Love bite

砂翔前提、砂翔砂でパラレル。Under Loverの続編。
童貞を捨てたい翔ちゃん(23)が一目惚れしたさっちゃん(18?)と関係を持ったが、砂月は実はそっち関係の仕事をしていて――!?簡潔に言えば翔ちゃんが童貞を捧げる話です(身も蓋もない)。
砂翔メインで進みますが、今回は翔砂でも致してる(限りなく砂翔で、翔ちゃんがいれてますが、最終的に砂翔に落ち着くので、そういうのが苦手な方はご注意を。最中リバ有なので、喘いでます)など、設定的に砂月がモブに対してお仕事してるのを匂わせているので、それらが苦手な方は前話で完結だと思ってください。すみません。※なっちゃんは出てきません。 段々と注意書きが長くなっていく…。
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
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最初にアドレスを聞こうと迫ったのは俺。でも、先に体を求めてきたのは向こう。
音沙汰のない連絡を待ち続けて、念願叶ってやっとで体を繋げた。
俺から好きになった相手なのだから、シラフで恥ずかしさはありはしても、抵抗なんてほとんどしなかった。
そのせいか、予想以上にとろとろになるのは早くすぐさま降参した。それでも俺にとっては長く相手を出来ていた方だったのに、それだけじゃ満足できなかったのか、続きをせがまれてしまうと嬉しくて、一晩中気が済むまで相手をしてやった。

ただの性欲処理に思えないその行為で、想いが実るかもしれないと希望を胸に眠りについた俺は、早々に裏切られた。

『90分2万から』
『初回は金取ってないだけだ』
『昨夜は無理させたし、1度だけ1万に負けてやるけど?』
『俺を抱きたいんならプラス1万な』

つまり、その相手――砂月、はそういう仕事をしている、らしい、ということ。

信じたくはないけど、砂月の背中にまで散ったキスマークがそれを物語っていた。

男同士で風呂に入ってすることなんて背中を流し合うか、談笑するか、そんな程度しか思い浮かばないけど、自分で言った「セックスなしで、イチャつきたいだけ」の度合いが正直分からなかった。
そもそも、恋人だと言える相手が居たことのない俺にはそんな目的で風呂に入る機会なんてあったわけがなく、狭い浴槽で砂月に抱き寄せられ、自然と始まってしまったキスに止まらなくなってしまった。
砂月の肌に残る痕にもう一度、俺ので塗り替えるようにキスを繰り返せば、「吸い過ぎ。鬱血するだろ」と頭を引き剥がされて。「せめてキスマークと言え」と唇を尖らせれば、「キスマーク、ねえ。お前の場合、マーキングっていうんだ」と言われたら、あとはもう砂月を誘うだけだった。
そうして、吐息と声を浴室に響かせ、のぼせる前にと風呂から出た。
バスタオルで水分をふき取っていると、足元に温かい風が吹いてきて振り返る。
「暑いと思ったらヒーターつけっぱだった」
慌ててそれを消すと、砂月が後ろから抱きしめてきて胸に触れてくる。
「ヒーターだけが理由じゃねえだろ。心臓、すげえ早い」
ただ触れてくるだけならまだしも、乳首に指を絡めるのはやめてほしい。
「お、お前、だって早いはずだ!」
叫びながら振り返って砂月の胸に耳を当てる。
俺が屈まなくても厚い胸板が真正面にあるのが不服だけど、砂月も俺ほどじゃなくても脈が早くて、反対に俺の心臓が跳ね上がった。
「ゆでだこみてえ」
「そうかよ…くそ!」
喉の奥で笑った砂月がスポーツタオルでわしゃわしゃと頭を拭いてくる。
好きって気持ちだけでこんなにも恥ずかしくなってくるものなのか。
それとも、俺が意識しすぎ?

適当に着替えて、水を入れたグラスを2つ持ってリビングに行くと、これまたつけっ放しだった暑過ぎる暖房を消した。
昨日、低いテーブルの上に飲みかけで放置していたコップを奥に押しやって、水をいくらか飲んでそこに置く。
ソファに座ると体を横に向けられて、後ろから抱き込む形で髪をドライヤーで乾かしてくる砂月の手つきは思っていたよりも乱暴ではなく、繊細だった。
足の間にすっぽりと納まってしまうのは嫌だけど。
「砂月ってマジで二十歳?」
砂月は短く肯定すると、続けてからかうように言った。
「お前は23にしては可愛い反応するよな」
「可愛いかわいい言い過ぎだ…嬉しくねーぞ」
呆れながらそう言いつつも、昨日今日で何度も言われてるから、早くも抗議する気力が削がれていくようだった。
「言っとくが可愛くないやつ相手に俺は欲情しないからな」
「うっわ、よくそんな恥ずかしい台詞言えるな…!」
思わず、両手でぱんと顔を抑えて、胡坐をかいていた足を立てる。
「…あ?性的対象なんて人それぞれだろ」
だからそういうことを恥ずかしげもなく言うな!
まぁ、分からなくもないけど。
俺の場合は、俺が持ってないものを持ってるような、かっこいいやつがそういう対象になる。
つまり、砂月みたいな。
そう思ったら、ますます恥ずかしくなってきて頭を抱えて身悶えれば、邪魔だ、とドライヤーで手を小突かれて、反射的に手を引っ込めた。
もう乾いたんじゃないのかと思うほどだったけど、温風から冷風に変わって熱くなった体に心地よかった。

こいつだったら、男だけじゃなく女も放っとかないだろうし、仕事じゃなくても経験多そうだなと思ったら、手馴れてること自体は唆られはしても嫌なのには違いなかった。
仕事の話を聞きたい。でも、詳しく知ってしまったら、絶対嫉妬する。
独占欲、か。
体のみの関係なんていいことはないって、軽いストーカー被害に合っている自分が分かっているのに、金銭が絡む以上それよりもドツボにハマっていきそうだと思った。
理想の相手を前にして逃したくない、そんな――中毒性。
きっと、そこには一晩中、仮初の愛を受けた影響も孕んでいる。

「交代。俺様が乾かしてやる」
ドライヤーを奪って、反対向けと、2人揃ってさっきとは逆方向に体を向ける。
砂月は背が高いから不本意だけど、ずり下がって俺に凭れてもらうことにする。長い足が2人掛けのソファに窮屈そうに収まっていて、あぁ、この体勢結構好きかも、なんて思った。
胸の辺りにある砂月の柔らかい猫毛の髪は思ったよりも量が多くて、全部乾いたらふわふわしそうだ。
カーテンの向こうは真っ暗なのか、夕日が消えていて、2つのコップやソファに掛かったままの砂月の黒のジャケット、同じシャンプーの匂いが一緒に住んでるような気にさせた。
「その爪にヘアピンって何でつけてんだ?」
ただの興味というわけではなさそうな、少し低い声。
「…オシャレですが何か文句でも」
「ふうん、俺には酒に酔って乱れたピンなんざ、誘ってるようにしか見えなかったけどな」
初めて会ったときのことを覚えてることに胸がきゅんとした。
「そんなつもりでつけてるわけじゃないしなぁ」
「だが、誘ってるように見えるのは間違いねえんだ。やめた方がいいぞ」
それは忠告なのか、それとも。
「……金ヅルを他のやつに取られたら困るもんな」
ついて出た言葉に砂月はあっさりと、まぁな、と返してきやがった。
むっとして無言のままわしゃわしゃと乾かしてると、砂月の体重が掛かってきて見上げてくる。
挿絵
「拗ねんなよ、翔」
頬に添えてくる手に誘われるようにして、口付けた。そのまま、後頭部へと手が回ってきて口付けが深く重なる。
「ぁ……ん…」
体勢的に下になる砂月から漏れる声が苦しそうで、でも、離そうとしないのが嬉しかった。
溢れた唾液が舌を伝って砂月の喉が鳴る。自然と深くなる砂月の眉間の皺に触れてみたら、髪を毟られるかと思うほど引っ張られたから、ごめんって、ぱっと手を離す。
鼻から甘く抜ける砂月の吐息にぞくぞくしてきて、乾かすのは後だ、とつけたままでよそを向いていたドライヤーのスイッチを切ると、それを合図にするように砂月が体を捻った。
唇を離した砂月が今度は押し倒すように覆いかぶさってくる。
「やっぱ幼くて女みてえな――」
言わせねえよ、と砂月の服を引っ張って口付ければ、目を細められて返すようにキスしてくる。
薄くてざらざらした舌に擦り合わせて上顎を舐めれば、砂月の眉間の皺が深くなって舌を押し返されて。気持ちよかったのかな、とにっと笑うと、仕返しするように上顎を舐められて、肩が震えた。
俺の弱いとこだったそれ、と思いながらもされるがままに舌を絡めあった。
「んっ……ふぁ…」
熱い吐息と小さく漏れてしまう声が荒くなってきて、砂月の首に腕を回せば、唇がずれて頬にちゅっちゅと移動してくる。
このままキスするのは大いに望むところでも、下腹部に集まってくる熱に顔をしかめた。
「やばい、勃ちそう」
頬を伝って耳元まで唇を寄せていた砂月が小さく笑った。
「本当に下半身緩いな」
「こうなったのはお前のせいだ!」
「キスが巧いって?」
う……またこいつは。
どうせ俺はキスだってまともに経験ありませんよーだ、バカ砂月!
そんな俺の反応を見てか、砂月が唇を舐めて、にやりと笑うから叫ぶ。
「砂月が好きだからだ!お前だって一晩中離さなかったくせに!」
おかげでベッドから落ちたせいもあるだろうけど、腰やいつまでも擦られた入り口が痛い。
「…お前じゃねえけど、くせになる、ってのはあるのかもな」
例え、体が好きという意味でも、顔が真っ赤になるぐらいには嬉しかった。

