ほぼ龍翔で全編と同じく翔受けです。
※遊郭のお話上、最終的に腰を据えるのは四ノ翔になりますのでご注意ください。
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
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「ここのところお前に乗り換える客が増え始めた。何か余計なことしてるんじゃないだろうな」
楼主に呼び出されて何かと思えば。
俺のほとんどの馴染みは俺を浮気相手として軽く見ているし、俺は人のを取ろうと思ったことはなかった。来るもの拒まず、なだけだ。
「何かの間違いじゃ……」
「ふん、猫のくせに一人に対しての時間が長い。だが、猫の役目は適度に媚を売って脚を開くことだろう」
確かに、あの一件から発情が落ち着いていくほどに、勃ちはしても達することの出来ない自身にごまかしが効かなくなっていた俺は、自分には向かないと思っていたレンと過ごす時間のような言葉遊びで戯れるようになっていた。
前までは何かを考える余裕もなく相手を求めていればあっという間に日々が過ぎ去ると思っていたし、発情を知ってそんな駆け引きなんて必要ないと思ってしまったから。
「でも、みんな俺と話すの楽しいって――」
「口答えするな。日向、わかってるだろうな」
鞭を構えた楼主に、咄嗟に龍也さんの前に立ちふさがった。
俺に乗り換えてるのが本当なら、今まで本命と過ごしたあとに俺の部屋に寄っていた客から二重に取れなくなったということだ。
「待って!ごめんなさい、俺が悪いんです。もっと頑張る、がんばるから、許して」
背後から聞こえた龍也さんの溜め息に肩がビクつく。
「お前は悪くねえんだ」
そう言って、龍也さんは俺の部屋まで運ぶと俺を組み敷いた。
うつ伏せで顔を見ないようにさせられて、いつもと同じように布を口に詰められて。
「いいか、俺だと思うな。客だと思え」
「ん――!」
何が起こっているのか分からないまま、香油に浸した龍也さんの指がぬるりと中に入ってきて、懐かしいそれに体が強張る。
そんな男らしい指をした客なんて一人も居ないのに無理だ。
いくら俺がねだったところで龍也さんは何もしてくれなくて諦めたのに、なんで今になって。
前には触れず、一本の指でじれったく解しながら、いいところに掠っただけで背筋が反れ、尻尾がびくんと揺れてしまう。
熱が宿る体にシーツを掴んで突っ伏した。縛られているわけじゃないから、口に詰められた布を出そうと思えば出せるのに、そうしないのは抑えきれない声が出そうだから。もっと、してって。
指を抜いて欲しい、奥まで入れて欲しい、そのどっちもが俺の気持ちなのに、それは体が辛いからそうして欲しいのか、龍也さんだからそうして欲しいのか。
あぁ、そうか、俺の知らないところで何か楼主から命令があったんだ。じゃないと、こんなことしてくれるわけがない。
ぐずぐずと鼻を啜り、唾液と一緒にシーツに染みを作っていく。
龍也さんの腕に尻尾を絡みつければ、優しく問いかけてくる声に瞳から雫が零れた。
「痛かったか?」
首を横に振った瞬間、痛みがなくなってしまっていることにも、もう狭くないと思われてるかもしれないことも嫌で紛らわすように布を吐き出した。
「も……なんで…」
「お前、発情しなくなってんじゃないのか?」
ビクつく肩で肯定してしまった気がして、言葉が出てこなかった。
「まぁ、オーナーはまだ気づいてないんだろう。常に発情させろって煩くてな」
風呂だけでも酷なのにな、と龍也さんが唇を噛んだ。
「ふろ…?」
聞いても龍也さんは何でもないと言うだけだった。
これが発情させるのと関係あるのなら、風呂での何かもそれに関係してるってことで。
すぐに思い当たるのは龍也さんが出してくれなくなったのとか、変に胸を弄ってくるようになったことだ。
もしかしてそれも、発情させようと俺を焦らすためだった?
