
「それはセットを使った演出とは別の話だと思いますが」
最年少二人はうーんと、唸りながらしかめっ面になっていて、真斗がフォローを入れる。
「そうだな。セットを使って会場の隅々まで行く、というのなら、ゴンドラに乗るというのはどうだ?」
その提案に、二人は見るからに眉間の皺を深くし、否定しようとする間もなく那月が賛同した。
「僕もゴンドラに乗ってみたいです!高いところからの眺めは、みんなが振ってくれるサイリウムがお星様みたいにきらきらしてきっと素敵だと思います」
「それはシノミーが想像しているような、ワイヤーでぶら下がるタイプのゴンドラ?それとも、支柱の上にあるボックスタイプのゴンドラなのかな?」
レンの疑問には、資料の束を持つトキヤが答える。
「ライブスタジオでは後者がほとんどだったと思いますが」
「だとすると、ちょっと低めになっちゃいますねぇ」
残念そうにする那月に、レンは笑う。
「俺としては、レディたちの表情が分かるぐらい近くでパフォーマンスできれば、それでいいんだけどね」
「「俺も、俺も」」
大きく頷くようにレンの言葉に身を乗り出した、音也と翔は真似するなよな!そっちこそ!と言い合った。
そんな二人の様子にレンは内心首を傾げつつ、試しにと別の提案をしてみる。
「シノミーは高いところからの眺めを見てみたいようだし、イッキやおチビちゃんの提案も絡めると、ワイヤーアクションなんてどうかな?」
「わ、ワイヤー?」
素っ頓狂な声を上げる音也に最年少を除いた一同は不思議そうな顔をする。
そこに息を詰めるほど溜めりに溜めて、断言したのはその最年少だった。
「ぜ……ってえ、やだかんな!」
その言葉で、メンバーは翔にはある性癖があるのを思い出す。
彼は高所恐怖症だった。
それを克服しようと学園時代に一丸となって色々と試してみたことがあった。当時、トキヤはその場に居なかったが、あとから話で聞いてなんとなくは知っていた。
翔はそのとき、高所恐怖症になった原因を忘れてしまっていたこと以上に、恐怖を植えつけられたのだ。
本人にとっては、イジメにしか思えないその克服法とは、灯台のようなところから、強引にバンジージャンプをすることだった。現在の翔を見ての通り、当然というべきか、残念ながら克服には至らなかった。

「それでは翔ちゃん、もう一度、克服作戦しましょうか」
いつの間にか翔の体にワイヤーアクションの装備をつけていた那月は、にっこり微笑んだ。
「へ?」
「お願いしまーす!」
那月の掛け声で翔の体が浮き上がり、顔を青ざめさせた。
「ひぃいい、高い、たか、高いってば、下ろせ〜〜〜!!」
翔が闇雲に足をばたつかせ、ワイヤーが揺れ始める。
ついには自分の意思とは関係なく、体育館の端の方へと移動し始めるワイヤーに、全身から血の気が引くようだった。
呆然と翔を見ている音也の体には、初めに提案をしたレンがすかさず装備をつけていた。
高い位置からそれが見えていた翔は自分だけじゃなく、この恐怖をほかの誰かに味わってもらえれば、味方が出来ると考えて、あえてそれには触れなかった。
パチンと指を鳴らしたレンの合図で、音也のワイヤーが浮き上がる。
「え?え!?ちょっと、まって、何で俺まで〜!?うわぁああ!!」
音也は親友の一大事に可哀想と思いつつも、他人事を決め込んでいたせいか、自分が装備をつけられているとは全く気づかず、状況を把握できていなかった。
「な、こえええだろ、音也!ワ、イヤーは、なしに…しようぜ…」
途切れ途切れに声を掛ける翔に、音也は両手で顔を覆って、ただ叫ぶだけだった。
その様子に翔は目を丸くする。
「なに、おまえ、も、高いとこダメなのかよ!」
「そ、そうなんだよぉ…!」
余談だが、翔はアニメで、原作ゲームでは音也が高所恐怖症なのである。