砂月が再度、唇を寄せようとした直後、俺から視線を外して、目を細めた顔を上げた。
視線の先にあるのはカウンターキッチンのところに掛けた丸い時計。
「90分、って長いようで短いよなぁ…」
タイムリミットまで正確な時間は分からないけど、洗面所にある小さな時計を見てたのかもしれない。
急に仏頂面に変わった砂月はドライヤーを掴むと、自分で髪を乾かし始めてしまった。
時間切れになったから、さっさと帰りたいのかな…。
あんな熱いキスも、俺を抱くのも――仕事。
こういうのって、ゲイ相手だったら、砂月が挿れられる側なんじゃねえの?
そりゃ、抱きたいならプラス1万でしてもいいって言われたけど、さ。
仕事の間だけ優しいなんて、反則だ。
どっちの面も、気になってしまう、から。
「なんつー顔してんだ。ぶさいくになるぞ?」
「……俺がそうなったら見向きもしなくなる?」
「そうだな、男は容姿で選ぶってよく言うだろ」
俺だって砂月の見た目が好きだけど、はっきり言われるとこのコンプレックスも悪くはない気がしてくる。
でも、それは砂月が好きだからそんな気がするってだけだし、だからと言って砂月が俺を好きになってくれるとは限らないってことだ。
テーブルに置いてあった携帯電話のカメラを砂月に向けて、無言で写真を撮ったら「やめろ」と携帯電話を奪われてしまう。
「1枚ぐらい、いいだろー?減るもんじゃねえんだし」
「……たまにそんなやつ居るから1枚これで撮らせてやってるけど、どうする?」
これ、と言いながら砂月が手の平を広げて掲げてくる。
そんなわけないだろうな、と思いながら「500?」と聞けば、予想通り鼻で笑って「5千」と返してくるから、立ち上がってカウンターに置いたままの財布を手に取る。
「残念、1万とちょっとしかないな」
誘う前に1万は入ってることは覚えてたけど、5千には2千ほど足りない。
というか、これ全部持ってかれたら、また金下ろさないと食費が、とそんなことを思ったけど、そんなことよりも何か、砂月は存在してたんだと、俺の夢じゃなかったんだという証拠が欲しかった。
「な、こんだけしかねえけどサービスしろよ」
テーブルに札を広げたら、砂月はきっぱり「ダメだ」と言った。
「ケチ!」
「1万も負けてやったろ」
素っ気無く返事をする砂月に両手を握って、お願い、と上目遣いをしてみる。
「砂月くん、お写真撮らせて!初えっちの記念に欲しいの!」
鬱陶しそうに眉根を寄せた砂月は髪が乾いたのか、ドライヤーの電源を切った。
「……諦めるんだな。あと、俺のはこれな」
言いながら、いつの間にか俺の携帯電話の電話帳に砂月という名で登録されているのを見せてくる。
それを掴もうとすると空振って、砂月は何かを操作しながら、ソファに引っ掛けていたジャケットのポケットから自分の携帯電話を取り出した。すると、それが小さく震えてすぐに止まった。
俺に携帯電話を渡す代わりに、テーブルに広げた札の中から諭吉を1枚。
「俺に会いたくなったらここに連絡しろ。ただし、金は取るからな」
業務連絡のように告げてくる砂月が立ち上がってジャケットを着込んだ。
それをぼうっと眺めていると、砂月がポケットに携帯電話を入れた途端、振動音が聞こえてきた。
どうやら砂月の携帯電話らしく、それを見ながら舌打ちした砂月がくしゃりと頭を撫でてくる。
「……帰る」
「ん、あぁ…」
外まで送ろうとついていくとスーツケースの中身を悠長に整理しながら、携帯電話を耳に当てた砂月から聞きたくなかった言葉が次々とこぼれてくる。
「今日?痕かなりついてるけどそれで構わねえなら――」
思わず、砂月の頭をはたこうとすれば、軽く受け止められてしまう。
「外出てから掛け直せばいいだろ!」
夢を見せてくれるのはその時間の間だけなのかと一気に胸が詰まった。
「……そうか。じゃあ、また今度」
先延ばしってことは客でも逃したのかな。ざまあみろ。
携帯電話を仕舞った砂月がスーツケースを閉める直前、ローションのボトルを見つけて、持ってたのかよ、とぼそりと呟いた。
「…取りに来なかったのは面倒だったってより、我慢できなかったって方が正しいな」
完全に気を損ねないように、金ヅルを気遣うつもりはあるらしい。
効果覿面とまではいかなくとも、少し軽くなったなんて俺はバカだと思う。
でも、俺はそんなやつに惚れたんだ。
「近いうち、またお前を買ってやるからな!」
出来ることなら他のやつを相手に出来ないほど買い続けられたらいいのに。
「虚勢?」
「ち、違ぇよ!」
玄関で靴を履いていると、服から覗く鎖骨を撫でられて「痕、晒したまま来るなよ」と、出て行ってしまった。
触れられたところが熱を持って、そこから広がるように一気に体温が上がるようだった。

あの2日間は夢だったと思った方がいいのか、と砂月に出会った直後と同じように考えながら、携帯電話に登録されたアドレスを見るたびに、夢じゃなくてよかったと繰り返していた。
一応あれから色々と調べてみて分かったのが、そういう出張系の風俗店では、ホテル代や交通費も客持ちらしく、砂月はそこまで言わなかったから、値段に含まれてるのかな、と勝手に解釈したけれど、次からは好きなやつにたった90分会うだけで2万、あいつを抱くとなったら3万が必要になる。
近いうちに買ってやる、とは言ったものの、家賃だけで給料が半分以上持っていかれるマンションに住んでいては貯まるものも貯まらないし、酒をやめていたときだってその分の自由に使える金は日向龍也のプレミアムポスターに使ってしまった。リビングにあるのがそれだ。
俺が踏ん付けて歪んでしまった日向龍也が表紙の雑誌もバックナンバーの在庫はなく、古本屋かオークションで見つけるしかなくなった。
俺の生活は保存用まで買う余裕がないほど、きつい方なのだ。
それも、まだ余裕があった頃にテレビの通販番組でトレーニング器具を買ってしまったときのローンが残ってて、自業自得とも言うのだが。

「おはよー!今日も携帯なんか見つめて、ついに愛しの君から連絡来た?」
いつもの台詞と一緒にぽん、と肩を叩かれて、覗き込んでくる音也の顔を引き剥がす。
「あぁ。でも、素っ気無くって嫌になるぜ」
音也は同じジムで働いていて、俺の性癖を知ってる親友。
フルタイムで入ってる俺とは違って、週3日だけの臨時講師で、休みが重なることもあって会う機会は多いようで少ない。
ロッカーに携帯電話を突っ込んで、ジャージに着替える。
「え、本当に?脈あったってこと?」
「恋人とは言えないけどなーま…言ってしまえば――」
不思議そうにする音也の耳元に小さく「セフレみたいなもん」って言えば、音也は「懲りないなあ」って笑った。
本当は金を払わないと会うことすら出来ないし、俺は砂月のメールアドレスしか知らないなんて言えない。砂月は電話番号までは登録してくれていなかったんだ。