「ぅぅ……それって、だして、くれないってことだろぉ…」
誰彼構わず欲しくなくなってしまった体は、龍也さんに強く反応してしまうのに。
「……そのつもりだったが、たまには…な…」
客相手に達することが難しくなっていた俺は舞い上がってしまいそうなほど嬉しくなってしまう。
体が疼いて、指や何かを噛みたくなる。傍に、奥に温もりが欲しかった。
「ん……あ、ぁ…りゅうやさ、」
指が折れ曲がり、中のしこりを撫でられて腰がびくついた。
強くはない刺激でも感度が集約されたそこに、龍也さんの指。
慣れていなかったときとは違って、そんなとこでおかしくなるって知られたくなくて、熱くなってくる体に叫んだ。
「ふ、ぁ……そこ、だめだっ……きもち、わ、るい…から、ひぁっ!」
反対の手が前に滑ってきて触れられた自身に声が飛び出す。
「こっちだったらいいか?悪いな、俺はこういうことに疎いんだ」
龍也さんは調教師じゃ、ないから。
男を知らないことが嬉しい、なんて。でも、善いところを教えたくなかった。
「あっ、ぁ……やだってばぁ……ぅぁっ、あぁ…!」
「……嫌だなんて台詞、教えた覚えねえぞ。本当に嫌か?」
鼓動が飛び跳ねて、しゃくるように涙が溢れてくる。
言葉ではいくら嫌だと言えても、勝手に動いてしまう腰で尻尾で耳で伝わってしまうんだ。
「……ぁ、あう……ず、るい……」
緩く前も扱かれ始めて、枕を思い切り掴んだ。
自分の部屋を与えられてから、一度だってなかったんだ。
これが、あの頃みたいな練習と同じだっていうなら初めてのときみたいに。
「なぁ……尻尾シて…」
龍也さんはシュシュを引き抜いてきて、その気持ちよさに完全に膝が崩れた。
でも、それをわざわざ俺の腕に通してくるのがまるで、俺じゃなくて、四ノ宮を考えろと言われているようだった。
忘れられるわけない。俺の飼い主はあいつらだって……、龍也さんに甘えちゃダメなんだって。
だけど、人形ではどうしたって埋められないものがある。
声を出さないように唇を噛めば、前に触れていた手が離れて口を開かせるように龍也さんの手が顎を掴んでくる。
「唇が切れたらどうすんだ」
「っぁあ、あ……んん…」
舌にぶつかった指を舐めてみれば、別に構わないのかそのまま口に咥えさせてくれる。
尖った歯で傷つけないように、自分の先走りで濡れたそれを綺麗にするように舐る。子どものように吸い上げると、同じようにひくつくそこが龍也さんの指を締め付けてしまうのがわかって苦しかった。
こんなの知られたくないのに、甘えたらダメなんて思いながら、龍也さんを嫌がることも出来ない。
これが楼主の命令だとしても、溜まっている体が辛いからだと理由をつけて。
「んぅ……ん、ん」
ぐちゅぐちゅと増してきた水音に身震いして、巻きつけた尻尾にぎゅっと力が入る。その瞬間、龍也さんの手が止まった。
「……少し休んでろ。替えのシーツ持ってくる」
出してくれるって言ったのに、なんでと潤んでしまう瞳で訴えても、龍也さんは構わず指を抜いてしまう。
「あとのことを考えると負担は少ない方がいいからな。騙して悪かった」
負担とかそんなのどうだっていい。
こんな状態で止められる方が辛いって話だ。
やけに尻尾が気持ちよくて、目を擦りながらぼんやりと起き上がろうと思ったら、股下に尻尾が垂れているのか踏ん付けてしまって痛くて起き上がれない。そんなことを考えるまでもなく、尻尾を退ければいいのに尻尾がびくびくと震えて、その快楽に飛び上がった。
「ゃぁあん、なんだ……いまの…」
