本能イコール 1話

砂那翔ですが今回はほぼ砂翔。オメガバース設定で翔ちゃんがオメガ(Ω)、四ノ宮がアルファ(α)です。小説内では記号ではなくカナ文字で表記しています。
オメガバースとは、性別の種類にアルファ、ベータ(β)、オメガがあり、アルファは優秀な遺伝子を持ち(人口の10%強で増加傾向)、ベータは普通の人で(人口の80%前後)、オメガ(人口の1〜3%)は男でも妊娠できるよ!って感じの世界線です。オメガは定期的に発情して発するフェロモンで、アルファを誘惑(時にはベータも)します。※人口設定はこの小説内においての漠然とした設定です。
小説内でもちょいちょい説明文入れてますが、詳しくはここを参考にしてみてください。
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
↓スクロールしてね↓

見間違いかと思った。
中学2年生になり、ほぼ毎日ある場所に通っていた俺はいつものようにそこに向かっていた。その途中、大通りの向こう側に噂や写真でしか知らなかったあいつを見かけた。
確かに明日はこの近くでヴァイオリンのコンクールがあったはずで、ホテルでも探しているのか、手に持ったメモを食い入るように見ては、不安げに辺りを見回している。
助けてやってもいいけど、と気軽に声を掛けるには距離が遠くて、信号を待つ間に近くの通行人が道案内を買って出たようだった。
「あー……まあ、いいか……」
俺には用のないコンクールで、住んでいる場所も世界も違うあいつ。一生関わらないだろうことを思えば、天才と謳われているあいつと少し話してみたかった、気はする。

そう思ったのは事実だけど、こんなところで会うなんて思わないし、こんなことになるなんて思いもしなかった。
「な、んで……」
見た目や性格、才能に惚れると言うのなら分かりやすくて自然だと思う。
だけど、そのどれもが直に認識するより早く、出逢うべくして出逢ったと本能が告げてくる。
オメガ総合施設――ここは男女それぞれに存在する性別アルファ、ベータ、オメガの中で希少とされる、オメガ性が定期的に通うことを義務付けられている施設だった。病院のように診察や経過を見てくれ、第二次性徴期前後は特に発情期についての知識や対策を学ぶ学校のような役目を担っていた。

血の気が引くように冷や汗が浮かぶのとは真逆で、急速に身体が発熱した。震えだした手や肩に顔が歪む。
あいつはあいつで待合室に足を踏み入れた瞬間、真っ直ぐこっちを見たかと思うとその白い顔を真っ赤にさせた。呼吸は荒く、口元を手で覆い、生理現象からか涙が滲んでいる。
は、……明日、コンクールだってのに、アルファ様は観光ついでにお見合いか。
この施設が作られたのは政府による少子化対策の一環だった。過去にオメガ性は虚弱体質で身体能力において劣等種とされてきた。しかし、食物が豊富に存在する現代においてその虚弱性は薄れ、妊娠しやすく出産に適したオメガ性を進化した人間であると認定したからだ。

小さな待合室には俺と同じくらいか年下のオメガがそれぞれ好きなように遊んでいて、自分たちだけが違う空間にいるかのように錯覚する。
遅れて異変に気づいたオメガたちが何事かと集まってきた。同様にまだ何も知らない年齢のオメガがあいつに近づくのが見えて、叫んだ。
「そ、いつに寄る、な……はぁ、はっ……」
叫んだつもりだった。掠れて震えた声は周りで心配する声に掻き消されてしまった。
オメガの発するフェロモンは対となるアルファ性の理性を奪い、情欲を誘発させる。第一にフェロモンを発するオメガが狙われるとされるが、理性を失っている場合はその限りではない。
今、この部屋に発情を抑える薬を持ち歩いているような歳のオメガは居ない。事が起こってから、すぐに先生を呼びに行ってくれたはずなのにまだ誰も来ていなかった。
政府はアルファとオメガの番を推奨している。発情期はまだ先だと診断されている俺と状況的に見て『運命の番』との接触で引き起こされた発情ならば、止める理由などないはずだった。
自分のフェロモンのせいで、同性が狙われるなんてごめんだ。
「俺が、囮になるから、」
心配するように取り囲んでいたオメガを背後に下がらせ、フラつく足で一歩踏み出せば、反対にあいつは一歩後ずさった。
その様子から過剰に警戒する必要はなかったのかもしれないと思った。だけど、対面する形になったせいで、体中を這うような強烈な視線にもうダメだった。
「ッ……」
腰が砕けて立ち上がれない。
無防備としか言いようのない状況で、あいつが襲ってこないことが不満に思えて仕方がなかった。
震える体で堪えるようにその場から微動だにしないあいつの反応が欲しくて、噂で一方的に知っている名を口にする。
「――お前、四ノ宮那月、だろ……?」
瞬間、ぞくぞくと身を縮ませるあいつに、少し子ども染みた優越感を覚えた。
「っはい……あなたに逢えて僕は嬉しいです。でも、ごめん、なさい……」
謝られた。どういう意味――。
なに、俺、もしかしてフラれた?
たぶん『運命の番』なのに?そんなことってあるのかよ。
「はは、マジでアルファって勝手だよな」
「……勝手に自己完結して敵意向けんなよ」
「……え?」
声質と口調が明らかに変わっていて、傍に膝をついたあいつの顔からはメガネが消えていた。
「番、結ぶ気あるんなら俺の手を取れ、チビ」
相手をどう思うか以前に『魂で結ばれた運命の番』ならば、それがオメガにとって最上の幸せなのだろうとその手を取った。