当然ながら『番号教えろよ』と送ったメールに『常連になったら教えてやってもいい』と返事が来た。
つまり、帰りがけの砂月に掛かってきた電話の相手は常連ということを意味していた。
砂月にとって俺は所詮、客候補の一人なのだ。
『バーカ!好きだ!』と送ったら、『ハイハイ。指名じゃねえならメールすんな』と言われてしまって、携帯番号は知らないままでよかったのかもしれないと思った。声で聞いたら、なかなかの迫力がありそうだし、毎回留守電に繋がるなんてこともありえそうだから。
一応『店に行ったら会える?』って聞いたら『個人でやってるから店はない』という返事は来たけど、結果的にがっくりと肩を落とすことになった。

めげずに『おはよ、いい天気だな!学校行けよ!』と、どうでもいい内容送れば返事が来なくてへこむし、今日は返信が来て機嫌がいいのかと思ったら『大事なメールが埋もれるからやめろ』なんて文に『俺様のフォルダ作ってもいーんだぜ!』って送ったとこだった。
この前会ってからまだ4日しか経っていないのにこれだ。
少しぐらい営業しようって意思を示せと思う。
そんなことしなくても指名される自信があるということなのか、それとも、俺が買わなくとも売れっ子過ぎて暇がないということなのか。

「で?で?どうだったの?どうなの!?」
着替えを済ませて、マネージャーの招集に向かう俺の前に音也が興味津々で聞いてくるから頭をすぱんとはたく。
「まだ朝だっつーの!そういう話は……えーと、酒奢ってくれたら教えてやるよ」
「あれ、いくら誘っても愛しの君の言いつけ守ってたのにいいのー?」
砂月と出会ったとき、音也も傍にいたから、酒を飲むなって言われたことを知ってるし、それを理由に俺は誘いを断っていた。
そういえば、酔って乱れたヘアピンが誘ってるように見えるとかなんとか砂月が言っていた。
音也と散々飲んできてたし今更だとは思うけど、どうせ砂月が酒飲むのをやめろって言ってたのだって、金を貯めさせるためな気もする。
でも、得意な方でもない酒を飲んで、嫌われるかもしれない要素を増やすのはとてもバカらしい。
「……良くはないな…なんか進展したら教えてやるから」
心配させまいとニッと笑えば、マネージャーに私語は慎みなさいと怒られた。

俺は相も変わらず、砂月にどうでもいいメールを送っていた。
『もう3月入ったのに雪だな〜!学生の頃よく雪合戦してさ、なぜか集中砲火食らって風邪引くんだよ。つーわけで、お前も風引くなよ〜』
基本ほとんど返ってこないけれど、昨日久しぶりに返事が来たと思ったら、『お前が温めてくれたら引かないかもな?』と、さらりと誘ってくる辺り、焦らしプレイが効いてるのかと、にひひと笑った。
ただ単に金が工面できなかっただけとも言うが。

一人暮らしにしてはいい部屋を借りていて、家賃が給料の半分以上を占めていた俺は結局、マンションの契約を更新する前に安めのアパートに引っ越すことにした。
ただ、家賃の節約をしたくても、壁の薄いところを選んでしまっては意味がなくなる。
近所の人に絶対不振がられてしまうからだ。

俺の喘ぎ声で。

そんな残念な理由もあって、学生時代に双子の弟の薫と一緒に住んでいたマンションに戻るという選択肢は泣く泣く消えた。
元はといえば、俺が高い家賃を払ってまであのマンションに住んでたのは、薫がどうしても警備員が常駐しているところじゃないと1人暮らしなんて認めないよ、とブラコンぶりを発揮したからだった。
初めは薫が半分ぐらい払ってくれるように親に頼んでくれたみたいだけど、一応社会人になったのだから、兄貴らしくそれぐらいは自分で出す、と言ったのが裏目に出た。
それに、警備員は役に立ってるのかも分からなかったのもあるし、ストーカーのことをそれとなく聞いてみても見かけなかったという話を聞いた。それでもう大丈夫なのかもと思った俺は、砂月に会うためにもお金が必要だから、薫に黙って引っ越した。

前の部屋は1LDKで6階だったから夜景もそれなりに綺麗に見えて、俺個人としてはお気に入りだったわけだけど、引っ越したところはアパートの2階で6畳しかない部屋が一つと、玄関までの短い廊下にあるキッチンに、ユニットバスは嫌だったから、別個で、壁はもちろん薄くないところを選んだ。
この手狭な部屋にはソファやトレーニング器具を置けるスペースが全くないから、ローンも終わってないのに実家送りにするはめになったわけだけど、薫にバレるのも時間の問題ではある。
トレーニング器具自体はジムにあるやつを使わせてもらえるけど、部屋に置きたくなるのは男の性というか、酔った勢いで買ってしまったというか。

シングルとはいえ、ベッドを置くと更に狭くなってしまったが文句を言っても居られない。
日向龍也のポスターはベッド下、真正面に位置取った。
床に座ってベッドに凭れてテレビを見れるようにと、テレビを置いて、その手前に低いテーブル。
ベランダの窓には厚手のカーテンを引っ掛けて、クローゼットには服を、本棚には雑誌や漫画を仕舞わなければならないんだけど、それは追々するとして。
頭金はなかったし、2月の給料が入ったから、もう砂月に会うのを我慢しなくていい。
2週間頑張ったな、と一人頷いて早速砂月にメールすることにした。
『雪、積もるほどじゃなかったみたいだな〜もう雪合戦する歳じゃないし、俺とベッドの上で遊びませんか』
我ながらアホなメールだと思ったけど、割とすぐ返ってきたメールは予想通りの内容と一緒に期待を裏切る内容。
『相変わらず色気のない誘い方だな。だが、今日は無理だ』
『売れっ子には即日対応はできないんだな覚えとく』
『大学が忙しいだけだ』
大人の余裕を見せなければ、なんてついさっき送ったメールで粉々だし、いっそのこと甘えてやろうかと勢いよく文字を打った。
『声、ちょっとだけでも聞きたい。がまん、するから…電話して』
どうせ、効果ないだろうなとベッドに倒れこむ。
我慢どころか、久々に会えると思ってた分、すっかりその気になってた上に、お預けなんて酷いやつだと、悪態を吐けば、短い着信が入った。
『都合がつかなくて悪いな。これで許せ』
なんつー上から目線だと思いながら、添付されていた画像を開けば、心臓が飛び上がった。
それは俺がドライヤーで髪を乾かしてる砂月を撮った時のもので。
「わ、わ、うわあ、この顔。くっそ不機嫌」
ちょうど俺に気づいてカメラ目線になってる砂月の顔は眉間に皺が寄って口元がちっとも笑っていない。
1枚5千って言っておいて、機嫌取るためにくれるとか、なんだこれ、すげえ嬉しいんだけど!
これはデータで置いとくだけじゃなく、今度写真にしようと決めて、その異様なハイテンションが熱となって素直に下半身が反応した。
思うがままに、うつ伏せになって、ベルトを外してズボンを緩め、手を忍ばせる。下着の上からなんてまどろっこしいことはせず、直接触れた。
形取りかけているそれをつーっと撫でて、先に触れる。僅かに湿っているのをもっとと根元から先に向かってゆっくりと扱いていく。
砂月は手で触るよりも、一緒に擦り合わせたり、中を弄られたりが多かったから、扱かれたときの感覚はあまり覚えていない。というか、扱く間もなく、すぐ勃ってたからだろうけど。