尻尾が狭くて熱い何かに埋まっている。敷布団の下に尻尾を入れたときとは違う感触で強引にでも引き抜こうとすれば、ぞくぞくと体に熱が走る。俺はこの感覚を知ってる。
でも、普通に寝てただけだったのに。
横に転がって恐る恐る前かがみになると、布団は蹴飛ばされていて、肌蹴た着物の間に消えていく黄色いそれ。引き抜こうと手を伸ばせば、ギシギシと廊下を歩く音にぴくんと耳が立つ。シーツは汗でぐっしょりと濡れてしまっていた。
このまま固まっていても見つかってしまうならと、俺は着物を整えると部屋を飛び出した。廊下には予想通り龍也さんがいて、ぶつかりそうになった。
「あ、おい。チビ?」
「ごめ、ごめんなさい、来ないで!」
段差の大きい階段を転びそうになりながら駆け下りて、駆け下りて。
一階の檜風呂へとたどり着くと、着物が濡れるのにも構わずへなへなと座り込んだ。
ゆっくり、そっと尻尾を引き抜いていく。
「ぁ、あっ……ぁー……」
繋がっているそこから尻尾が抜けそうになって身震いすると、空いてしまった空間がずくんと疼く。
尻尾でのわがままを聞いてくれるのはもうあいつらしかいないのに、会うことすら出来ない。テレビ自体を見る機会は少ないし、たまに見れてもあいつらはちっとも映らなかった。
溢れてくる唾液を飲み込んで首を横に振る。
龍也さんが来る前に洗わないと。
桶にお湯を出して、引っこ抜いた尻尾を蛇口に翳すと、その快楽にこれまた飛び上がった。
「ひぁっ…!?」
好奇心でもう一度尻尾を翳すと、その強い水圧に毛が逆立つほど気持ちがいい。
「何これ…」
桶に汲んだお湯で流したり、弱めのシャワーで優しく流されたことしかなかった俺には初めてのことだった。
いや、こんなことをしている場合じゃない。
石鹸を桶に入れて泡立てると、そこに小さなアヒルの人形を浮かべて、尻尾でぐるぐるとかき混ぜる。
「超高速回転ッ!」
「超高速回転!じゃねえよ!なぁにしてんだ、こら」
龍也さんの声にビクついて、そーっと振り返る。
「水遊び…?」
こうでもしないと変な気分のまま萎える気もしなかったし、龍也さんに見られたいものでもなかった。
「ごまかすな。ったく……昔はおねしょが変だ、つって起こしに来たくせに」
龍也さんが苦笑しながら、傍まで来てしゃがむと尻尾を掴んだ。
尻尾のことで頭が一杯で気づいてなかったけど、どうやらやらかしてしまってたらしい。
俺は初めて夢精したとき、それが何なのかわからなくて、汚れてるのをすっかり忘れて龍也さんの布団に飛び乗ったことがある。そこから尻尾が敏感に反応するようになって地獄だったんだけど、夢精とは縁遠い生活だったから忘れてた。長い間ここにいると、性の匂いは麻痺して分からないから。
「っそれは、言わない約束だろぉ…」
「つい、懐かしくてな。何でまた尻尾なんか洗ってんだ?」
毛を掻き分けるように、指の腹で擦られていくのがたまらなくて、自分の腕を抱きしめて堪える。
「ぁ、ぁん……水遊びだってば……やっ、頭打つ」
「支えてやるから来い」
龍也さんの首に抱きついて膝に乗れば、これじゃ前が洗い辛いだろうと苦笑されてしまった。
夢を見てた覚えもないけど、あれは自慰の一種なんだろうか。
毎日客の相手してるのに欲求不満だなんて矛盾してる。
早く、会いに来いよ、レン。
甘い香りを引き連れて、出窓の傍に腰掛け障子窓を開ける。
眠っていていいよ、という言葉に甘えて布団に寝転んだままそちらを見やれば、待ち望んでいた男は物悲しくも笑みを湛えていた。
そっと起き上がると、俺への休息のプレゼントだからと近寄ることさえも拒絶する。