生まれた時から、そう刷り込まれているとも知らずに。

那月に連れていかれた所は施設内の個室で、施設同様に真っ白な部屋は病院によくあるパイプのベッドを一つ置くのに精一杯な狭さだった。ただ、病室とは違って、テレビや冷蔵庫もなければ棚すらもなかった。
ベッドから布団から何もかもが白い部屋にある色は、俺たち人間と枕元にある小さな木箱だけ。
「噂通り、味気ねえな」
「この部屋って……」
呟けば、那月はカーディガンを脱ぎながら襟元を緩めると薄く笑った。
「政府公認のラブホテル」
「ら、らぶ……」
オメガ総合施設はオメガにとって病院のようなものだけど、アルファにとっては結婚相談所と言われている。
まだ結婚できる年齢でなくても、若いうちからパートナーを探しているアルファが急増しているためだ。
これから番を結ぶのかと思うと余計に体が熱くなってきた。
ズキズキと痛むそこをどうにかしようとベッドに腰掛け、ズボンの中に手を突っ込んだ。下着はすでに濡れていて、先がもたげることなく上向いている。皮から少しだけ顔を出している敏感なところに触れれば、それだけで粘り気が増して気持ちが良かった。
「はぁっ……」
「一人で始めんな」
那月は隣に腰掛けながら、覗き込むように肩を寄せてくる。
「……我慢、できね……」
すごく変な気持ちだった。講義で性的な知識に慣れているとは言っても、テレビでエッチなシーンが流れただけで番組を変えるぐらいにはこういうことは苦手だった。
それなのに、隣に人がいるのに自分で弄るだけじゃなくて、触って欲しくて仕方がなかった。初対面の相手に頼むのはおかしいと思う反面、番になれるという安心感が大きくて。
「な、なあ、お前が、シてくれたら……もっと気持ちい気がする」
瞬間、ベッドに押し倒されていた。そのまま、腰を突き出すように四つん這いにさせられたかと思うと、ずるりとズボンと下着が下ろされてしまう。
「あ、ぅ、も、もういれんのか……?俺、初めてだから、その」
「もう喋るな」
後頭部を押さえつけられて枕に顔が埋まる。抵抗する間もなく、熱いものが秘部に宛がわれてそれだけで歓喜に体が打ち震えた。
「え、……あっ、んんっ」
発情しているオメガは性を受け入れるとき、分泌される体液で抵抗がほぼないと教えられたことがある。
実際に滑りは良いらしく痛いどころか、快楽が荒々しく駆け巡る。想像していたよりも大きいそれは圧迫感がすごくて、逆にそれがアルファに蹂躙されているという興奮を体に及ぼした。
「――っ」
昂る熱からの解放に余韻に浸る暇もなく、那月が動いた。
「あぅ、やぁっ、あ……あん、やっ、んんんっ」
中を突かれるたび、声が漏れてしまうのが気に食わないのか、手で口を塞がれてしまう。
「んんぅ、はあ、んっ、」
「っ声……抑えろ」
性急過ぎる律動に伴って響くえぐいほどの淫猥な水音と、乱れる呼吸で掠れる声が聞き取り辛い。
気持ちいい気がする、なんてもんじゃない。頭が痺れておかしくなりそうだった。
息苦しいのもあって、身をよじりながらなんとか手から逃れれば、弾かれるように声が溢れ出した。
「やぁあぁぁ……また、ぁっああ出る――んっ」
首を捻るように後ろを向かされて、声を塞ぐように唇が重なった。
俺が熱を吐き出している間も遠慮なく打ち付けてくる腰に、これがフェロモンに中てられたアルファの欲なのかと思うとなんだか愛しくも可哀想に感じた。
「んむ……俺の声、うるさい?」
「逆だ。聞いてるとタガが外れる」
……これで、我慢してるつもりなのかよ。
「あんっ、あ、外れたら、どうなんの……」
興味本位だった。そんなの分からないと返ってくると思ったのに、那月は一層声を枯らして口元を引きつらせた。
「ここに、痕つけちまいそうだ」
ここ、と言いながら触れた場所は俺のなけなしの性器だった。
番はオメガの発情中にアルファが噛み痕を残せば成立する。場所はうなじが一般的と言われているが、近年ではアルファが痕をつけたいと強く思った場所がうなじに集中しているだけという説が有力らしい。
瞬時に唇を引き結んで、自分でも手で口を押さえると那月は最奥まで入ってくると同時、ぶつりと聞こえるような痛みが耳に走った。
「っく……」
呻き声と共に那月が中で脈打つのを感じて、勝手に涙が滲んできた。
「……番になれてうれしい」
「うまく、いけばいいがな」
失敗例なんて聞いたことがない。
変なことを言うやつだと、このときの俺はぼんやりと思っていた。

2話 >>



-----

オメガバースの最初の走りだけですが、何もアップしないのは流石にどうかと思ったのであげておきます。
誕生日おめでとう…!(更新日6/9)
ちなみにさっちゃんがつけた噛み痕は耳の裏の硬いところです。
執筆2016/05/02〜3