3月だというのに昨日は雪が降るなどの冷え込みで、つけていた暖房に温められて、カッと熱くなってくる体にはぁはぁと息を吐いて、邪魔なズボンと下着をずり下ろした。
腰を浮かせて、布団に顔を埋める直前、足の間に垂れ下がる自身の向こうには日向龍也が立っていて、うわっと叫んだ。それは当然ながら本人ではなく、ベッドの真正面に貼ったポスターだ。等身大ではないけど、かなり大きく、ベッドとは少し距離があるから違和感がそんなになかった。
憧れのあの人にケツを向けるなんてとんでもないと、俺は体を逆に向けて布団に篭った。
メールに添付されていた画像を表示させて、携帯電話のバックライトを定期的につけながら、ポスターがベッドの足元にあったら結局、日向龍也に足を向けて寝ることになるんじゃないか?と思い至った。あとでポスターを頭の方に持ってこようと決めて、扱く手を早めていく。というか、日向龍也のことばっか考えてたから、どっちをおかずにしてるのか分からなくなってきた。
首を僅かに横に振って、意識を砂月に集中させる。
目の前に居るように想像しろ、俺。砂月はどんなだった?
そう思ったら、今まで自分で弄ったことのなかった、後ろの穴に興味を持ってしまった。
「ろーしょ…ん」
砂月とするときのために恥を忍んで買ってきたやつだ。
こそこそしたつもりなかったけど、帽子を目深にかぶってレジに持ってくと定員が女で小さく笑われてだな。
今思えば、砂月持ってんじゃん…。
そ、そんなことはどうでもいい、萎えちまう。
気を取り直して、ベッドの下に隠したそれを引っ張り出して、開封したところで下準備してなかったことを思い出す。
ナカを綺麗にしていない。だけど、指だけだし、いいか?と安直な考えの下、手で温めたローションを指に絡めて、躊躇いもなく指を這わせた。
誰も見ていない自慰を恥ずかしいと思うことはもうないけれど、後ろとなると入れるのはなかなか怖いものがある。
さっきと同じようにうつ伏せのまま、お尻を突き出す形で腰を上げれば、僅かに浮いた布団の隙間から光が差し込んだ。
興味からくる興奮が熱を呼び、先走りを滴らせている自身をぬるぬるする手で包んだ。
今、入れたらきっと砂月が欲しくてたまらなくなる。
やっぱり、我慢しようと、浅く呼吸を繰り返すうち、涎が零れ落ちて画面に垂れてしまった。
「ぁ、んん……さつき、」
もっと、砂月のこと知りたい。一晩中セックスしたけど、それだけじゃ砂月を知るには全然足りない。
もっと、抱いて欲しいって思うけど、いつか俺だって抱いてみたい。
砂月の反応を見つつ、あと何回か抱いてもらったら、言ってみようかな。
時間を伸ばして、ただ普通にデートするなんてのもいい。
報われないかもしれない恋に、引越ししてまで投資してやるなんて、俺はバカだ。
でも、それぐらい好きなんだって分かって欲しい。
ただ、ただ、会いたい…。
熱い吐息が布団で篭って、ローションで滑りがよくなったそこがぐちゅぐちゅと音を立て快楽と共に自身を煽っていく。
ティッシュに手を伸ばしてシーツの上に何枚かばら撒いた。
震えてくる足、揺れてしまう腰に恥ずかしさなんて少しもなかったのに、携帯電話が鳴った瞬間、高ぶった熱を吐き出していた。
「はぁ……はぁ…誰、だよ、くそ…んん…ぁぁ…」
快感に身を震わせて、ティッシュを掴んで全てを吐き出すと、布団を捲りあげて手に持ったそれを丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
ナイスコントロール!なんて言ってる場合じゃない。
まだ鳴り続く着信音に顔をしかめて、画面を見ると非通知着信だった。
携帯電話に飛びついて、砂月かもしれないとすぐに電話に出た。
「もしもし!?」
「…飼い犬が飛びついてきたような気分」
小さな笑い声が混じっている、紛れもない砂月の声。
前は1ヶ月待ち焦がれたその声を、たった2週間でより強く欲するようになっていた。
「は、あはは…なんだよそれ……」
自嘲気味の乾いた笑いが漏れて、続きが出てこなかった。
会いたいと伝えたって、今日は無理だといわれてしまったのだから意味がない。
そこで駄々をこねるほど子どもにはなれなかったのに、喉につっかえた言葉を砂月があっさりと言ってのけた。
「……会いてえな」
ごくり、と唾を飲み込んで、高鳴る鼓動を落ち着けようと息を吐いた。
「俺が会いに行ってやろうか」
「自力で来られるんならな」
「ヒント!」
「自力で、つったろ」
今は砂月の画像があると言っても、ヒントなしで、人一人探し出すなんて無理難題だ。
黙って耳を済ませてみると、砂月の息遣いのほかは何も聞こえては来なかった。
「そいや、大学ってもう春休みなんじゃ?」
「……研究室に引き篭もりってやつだ。鬱陶しい」
あー薫もそんなこと言ってたなぁ。
不真面目そうな砂月が研究室に顔出してるってのも変な感じがするけど。
電話の向こうから「四ノ宮さん」という女の声が聞こえると砂月は舌打ちをした。
「じゃあな、チビ。せいぜい1人で楽しめよ」
「ち、チビって言うなって言ったろ!」
喉の奥で笑って「お楽しみは、否定しないんだな」と残して切られてしまった。
何でバレたんだ。
そりゃ、出して間がなかったから、息が荒かったかもしれないけど。
赤くなる顔を抑えながら視線を下げると、下半身丸出しだったんだと、このまま風呂に入ることにした。

俺の休みは火曜と土曜だ。
出来ることなら次の日が休みのときに誘って、いっぱい痕をつけて欲しくて、砂月に『空いてる日に連絡してくれ。俺は月曜か金曜がいい』と活き活きとメールしたのに砂月の都合がつかないまま、2週間が経過していた。

ジムのインストラクターという職に就いたのは、鍛えたいというのもあったけど俺のように筋肉がつきにくい人をサポートしたいって思ったからだ。
徐々に痩せていく人やたくましい体つきになっていく人を見ていると、やりがいがある仕事だなと思う一方で、仕事とは別にしても、やっぱり自分にはあまり筋肉がつかなくて辛くなることも多かった。
女性客からのアタックをあしらう日々の中、筋肉質な男性客は目の保養になるけど、ごく稀にお仲間さんにも誘われることがあって困ってしまう。
今もそんな状況だった。
「ねぇ、今度遊びに行かない?もちろん、費用は俺が持つよ」
部屋の隅っこに追い詰められて、さわさわと髪に留めたピンを弄ってくる。
全く隠そうとしないのがいっそ清々しいけど、みんなちらちらとこっち見てるから。
「あはは、いっすねーでも、ダメですよ、俺、」
小さく「恋人居るんで」と耳打ちする。
ちょっと前までは誰もいなかったから、事情を知る数少ない女友達の写真を彼女として使わせてもらっていた。
女性客には今でも使うけど、俺目当ての男性客にはゲイだとバレてしまうのか、色々と面倒だから、あの不機嫌顔の砂月の写真を見せるようになった。砂月に断りは入れてないけど、ストーカーの前で彼氏の振りをした砂月が悪い。
男同士の時点で大っぴらに言えはしなくても、せめて親友ぐらいには堂々と彼氏だと言える関係になりたい。
実際問題、砂月の写真を出せばあっさりと身を引いてくれるから、都合がよかったんだ。
同じように懐に仕舞った砂月の写真を見せれば、最近ジムに通いだした平均的な身長の男は眉をひそめた。
「俺、この男知ってるよ。ということは、急に連絡が――」
「へ…?」
「あれ、知らない?金さえ出せば相手してくれるんだよ」
まさか、こんなところで砂月の客と出くわすなんて思ってもみなくて、体が固まった。
いや、俺の考えが甘かったんだ。
「ただ、目つき怖いし口も悪くて、高いし、抱くことは出来なかったな」
可愛いやつが好みって言ってたくせに、別に可愛くないじゃん。
ちょっとだけ、このコンプレックスと向き合おうって思うきっかけになったのに、ただのリップサービスかよ。
まぁ、嬉しくはないけど…って俺も別に自分の顔が可愛いと思ってはないから、そんなものなのか…?
聞いてもいないようなことを話す男に殴りたくなる衝動を抑えていると、男は更に続けた。
「その分、気持ちよく喘がせてくれるって――」
「え、と、ごめんなさい。あの、そういう話、聞きたくないから…すみません、失礼します」
ぱっと慌てるように言われた謝罪の言葉を受け取って、写真を握り締めてスタッフルームに駆け込んだ。

誰も居ない部屋に鍵を掛けて、ずるずると壁を伝って座り込む。
ぐしゃぐしゃになった写真を広げて、バカだ、と位置がずれたピンを外した。
酒に酔ってずれたわけじゃなくても、砂月が言ってたようにこのピンが誘ってるように見えたのかもしれなかった。