俺にとっての休息とは一体なんだろうと思う。
あれから客を取る前に龍也さんに気持ちよくさせられて奥が疼いたまま相手をさせられるようになった。この数日、龍也さんの残り香だけで一日を乗り切っていたほどだ。それでも、一部の客は俺に飽きて会いに来てくれなくなることもあって、楼主からの風当たりが強くなっていたところだった。
今日だけは龍也さんに頼らなくてもいいと思ったのに、俺はまた欲しい男を前に我慢しなければならないらしかった。
前なら、黙ってればいいことだろと囁いたかもしれないけど、男――レンの背後に浮かぶ月にそれは許さないと言われているかのようで、きゅう、と喉が絞まる思いだった。
俺たちに付き合う必要はないんだから、もう来なくていいとも言ってやれない。殴られてもすぐに会いに来てくれたレンは間違いなく俺から離れていかない人だ。俺はそんな人を離してやる気になどならなかった。
夜が明ける頃、また来るよ、そう残してレンは外の世界へと帰っていった。
レンとは今までにも一度もない夜はあったけれど、乱れもしない布団に着物では、何の情事もなく帰らせてしまったことなど一目瞭然だった。楼主が俺の仕事ぶりを確認しに来ないとも限らない。レンに甘い楼主でも、龍也さんが折檻される可能性は出来るだけなくしておきたかった。
帯を緩めて着物を乱せば、発情のとき以上にレンが欲しくて腫れてしまった自身が長襦袢越しに顔を出す。
膝を立て尻尾を揺らして、手前にくっと曲げる。中に入れてしまっては汚れてレンの契約違反になってしまうから出来ない。
先を男のそれと見立てて、宙を突くように手前にスライドさせて、いいところを擦ってもらっているように激しく動かしていく。その感覚だけでも腰が浮いてきて、立てた膝がびくびくと飛び跳ねるように、はしたなく開く。
「ぁ、っ……ん…」
乱れる呼吸で涎が垂れそうで、長襦袢を押し上げる自身に手で触れるまでもなく熱が零れ落ちた。
どろどろと溢れるそれに大きく息を吐いて、抜けていく力に腰が布団に落ちていく。
久しぶりの開放になかなか高揚から抜け出せず、惚けたまま天井を眺めていたら襖が開いた。
現れたのは楼主ではなく龍也さんで、少し驚いたような顔でくしゃりと耳を撫でてくる。
「……神宮寺にはもっと会いに来てやれと伝えておいてやる」
なんだかそれが、お前を慰められるのはレンしかいないと言われているようで、俺はレンが来るたびにまた一人でしなきゃならなくなった気がした。
風呂に連れて来られて、後ろから抱えながら龍也さんが体を洗ってくれる。
泡立てたスポンジが優しく滑るのがくすぐられているようでむずむずして、静まらない熱にぽたぽたと雫が零れていた。
「ん……」
龍也さんは普段通りに黙々と手を動かすだけで、瞳に熱っぽさは窺えない。
仕事だって分かってるけど、洗ってもらうたびに龍也さんにとって俺は魅力がないのかとさえ思ってしまう。
嬉しくはないけど可愛いと褒めてくれたのも昔のことだしな…。
「っ……」
スポンジを置いて、大きな手で隠すように先に触れると根元に降りていく。これは洗ってくれているだけだと言い聞かせて、襟がずれてしまった龍也さんの作務衣で顔を隠した。
「チビ助、くすぐってえぞ」
耳が龍也さんの胸板に直に擦れて、前が見えないせいで余計に感度が高まっているのだと思ったら、止めようもない熱が溢れてくる。
「……ぁ、あぅ…俺も、そだし」
袋を撫で、際まで指が伝う。
でも、龍也さんは自分のをそんな風に洗わない。
何で、俺にはそうするんだ。品物だから?それとも、これも発情させるための一環?