「しょーちゃーん!眺めはどうですか〜!?」
両手を上げて、ぴょんぴょんと飛び跳ね、良心の呵責がなさそうな那月にレンは苦笑しつつも、どこか楽しげだった。
「シノミー、そんな余裕ないんじゃないかな」
「音也まで高所恐怖症だなんて……演出の幅が狭まりますね。先が思いやられます」
トキヤは頭を抱え、自身がHAYATOとして芸能活動をしていた経験を思い出す。
HAYATOはとにかく元気のいいキャラで、音也と似ているような面も多くあったと今なら思うけれど、そういうキャラこそ率先して色んなアクションに挑戦するべきだと思っている。
「ふむ…克服できぬのなら、出来るものでやるしかないが、幸い、あの二人は催眠術が効きやすそうだ」
「「えっ」」
真斗の言葉に、音也と翔の涙を浮かべた表情が強張った。
メンバーの一部を除いて、天然とは恐ろしいものだと思ったことだろう。

一頻り叫んだところで、下ろされた音也と翔は、地に座り込みながら、互いを抱きしめるように寄り添った。
「この鬼畜!!おまえら、高所恐怖症だって知ってるくせに!!」
若干震えている二人に那月とトキヤは思わず携帯電話を取り出してカメラを起動させる。
パシャ、パシャ、という音が響き、翔が音也の顔を隠すように自分よりも震えている肩を抱き寄せた。
「撮るな!オイ、音也だいじょうぶか?」
「わー翔、かっこいー」
二人の声は掠れて、上擦っている。
「……ったく、あんなんで治るんだったら高所恐怖症なんかなってねえっての」
「ホントだよね、翔に惚れちゃいそうだよ〜ごめん、もう大丈夫」
レンは予想以上に音也が怯えていることに悪いことをしたかな、と思いつつ、そんな二人のやり取りにぞくりと唆られる物を感じた。
「これは…」
涙を浮かべ、寄り添う最年少二人。
那月はいつものことだとしても、トキヤまでがカメラに収めようとするなど相当のことだった。
催眠術を使おうと言った真斗は微笑ましく見守っているだけに留まっている。

レンにとって余り者同士がくっつくというのは実に不快な話だが、真斗のことは少なからず面白いとは思っていて、それに甘んじるのも悪くないと思うこともある。
というのも、二人は幼少の頃からの付き合いもあり、当時にしてみれば慕ってくれる弟という可愛らしい面を多々見てきたから、そう思えるだけの話だった。
そんなレンはちらっと真斗を盗み見て、最初に思い浮かべたのは、真斗本人が出演している聖川財閥の警備システムのCM『愛のヘリ』だった。
真斗はヘリコプターからの縄梯子に掴まり、突風が荒ぶ中、アップになった真斗の表情は爽やかそのものだったと記憶に新しい。
ちなみに、これは原作ゲームでのCMだが、この際、無視するとしよう。
レンの視線に気づいた真斗が鋭い目を向ける。
「なんだ、貴様」
思い出したCMに、音也や翔のような様を期待するのは間違いだったとレンは首を振った。
「……なんでもないよ」

そんな真斗とレンのやり取りの横では、聞き逃すわけには行かないと、トキヤが音也に詰め寄っていた。
「音也、翔に惚れそうってどういうことなんですか?」
「ダメですよぉ、翔ちゃんは僕のです!」
「もちろん、あなたたちの関係を壊させるつもりはありませんから、安心してください。問題は、その軽はずみな発言なのであって……音也、聞いてるんですか?」
音也は苦く笑って否定する。
「トキヤが一番に決まってるよ〜」
一人納得したようにトキヤが「あたりまえです」と微笑みかけ、その一方では那月が翔を抱きしめ、その怪力じみた力で翔の骨をバキバキと鳴らした。
「いでででっ!那月、ギブギブ〜!!」
「怖かった?怖かったよね?僕というものがありながら、音也くんに抱きつくなんて…ごめんね、もう大丈夫ですよぉ」
「ぐふっ、今まさに死亡フラグ作ってんのはお前だー!!」

今日もST☆RISHは仲良しです。

2012/06/01  執筆2013/04/07  [目次]
1stライブのDVDでみゆきちがドームの上をぱかって開いて、ST☆RISHが登場するとかどう?みたいなこと言ってて、そういえば、高所恐怖症だったよな〜と思いついた話でした。
誰得ネームの一部がこちら