早く仕事に戻らなければ怒られると分かっていながら、ロッカーに手を伸ばして携帯電話を開いた。
砂月からのメールが1件あって『月曜がいいんだろ?今日なら大丈夫だ。お前んち行けばいいのか?』という内容。
やっとで研究室から開放されたのか、とタイミングいいメールに『おれ、お前のこと抱きたい』と引っ越した住所を添えて、メールを返した。
本当はもっと段階を踏んでから、と思っていたけど、あの男が知らない砂月のことを知っていたかった。

初めて砂月から電話が来た日と同じ、やっとで会えるという逸る気持ちを落ち着けるために部屋を片付けていると、冷たい風が吹き付ける窓から雨音がぱらぱらと聞こえ始める。
外はもう真っ暗でそろそろ砂月が来てもおかしくないのにな、と窓と厚いカーテンを閉めると、短くインターホンが鳴った。
はいはーい、と普段通りを装いつつ、小さな穴から覗くのは雨水を払う砂月の姿。
今回はスーツケースのようなものはなく、かばんを提げていて、この前と同じ黒のジャケットだ。
扉を開ければ、雨で濡れてしまったTシャツを具合悪そうに手前に引っ張って、肌につかないようにしている砂月を前に、人目もはばからず抱きついた。
そのまま、会いたかった、の意を込めて、服を引っ張って軽くキスすると、眉間に皺を寄せて体を引き剥がされた。
「待て、ぐらい覚えろ」
普段の砂月ならそんなものなのかもしれないけど、それがサービス外だと言われているようで、少し切なかった。
結果的に、砂月に会えたのは1ヶ月ぶりになってしまったわけだから、唇を尖らせながら反論する。
「俺は犬じゃねえし!電話で会いたいって言ってくれて嬉しかったんですぅ〜」
「…あぁ、すぐ買うって言っておきながら、予想以上に誘いがなかったからな。溜まってたんだよ」
「そ、そういうことをさらっと言うな!恥ずかしい!」
つーか、溜まってたって何で?
電話くれたのは2週間前だし、俺以外にも客がいるんじゃないのか。
どうせリップサービスに決まってるのに、あまりにもさらっと言われると、真に受けてしまうのは仕方がない、ということにしておく。

そんな挨拶もそこそこに玄関扉を閉めて鍵を掛ければ、当然の疑問が飛んでくる。
「何で引っ越したんだ?……狭そうだ」
そこまで天井が低いわけではないはずなのに、前の家よりは圧迫感があるのか、砂月は届きそうな天井に手を伸ばした。
「んー元から引っ越す予定だったし、いい機会だと思ってさ」
ズボンの裾に水が跳ねてはいるものの、走ってきたのかあまり濡れてはいない砂月にスポーツタオルと一応バスタオルを渡して「あがれよ」と、1つしかない部屋に案内する。
「お前、本気で俺を抱くつもりなのか」
「え、あ、うん……嫌か?」
初めてだから満足させられると断言は出来ないし、どっちも気持ちよくなれると分かってる方を選ぶのがいいに決まってる。
砂月だってそれは分かっていることのはずなのに、別に、と呟くだけ。
俺にはそれが仕事だから、と諦めているように感じた。

ソファはないから真っ直ぐにベッドに腰掛けた砂月は、髪や服より、足が一番気持ち悪いのか濡れた靴下を脱いで、足をふき取っている。
「初めて、じゃないよな…?」
こういう仕事をしている相手に対して聞くことじゃないのに、砂月は何でもないことのように答えた。
「嘘でも初めてって言った方がいいんだろ?」
「……どうかな、わかんね…俺が知らないお前のことを他のやつから聞かされる方が嫌かも」
「俺のことを誰かから聞いたような口ぶりだな?」
それには何も答えずに、部屋を片付けるためにベッド近くに寄せていた雑誌が目に付いて、それをテレビの方まで運ぶ。
引っ越してから模様替えもそこそこに、ダンボールの中身はちょこちょこと整理をしつつ、日向龍也のポスターは廊下の壁に移動して、部屋からは見えないようにした。1人でしたあと、色々考えて見える位置にあると気が散りそうだと思ったからだ。
「……ナカ、綺麗にした?」
「質問責めだな、うずうずしてんだろ?いいぜ、来いよ」
砂月はいつの間にやらジャケットを脱いでいて、両手を後ろについて顎を上げるから飛びついた。
肩に乗ったタオルが落ちて、邪魔だとベッドの端に追いやれば、ベッドから砂月のジャケットが床に滑り落ちる。
幅の狭いシングルベッドの真横から押し倒す形では壁に砂月の頭がぶつかりそうだったけど、それに気を回している余裕なんか持ち合わせてはいなくて、余裕が無いってことはどっちにしろ、いっぱいいっぱいなのには変わりなくて、お腹に乗って砂月を見下ろしたまま動けなかった。
砂月本人はこれから犯されるというのに、瞳には動揺や焦り、羞恥など欠片も感じられず、ただ、じっと次を待っている。

次の一手を出せないまま見つめていると、緩くカールがかった金の髪が水分を含み膨らみを増していることに気づく。髪に頓着してないからこんな癖っ毛のままなんだろうけど、鋭い瞳に不釣合いな可愛らしい髪がこんなにも欲望を煽るのかと思った。
「…?自分よりもでかい男を前に萎えちまったか?」
「萎えるどころか……髪、可愛いなって」
言いながら髪に触れれば、ふわりとするかと思ったそれはあえなく一つの束になり、しっとりと湿っていた。
その手を握られて、口元まで寄せると手の平にキスをした砂月の瞳が揺れる。
「だったら、早くしろよ、翔」
いつもと違って八の字に歪められた眉が、切なく求めるような表情に見えた。
それが勝手な解釈だろうと、ぼっと赤くなってしまうなんて単純すぎる。
「言われなくても!分かってる!」
途端に「ちったぁ、雰囲気出せよ」と、砂月が笑うから、それを塞ぐように口付けた。
ゆっくりと目を閉じる砂月の手が後頭部を押さえつけるように返してくる。
さっき僅かに触れたものとは違う久しぶりの深いキス。
求めるように、離さないように、舌を追われて絡めて、吸われて。
熱い吐息で一気に体温が上がり、砂月の頬もほんのり上気している。
服を捲りあげても、今回は止められなくて、代わりに俺の服を剥いで来る。

上の服を脱ぐために唇から離れて、ベッドに普通に寝転べと体勢を変えてもらう。
足に乗って、見下ろした砂月の肌にはこの前のような痕は一つもなく、変わらず見惚れてしまう体つきだった。
俺はあまり筋肉がつきやすいほうじゃなく、脂肪がないだけで腹筋が割れていると表現するのは少し違ってしまうから、本当に羨ましい。
手前にある砂月のベルトを緩めてジッパーを下ろせば、上体を起こした砂月が唇を寄せてきて、俺のベルトをカチャカチャと外していく。
それはじれったいという意味なのか、ただ単に甘えているのか。
そんなことを思いながら、ちゅくちゅくとキスを交わして、下着を押し上げているそれに触れれば、耳元で囁く熱っぽい声。
「勿体振らずに直接触れよ」
俺だって早くしたいけど、性急過ぎるおねだりに意地悪したくなった。
「この前、俺に1人でさせようとしたよな?あれ、お前もやって」
ぴくん、と眉を上げた砂月は文句を言うこともなく、自分でズボンと一緒に下着をずり下ろして、僅かに持ち上がったそれに躊躇なく触れた。鋭い瞳が細められて、唇を舐めるおまけつき。
「お前、手馴れすぎ…!」
「…恥ずかしがる方がいいなら、そうしてやらなくもねえけど?……出来るかは、別だがな」
「……お前が思う通りにやればいい」
砂月は本当に恥ずかしくも何ともないのか、時折熱い眼差しを向けられて、逆に居心地が悪い気もするけれど、萎えた状態でも大きなそれが徐々に体積を増していく様は、それで中を突いて欲しいとごくりと喉が鳴った。
それを我慢していると、とろりと自分のものから先走りが零れるのを感じる。
砂月が好き過ぎて勝手に緩くなってしまう下半身に、こんなんじゃデートなんて夢のまた夢だと思った。