「は、あぁ、あっ……ッ――!」
手が尻尾に触れた瞬間、堪え切れなかった熱が勢いよく溢れた。飛び上がった脚に転がり落ちそうな体勢で、自分のが顔に降り注ぐ。
「うえー……飲んじゃった…」
前から龍也さんが出してくれないのなら我慢しなければいいんだと頭の片隅では思っていた。思っていても、なかなか出せずにいたのは、客の相手をしたあとでは空っぽだったからだ。
ぼうっとする頭で龍也さんを見ると、呆然としているようだった。
「りゅやさ…ごめ、掛かった…?」
「いや…、加減を間違えたらしい。悪かった」
謝る理由が分からなかった。
昔、気持ちいいなら普通のことだって教えてくれたのは龍也さんだし、俺は別に我慢したいと思っているわけじゃない。俺が龍也さんに対して我慢してたのは、出してとねだることだ。
「何で龍也さんが謝るんだ。俺のが、また洗う手間掛けるのに」
ずり落ちそうになる身体を起こして、桶を掴んで体を流す。
「お前にとってどっちが負担なのか考えさせられるな」
負担。その問いは意味が広すぎる。
多くの客を相手にすることか、発情しなくなった体で溜まってしまうことか、発情させようとお預けを食らわされることか、それとも、龍也さんだけでなくレンにまで甘えられなくなってしまったことか。
「……俺のことを汲んでくれるんなら、龍也さんは自分の仕事をするだけでいい、と思う」
俺が勝手に達してしまっても、関係なく綺麗にしてくれればそれでいい。それだけで、俺は嬉しいから。
レンの香水とはまた違う、耽美な香りに誘われて眠りから目を覚ます。
「ん……」
ご飯を食べた後どうしたんだったかと、うつ伏せで辛い体に起き上がろうとした。けれど、客がもう来ていたのか、組み伏せられて腰が揺れ秘所に指が入り込んでくる。
「んにゃ……ごめんなさ……寝ちゃってた…?」
荒い呼吸がお尻に掛かって、尻尾を揺らした。
「近いの、いやっ……見ちゃやだぁ…」
「嫌です。ほら、見られて興奮してる証にここ硬くなってる」
前に触れた指がつーっと裏筋を撫でてきて膝が震えてしまう。
龍也さんに気持ちよくしてもらったまま、その感触を消されてしまうと萎えてしまうから、悟らせないように男の手を胸に持ってくる。
「ぁん、やだ……おぱいにして、ねえ…」
くちゅりと指が抜け、反対側の手が先端をつつく。
「どうして?ここから涎垂らしてしっかり喜んでるでしょう?」
「ぁ、ぁっ……いじわるきらい…」
「本当に?いじわる大好きだって、教えてくれてるのは翔ちゃんなのに」
「あぁん、ちがう、ちがう、うそいうな!」
客相手に気持ちよくも、欲しくもならなくなってしまったのにおかしいぐらい体が熱い。
それに頭に響く声が那月にしか思えなくて、幻聴でも聞いているみたいだった。
「でも、こっちはいじめて欲しいでしょう?強いの、好きなんだもんね?」
ずぷぷ、と奥まで入り込んできた硬いそれに頭が真っ白になる。
「……ぁあぁっ、ぁ、あぅ、あっん…やら、あぅ、おく、ぁぁあ…!」
あまりの激しさに体ががくがくして、声が引っ切り無しに漏れていく。
那月…?ほんとに、なつき?