自分で気持ちいいように扱く手が勢いを増して、息が上がってきている砂月の手を止める。
「な、それもすげえ唆られんだけど、後ろ、自分で弄って」
言えば、砂月はやれやれと言わんばかりに視線を外した。
「……変態は健在らしいな」
「言ってろ…!」
顎を上げて、退けと合図してくる砂月の足の上から退くと、ズボンと下着を全部脱ぎ捨てた。
「お前も脱げ。気分出ねえだろ」
おかずを寄こせとでもいうかのように言われてしまっては、なんとなく断れない。
求めてくれるのが嬉しいんだ。
「しゃーねーな」
前に買ったローションを砂月に渡して、完全に挿れる準備が整っている自身を取り出せば、ボトルを開けた砂月の眉が上がる。
「お前、誰かとヤッた?」
「はぁ…?お前のが俺以外の奴とヤッてんだろうが!」
「つーことは、これ減ってるのは1人で弄ってたってことか?」
話が全くかみ合っていないけど、図星を指されて耳までカッーと熱くなってくる。
実際には弄ろうとして、やめたことがあるだけなのに、じっと見てくる瞳に逆らえなくて、叫んだ。
「………そ、そうだよ!お前が欲しくて…悪いか!もういいから、さっさとやれ!」
嫉妬でもしたのかと思ったら、俺の答えに満足したのか、砂月はハイハイ、と楽しそうに言って、手に取ったローションを温めながら、足を広げた。
恥ずかしげもなく晒された秘所を見ようか見まいか、視線を彷徨わせていると、なぜか俺の手を掴んでくる。
体温が移って温かくなったローションが指に絡まって、つ、と秘所をなぞらせてくる。触れたところがぴくんと脈打つように引っ込んで、とてつもなく恥ずかしいことをしようとしている気になってきた。
思わず、びくついて引っ込めようとした腕を掴まれて、長い前髪から覗く翡翠色の瞳が熱く見つめてくる。
「ん……俺、は…お前に、触って欲しいんだけど?」
跳ね上がった心臓を落ち着ける間もなく、砂月の指に押されて、中につぷっと指が入ってしまう。
「俺だって、触りたいの我慢してたのに」
「ふ………ぁ…我慢しろ、なんて誰が言ったよ」
砂月の指も一緒に飲み込んで、熱く締め付けてくる中を奥へと誘導するように、掠れて吐息の混ざった声で名前を呼ぶから、空いた手で背中に腕を回し、砂月の首筋に吸い付く。
熱くしっとりと汗ばんだ体に身を寄せれば、外気に晒された互いのものが僅かにぶつかって、ずくんと疼いた。
俺の場合、連動するように中も疼いてしまうのが困りものだけど、砂月の中もきゅっと締まった。
「……はぁ、翔…」
耳元で囁かれると、それだけでたまらないのにくちくちと鳴るそこに、しこりのようなものを見つけて砂月の体がびくんと反応した。
「…そこ、手前の、奥……ンッ…」
俺がそれに触れようとするまでもなく、砂月の指で押し付けるように触れさせられる。息を詰める砂月につられるように俺まで息を呑んで、そっと撫でた。
反対の砂月の手が抱きしめる力を込めてくる。
ぴくぴくと反応する体とうなじに掛かる荒い吐息。
砂月の肩に乗せていた顔を下げれば、とろとろと溢れ出す2人の先走りが光って見えた。
「きもち?」
「……あぁ…」
一人でやってるところが見たいのに、ほとんど砂月の顔が見れていない。
もしかして、顔、見られたくない…?
そう思って、砂月の体を押し倒せば、勃起した砂月のものからお腹の上にぽたぽたと零れる先走りが放たれる色香に混じって扇情的だった。
砂月の顔はというと、額に滲む汗、眉間に皺を寄せて、俺を抱いているときと全く変わらない、弧を描く唇。
余裕そうに見えるのに、薄く覗く翡翠色の瞳がとろんと溶けていた。
どくんどくんと早い鼓動が煩い。
集まってくる熱を出したくて、そのしこりを指の腹で引っ掻きながら指を引き抜いた。
「ンァ゛…!」
跳ね上がる体が背中を浮かせ、体格のいい体が大きくしなった。
もう限界だ。むしろ、よく我慢したと褒めてもいいぐらいだ。
ベッドに転がったボトルから冷たいローションを手の平に取り出して、温めながらとろりと袋から秘所に垂らしていく。
浅く息を繰り返す砂月の指が、だらりと零れたローションを塗りこむように動き始める。
熱で白い肌を朱に染め、長い指を飲み込むたびに自分のそこを弄られているような気がしてむずむずしてくる。
「……えっろ…」
漏れた言葉に気をよくしたのか、くちゅくちゅと煽り続ける様はサービスいいな、と素直に感心した。
「はぁ……ん、翔…その、可愛いの、寄こせよ」
僅かに視線を下げて見つめるその先には俺のものがあって。
「わざわざ可愛いって言うな!!」
ちくしょう。自分がでかいからって。
余裕ぶりたいらしい砂月から、どうすれば余裕がなくなるのか興味がある。
ぷく、と息をしている砂月の秘所に達したがってる自分のものを擦り付けて、ローションがとろりと先端を覆う。
深く息を吐いた砂月は、濡れた人差し指を立てて「来いよ」と掠れた声で合図するから、その中に自身を差し込んだ。
「ア゛ァァ……ッ」
びくんと胸から顎までが反れて、歪められた唇から低い声と共にうねりを上げる中。
「きつ…」
前立腺を撫でる程度であまり慣らしたとは言えないそこは、ローションで滑りがよくなってはいても一気に押し入るのは困難だった。
それでも肉壁を突き進んでいけば、ゆっくりと広がる童貞消失という実感。
砂月が息をするたびに空間が少しばかり広くなって奥へと誘われる。力の抜き方を知っている体が、酷く悔しくて、そんな事実、知らない方がよかったと思った。
でも、リードされつつでも、好きな相手を組み敷く感覚は今しか味わえない。抱かれているときには見れない砂月の苦しそうで熱情を孕んでいるかのように見える火照った表情に、とても嬌声には聞こえないような唸る声。
「んぁ……ァア………っくぅ…」
前立腺を狙うなんて良く分からないけど、とにかくやってくる射精感に堪えながら、腰を動かしていく。
「……痛い、か…?」
砂月が堪えるように唇を噛んでしまうから、そう聞いても小さく首を横に振るだけだった。
熱すぎてこのまま熱気で溶けてしまいそうだ。
それでも抜き差しを繰り返せば、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴り、2人の吐く息と早く脈打つ鼓動ががんがんと頭に響いてくる。
ローションだけでなく、俺のものから先走りが溢れているのか、滑りが増して感度が高まってきた。
「……っ……ぁぁ…イきた…い」
思わず、ぼそりと零した言葉に砂月が口元を上げる。
「は、……堪え性、……ねえな…」
とろりと垂れる砂月自身が限界を示して、それや腹筋がぴくぴくと動いていた。手でも口でも何でも使ってイかせてやりたいけど、出来るなら、俺で達して欲しかった。
「るせっ……んん、……砂月、どこが、きもちいい?」
「……はァ…ン、……っ!」
膝裏を掴んで押し上げ、低めた腰を突き上げれば、砂月から声と共に生理的な涙が零れ落ちた。
あぁ、こんな顔も見れるのか。すごく――綺麗、だ。
でも、俺が上だと、砂月の体を折り曲げるほどぐっと押し上げないと、それを舐め取ってやれないことに気づく。
くそ、やっぱりコンプレックスはコンプレックスのまま克服なんて出来やしない。
「…黙って、ないで、教えろよ…?なあ、砂月」
ずりゅ、と音を立てながら身を引いて答えを待つ。
もどかしい。
キスできないこともそうだけど、俺のものになってくれない砂月が。
「……ッ…さっき…んとこ、抉るぐらい…強く、」
言われるが早いか、同じように深く押し込んだ。
「んぁあ゛……イッ……!」
「…っ!!」
はちきれそうだった砂月のものから白濁が飛び散って、強い締め付けとごりごりと当たる感覚に勢いよく熱を吐き出した。
どくどくと腹を汚す砂月の精液を眺めていると、快感でぼうっとする頭を軽くはたかれた。
「痛って…!」
「………バカ、中、出して、んじゃねえよ…!」
「はぁ………は、ん……ごめ、想像以上に気持ちよくって…」
そう言われても引き抜く気になれなくて、身じろぐ砂月を押さえつけながら、ふるふると中に出してやった。
纏わりついて、うねりを上げる肉壁が気持ちよくて、熱い液体の中に漂っているように感じて、思わず笑みがこぼれた。
「チッ、ゴムつけさせるべきだった」
砂月は腕で涙を拭っているだけなのに、それがそっぽを向いているようで可愛くて、手を伸ばして髪を撫でてやる。
「ごめんって、そんな嫌だった?」
「……腹下すのが面倒なだけだ」
「………確かに」
経験があるから、すごく理解できる理由だ。
ん?でも、面倒なだけで、嫌じゃないってことか?
リップサービスかもしれなくても、それだけで疼く自身に砂月が顔をしかめた。

抜こうかと思ったけど、折角初めて挿れたんだからとそのままにして、筋肉を辿るように砂月の胸筋を撫でて、白い肌に痕を残していく。
俺の髪を梳いてくる砂月の手を心地よく感じながら、少し下がって、僅かにぽこんと浮き上がっている腹筋を舐めると、飛び散った精液の苦い味が口に広がった。
つーか、どうやったらこんな筋肉つくんだろう…。
鍛えまくったような体というよりは、そこまでぼこぼこしているわけではなく滑らかにも見えるからこそ、唆られるというか。
俺だって節約を兼ねて自炊するついでにそれなりに食事にも気を使って、金がなくともプロテインだけは飲んでるのに。
腹筋を指でつーっと撫でているうちに、なんとなくイラついてきてがぶりと歯を立てた。
「っ……何してんだ……俺はお前と違ってドMじゃねえぞ」
「誰がドMだ!俺だって噛まれても感じないし!」
……たぶん。
どうだか、と笑う砂月の腕に浮き上がる血管を撫で、別に力こぶを作っているわけじゃないのに、がっちりとした上腕二頭筋に肩。
どくんと脈打つ下腹部が感じるまま、うっとりと魅入っていれば、苦笑する砂月の声。
「お前、変なやつだな…」
「どこが…」
「セックスしてる気がしねえ。痕だけは立派につけるくせに、腕なんか撫でたかと思えば、でかくなりやがって、ただの筋肉バカかよ」
呆れたように言われてもその通りだから、から笑いしかでない。
「あはは…やぁ…まあ、いい体してるよな……ほら、こことか超好き」
腹筋の真ん中の割れ目が俺とは違ってくっきり入っているところを撫でれば、その手を掴まれて「んなとこより、ここ触れよ」と乳首に触れさせてくる。
そういえば、触ってすらなかったと言われて気づいた。
広い胸板にちょこんとある胸のそれは俺のそれよりも茶色く色づいていて、それさえも羨ましく思ってはいたけれど。
「…んっ」
なんとなく片方の先端をぺろりと舐めて、もう片方を摘んでみれば、砂月が片目を閉じて少しだけ力を入れて髪を掴んでくる。
唇で挟んでふにふにと刺激してやると、ぎゅうと硬く目を瞑ってしまう砂月が可愛かった。
あまり照れるような素振りを見せないから、胸で感じるのだけは恥ずかしいのかと思ったけど、どうやら違ったらしい。
「……そこ、イイ…」
砂月は手馴れている分、単純に欲望に忠実なだけなんだ。
「んぅ…触って欲しいなら言えばよかったのに」
どうすれば気持ちいいのか、なんとなく分かってしまうから、その通りに唾液を絡めて先を擦り舐めた。
ぴったりとくっついて砂月の上に乗っかっていると、ぴくんと体が反応するたびに気持ちいいんだと伝わってくる。
反対側をこねて親指で跳ねて、ふっと息を吹きかけてみれば、身震いする体に鼻から抜けるような低い声が漏れ出てきた。
腹筋を撫でるのも楽しいけれど、これはこれで興奮する。
砂月は素直に反応してくれるし、基本的に何をしても嫌がることがない。いや、中出しは怒られたけど、それを横に置いておいたとしても、変態だと言いつつも全てを受け入れてもらえているような気になる。
俺のことを好きなんだと、錯覚させてくれる。
夢から覚めたら傷つくんだろうと分かっていても、一時でも恋人のようで、俺のものだと強く思った。
あぁ、キスしたい。でも、そのたびに砂月の体を無理やり押し上げるのは不恰好に思えて、代わりに乳首を吸い上げた。しなる体に微笑んで、ぴんと跳ねるように舐め上げて離れる。
「動いていい?」
聞けば、足が腰に絡みついてきた。
「……楽しませてくれるんだろうな」
汗が零れ落ちてきて、砂月の萎えたままのそれを手で包み込む。
さっきまで自分の世界に浸って、放置してたんだな、と恥ずかしくなった。
「………頑張ります」

雨音が増してきても、それに負けず劣らず部屋には卑猥な音に混じってたまに低い呻き声が響いていた。
繋げた箇所から自分のものを引きずり出すたびに、液体がどろりと糸を引いて、それを押し込めばぐちゅりと音が鳴る。だけど、滑りが良すぎて全部抜けてしまうこともあって。
「だから、んン゛……勢い、つけすぎ…なんだよ…!」
「んなこと言ったってな!」
「……はぁ…悪かった。チビだからしゃーねえよな」
「ため息吐くな!チビ言うな!大体、俺だって――」
挿れんの今日が始めてだし勝手が分からないのは仕方ないだろ!
なんて、言えるわけがなく、慌てて口をつぐんだ。
「何だよ?」
「何でもねえよ!こ、この、絶倫!!」
叫びながら、再度砂月の中に押し込んだ。
「……ッ」
音也に砂月とのことを少し話したとき、絶倫とぼそっと呟かれて爆笑したから言い合いになったら言おうって思ってたけど、思ったよりも恥ずかしいぞこの台詞。
ていうか、貶してない、よな?あれ。
顔が赤くなってくるのを感じていれば、砂月が零れて伝った汗をぺろりと舐めた。
「…それは、褒めてんのか?」
本当にこいつは挑発するのが上手い。
「その余裕ぶってるのムカつく!」
拙いかもしれないけど、もっと俺でとろとろになって欲しかった。
「あァ?余裕だったら煽ってねえよ」
どういう意味だ。
分からない、と首を傾げる。
「翔、腰、動かせ」
答えになってなくて、ますます意味がわからない。
膝裏に手をやって砂月の体を折るようにぐっと押し上げると、砂月の眉間の皺が深くなる。
「ァ゛ア…」
あぁ、やっぱりキスし辛いなんて悔しいと繰り返し思った。
キスしたいなら騎乗位してもらう方がいいのかな…。
いや、それだったら、素直に挿れてもらう方がいいか。
「俺、誰かに挿れたの初めてなんだよ。言ってくんなきゃわかんねえ」
ついさっき言いかけてやめたばかりだけど、言い方を変えるだけで同じ意味でも全然違う気がした。
ぎりぎりで砂月の顔に届くかどうかの距離を詰めて、ちゅっと頬にキスをする。
潤んで熱い瞳や締まる中、大きくなる砂月のものに愛しさがこみ上げてくる。
「ひぁ…!」
誘うように揺れた砂月の腰に、先端を突かれるような快楽がやってきて、高い声が飛び出した。
もうさっきからずっと耳まで熱いけれど、もっと熱くなったような気がすると同時に、砂月の脈の音が大きくなった。
「……俺も、初めて、……なんだよ」
一瞬、時が止まったようだった。
それが嘘か本当か分からなくても、そんな火照った体で顔で言われたら、本当のようで。
よく分からないけど、余裕じゃないから煽ってるってのは、つまり。
「……照れ隠し?」
途端に砂月が視線を逸らすから抱きついた。
「な、砂月…好き、俺と付き合って」
腰に絡みついた足がぎゅっと力を増した。
「…突き合ってる、だろ?」
腰を揺すってぐりぐりと当ててくるから、漏れてしまいそうな声を抑えながら言葉にする。
「ぁ、ぁ、さつ、……そう、じゃなくて、…んん、いや、そういう意味も含めて、だけど…っ」
汗を滴らせる砂月の顔が歪んで、気持ちいいのを堪えてるのか、さっきまでより息が荒い。
「……善いんなら素直に声出せ」
「やめっ……砂月、」
逃げようと上体を起こしたせいで、繋がったまま足を閉じるように膝を擦り合せるから、中が強く締まってきた。
「うぁ、イッちまうだろうが!締めんな!こら!」
自分で動くのと人に動かれるのじゃ、どこに当たるかの予測がつくか、つかないかでどうしても感度が違ってくるし、ただでさえ、すぐ勃つからだいぶきつかったのに。
膝を開かせようとしてもびくともしなくて、抜こうとしても締まりすぎてて、こちらも微動だに出来なかった。
「お前の声が聞きたいんだよ。騎乗位でもしてみるか?」
「嫌だって、もう砂月っ!」
睨みつけても効き目が無いらしく、砂月は無視して続けた。
「あと、キスもできねえみたいだからな」
「で、出来るし!しないだけで!」
「分からないか?キス、したい、つってんだよ」
言いながら、人差し指で自分の唇をとんとんと叩く。
こいつ、またそんなことを恥ずかしげもなく…!
無理に起き上がった砂月にとんと倒されて、体勢が入れ替わると、ごりごりと当たるものに快楽が駆け抜けた。
「やぁあん…っ!」
反射的に背筋を反らして熱を吐き出せば、腰を打ち付けるような形になったからか、砂月の顔が歪んだ。
「っく…!」
びくんと上体を反らした砂月のものから熱が飛び散って、すぐさま俺を引き抜いた。
砂月だけじゃなく、俺のものからも出し切れていない分が宙を飛び出すのが見えて、羞恥心がこみ上げてくる。
「ぁぁぁ、……ばか!イくって言ったろ!」
腕で顔を隠せば、砂月が「はぁ……それ、わざとか?すげえ、唆られる」と、台詞と合わない、柔らかい顔で笑った。
多少、眉間に皺は寄ってるけど、たぶん、砂月自身も知らないような笑顔らしい笑顔。
そんな顔も出来るんだ、と思った。