「あ、あっ……あんっきもち、しっぽ……しぽも、シてよ…?なぁってば、ぁあんっ」
「甘えてもだめ。でも、そうですね……そんなに触って欲しいなら、内緒にしてあげてもいいですよ?」
そう言われても尻尾を触られるような感覚はなくて、自分で触ろうとしても揺さぶられる体では出来なかった。
「あぅ、遠い、も……ぁあっばかばかっ!ぁ、ぁあー……んっ、く……イッちゃ…」
ゆっくりと奥まで抜けていったそれが、勢いをつけていいところを突き上げる。
「んぁぁあ――!」
高ぶった熱がぶるぶるとシーツを汚していくのを感じてへたり込んだ。
そっと抜けて行くそれが切なくて、行かないでと呼びかける。
「なちゅ…?」
「はい、僕ですよ。また明日も来ますからね。安心してお眠り――」
その言葉通り、明くる日も、その明くる日も那月は俺に会いに来てくれた。
砂月を呼んでみるとそれにも答えてくれる。
でも、目が覚めたときには誰もいなくて、ただ、汚れた尻尾だけが横たわっていた。
風呂上り、龍也さんは俺を横に抱え上げると、珍しく冗談を言った。
「久しぶりに一緒に寝るか?」
「え?」
小さい頃は龍也さんの布団に忍び込んでたこともあったけど、龍也さんは渋々と言った様子で受け入れてくれただけだった。
「嫌なら構わねえぞ」
嫌じゃない。でも、そうしたら、あいつらは会いに来てくれないんじゃないかって。
黙り込んでいたら、龍也さんはため息を吐いて耳元で小さく言った。
「俺は前に尻尾を使えとは言ったが、見境がなくなっちまってるのは見過ごせない」
見透かされていて頬が熱かった。
龍也さんに自分の仕事をすればいいなんて言っておきながら、これじゃそれを利用していたのと同じだ。
「まぁ、ある意味オーナーの都合はいいかもしれねえが、猫に制約がある理由を忘れたわけじゃねえよな?」
小さく頷いて、肩に回した龍也さんの服を掴む。
「俺、どしたらいいか」
龍也さんは歯止めになってやる、と軽く抱えなおした。
舞う香りは那月の匂いと結びつく。
「翔ちゃん、僕のにキスしてください。大丈夫、これも内緒にしますから」
「んんぅ…」
初めてのときみたいに眼前に揺れる那月のそれに唇を押し付けてぺろりと舐めれば、那月の腰が揺れる。
「はぁ……お手手で撫でて?」
言われるままに硬いそれを擦ってやると、逃げるように那月の腰が引っ込んだ。
「あ、ぁっ、にゃつきの…」
覆いかぶさるように胸板が現れて、気持ちよくしてもらえるんだと瞳が蕩ける。
でも、那月はそこから微動だにしなくて、唇を尖らせた。
「ね、ちゅしよ?」
困ったように笑ったかと思うと、手で前を隠されてふっと唇に重なる。
「――きろ、チビ、起きろってこら、噛むな」
呼びかける声に、間抜けな声を発してぽかんと宙を眺める。
ぼやけた視界が段々と冴えていくにつれ、目を見開いていく感覚だった。
覆いかぶさっているのは龍也さんで、俺はがっしりと龍也さんの手を掴んで指を咥えていたらしかった。でも、離したくなくて、ちゅくちゅくとピストンさせるように指を動かした。
「ん、ん、あ、っ……んんっ…ふぁ」
龍也さんが目を細めて、押さえつけられた尻尾に力が篭っていくのが気持ちよくて愉しかった。
着物が乱れて開いた胸板にも鼓動が早くなる。
「……熱っぽい上に、尻尾は暴れるし口は使おうとする……マタタビに酔った猫みたいだな」
指を離されて、唾液に濡れたそれが俺のものを掴んだ。
いつもみたいに発情させようともどかしく焦らすのではなく、容赦なく扱いてくる手に腰から頭から浮き上がる。
「ぁあん、あっ、ぁ、それイく、イく……ひぁあぁあ……!」
どぷり、と放たれた熱に絡まるごつごつした指が摘むように袋を揉んでくるから、首を横に振る。
「えっちい手、にゃぁあん…!」
「負担だとか言いつつ、俺はお前から目を背けていた。俺自身、何がいいのか分からないのは変わってねえが、狂わせないようにするだけなら出来ることはある」
龍也さんはそう言って、空っぽになるまでどろどろに欲を満たしてくれた。
それでも毎日現れる那月に、先手を打って龍也さんがお風呂で相手をしてくれたことでパッタリと現れなくなった。龍也さんはマタタビを使うのを諦めたんだろうな、と言っていた。
マタタビのせいでも那月には会えなくなるし、龍也さんにも出してもらえなくなって、またがんじがらめのようになるかと思ったけれど、それはたくさんレンが来てくれるようになって解消されていった。
***
長年暮らしてきたこの赤い建物と別れる日が明日に迫っていた。
未練がないと言ったら嘘になる。嘘になるけれど、ぎりぎりまで傍に居ると思っていた音也が数年も早く貰われて行ってしまったせいか、その感情を薄めてくれた。
いくら多くの客を取り帳簿につけようが、どうせ年季は早く明けない。あの楼主のことだ。若い間に絞れるだけ絞るつもりだと、年季を全うするまで縛り付けられていた月宮姉さんの例から早々に見切りをつけていた。
月宮姉さんは「ここの暮らしが誰にとってもいいとは限らないし、気軽に代わりが欲しいなんて言えないわよね」と、後継の狐憑きを守るかのように看板太夫らしく笑っていた。
生まれた家庭によっては売りに出されない獣憑きもいるから、看板に据えている狐、兎、猫の希少価値は極めて高くなる。猫は後継すらいないため、年季を延ばされるかもしれないと思っていたけど、つつがなく進んでいた。それは俺が限られた相手以外には勃つことすらままならなくなってしまったことがバレたからでもあるが、レンが時間を掛けて神宮寺家に獣憑きへの理解を求めるように働きかけてきた結果、その圧力を利用できるまでになったことが大きかった。
年季が繰り上がらないと悟ってからも、レンはいくら月日を重ねようが満月には必ず会いに来てくれた。満月以外にも不定期に会いに来てくれるのは嬉しい反面切なくもあった。レンは俺に触れないし、俺も誘惑しない。ずっと付き合ってくれた、レンの誠意に答えるために、なんて格好いいこと言えたもんじゃないな。俺は俺でレンをおかずにするために縛り付けていたんだから。
「龍也さん、俺、明日ここからいなくなんだ」
「そうだな」
最後に別れの挨拶をと龍也さんの部屋に押しかけて、笑顔を作る。
俺がいなくなったら、龍也さんは用心棒と雑用に戻るはずだ。でも、それまでは俺の世話役、だから。
ぽたぽたと龍也さんの頬に雫が落ち、拭い取るように添えてくるごつごつした手に擦り寄った。
「おれ、那月がすきなんだ……あと、意地悪いけどさつきも」
感情に模範解答なんてなくて、正しいと言ってくれたのは音也だけ。それだけを胸に俺は今日まで生きてきた。だけど、龍也さんが傍に居たから堪えられたんだって思うんだよ。
龍也さんが居ない世界で、俺はあんたの名前を呼ばずに居られるか分からないんだ。
「な、……俺はそれで、合ってる…?」
求めていた肯定を短くくれて、龍也さんが胸に押しつけるように抱きしめてくる。
残酷なほど、やさしいヒト。
「も……親離れ、出来なくなる」
押しかけて、押し倒したのは俺だけど、そんな悪態をつけば、龍也さんは小さく笑った。
「チビはずっとチビだ。少なくとも、俺にはそうだった」
期待するだけ無駄だと分かってても、せめて弟だって言ってくれた方がよかったな。
「分かってるよ」
拗ねたように言えば、龍也さんは頭をくしゃくしゃと撫でて、もう一度眠ってくれたんだ。
目一杯着飾って花道を歩く姿は哀愁を帯びていた。心配する四ノ宮に大丈夫だと突っぱねて、それでも心配する声に、ついには顔を伏せてしまった。
今日の今日まで迎えに来てくれないかもしれないと、ずっと心に引っかかってたんだろう?
やっとお前は幸せを掴める。俺の、子どもだって思ったままで――。
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お迎えは誕生日。
なくなくカットした部分とか入れました。
執筆2014/05/28〜06/08