吐き出した、2人の熱い精液が混じっていくのが見えて身震いすれば、砂月が小さく笑いながら、萎えてしまったそれに触れてくる。
「そういや、掛けられるの好きなんだったな」
「ぁん……ひぁ、ぁっ、…う……うるさい!」
俺は砂月に触りたいし、触られたいしで抵抗はしなかった。
温かい手で包まれて、筋をなぞられ、先端を刺激されると、立てた足がびくびくと跳ねてしまう。
「は、……ぁあぁ……んぅっ…!」
扱く手が早まってきて、手を伸ばせばその手を取られて、手の平に口付けてくる。
そんなとこよりも、直接唇にしてほしくて、砂月の腕を引っ張り込んだ。
覆いかぶさった砂月の頬に手を添えて、頭を抱きこんで砂月の唇に自分のそれを重ねる。
「んっ……ぁ、」
舌を擦り合わせて、唇を舐めて、絡んだ唾液の音が扱かれる卑猥な音に混じっていく。
せり上がってくる熱に涙が浮かんできて、角度を変えるたびに僅かに唇が離れて熱い吐息が鼻に掛かる。
早くも垂れてくる先走りを絡めて、袋を優しく揉まれるとじわっと熱く広がるような快楽と一緒に、射精感がこみ上げてきた。
でも、イキそうでイケなくて、息も苦しくて、もうダメだと胸を押し返す。
「ん、ふ……ぁ、ぁう……そこ、やぁ………さつき、ぁぁ…」
目を細めた砂月は耳元まで唇を寄せながら、その更に下の奥まった箇所に触れてくる。
「なら、ここ、挿れていいか?」
「ひゃんっ…!」
囁くと同時につぷ、と中に入ってくる指に体が跳ね上がった。
躊躇なく折曲がった指がこりこりと前立腺を擦ってくる。
「ぁん、ぁん、っ………はぁ、ぁ、ぁああ…っ!」
ちらりと見えた砂月のものが形を取り戻していて、もう一度押し倒したいところだけど、いざ、中を弄られている状態でそれを目の前にすると、どうしても奥が疼く。
いや、何度も疼いてはいたけれど、必死に堪えてたのに。
「きもち、ひぃ…あっ…」
快楽の波に酔っていると、ひやりと伝う何かに目を見開いた。
ローションのボトルが見えて、砂月がとろとろと俺のものや秘所に垂らしていた。
それを塗りこむように指が1本2本と増えていく。
「……いい、って言ってな……あ、あぅ……んん…砂月、」
「ダメか…?すげえ、挿れたい」
眉間に深く皺を寄せた余裕のない顔。
前立腺を弄っていた指がくちゅくちゅと広げるように動き始めて、それが物足りないなんて言い訳だ。
だって、砂月を待っている間、部屋だけじゃなくナカも綺麗にしてたんだ。こうしてほしくなるって、分かってたから。
だけど、ねだるだけなんて面白くない。どうせなら。
「……嘘、でも…いいから、好きって言って…くれたら――」
途端に揺れる瞳が迷っているようで、その先を言うことが出来なかった。
指まで入れてる状態で強引に挿れないのは、通常よりも1万多く払うことになってるから遠慮してるのかもしれないけど、たった一言でも、嘘でも、この情事が仕事でも、言いたくないのか。
例え言ってくれなくたって、俺は今すぐにでも挿れて欲しかったのに、話を逸らされるか、言うなら言うであっさりと言ってくれるだろうと思っていただけに、冗談だって笑い飛ばすことも出来なかった。
ついには中から指が引き抜かれてしまって、それさえも拒絶されてしまったようで。
でも、出会ってから何度も繰り返された手の平へのキス。砂月はもう一度、そこに唇を寄せてちゅっと音を立て、真っ直ぐに俺を見た。
やっとで動いた唇は、「好きだ」と低く紡ぎ、その一言は俺の胸を強く焦がした。
じりじりと焼けるような熱気に言えるのは砂月が欲しいということ、それだけだ。
腰を浮かせて、自分の膝を掴んでそれを胸に押さえつけ、羞恥心で赤くなる顔を押して、言葉にした。
「砂月の、ナカに……出して」
さっきまでの空気は一体なんだったのかと思うほど、砂月が苦笑した。
「……本当に、よく分かってるな」
ねだるのは、お前が好きだからだ。
早く、と急かす前に待ち望んでいたそこに熱くて硬いのがずぶりと挿ってくる。
「うぁぁ…!」
3本の指では足りない大きさのそれが、痛みを巻き添えにした快楽を引き連れてきて悲鳴に似た声が上がる。
「あ、……ぁん、はぁ……んぁっ…さつ、ひぁあぁ…」
じゅぷりとゆっくり動く音に体が敏感に背筋を反らした。
奥まで押し込まれたあとに引き抜かれるのも気持ちよくて、視界をチカチカとさせる。
「は、…ぁぁあん……っく…ぁぁあ、…ぁあっ…」
「っ力の抜き方、…忘れたか?……狭い、」
目一杯足を広げさせられ、頬にちゅっちゅと降り注ぐキスの嵐。
「ぁ、ぁっ……お前が、……でかいんだ、よ…!」
俺が砂月の中に挿れたときに感じた狭さよりも、強い圧迫感があるんだろうと容易に想像できる分、例え滑りがよくてもゆっくりとしか動けないのかもしれなくて、大きく息を吐いてみる。
「……んっ、いい子だ…」
でも、腰つきはあくまでもゆっくりで、気持ちいいところをただただ擦り上げながら、勝手に零れる涙だけじゃなく、口から垂れた、よだれまでを慰めるように舐め取ってくるから、これじゃ、砂月のがよっぽど犬らしいと微笑んだ。
「ぁあぁっ……ひぅ…ん、はっ、……ぁん、あん…」
変わらず一定のリズムでやってくる快楽でびくんと跳ね上がる体に顔。
ずちゅずちゅとした卑猥な音と熱くて荒い吐息、引っ切り無しに漏れ出す高い声。
気持ちいいのは間違いないのに、1歩手前で止められている感覚が苦しくて心地がよかった。
そういえば、俺の大きさで砂月の中がきついって、もしかして、本当に初めてだったのか…?
そう思ったら、早く中に注いでほしくなった、なんて本当に盲目的だ。
「さつき、…俺に、熱いの、」
入り口を擦られる痛みだってあるけれど、もっとと腰を揺らせば、歪む砂月の顔にくぐもった声と共に中に熱いのが打ち付けられた。
「ぁぁ、あぁ………くるし…ぅう…」
どくどくと脈打つ感覚にバカみたいに口をあけて、俺の言葉に身を引こうとする砂月の腕を掴んで、出してしまわないように首を横に振る。
息を吐いてゆっくりと体積を減らしながら、注がれる温かいもの。
お腹を撫でていると、なぜか砂月が茂みに触れてくる。
「……やっぱ剃りてえな…」
だから、何で剃りたがるんだよ。
聞いたら、どうせまた可愛いからって言うんだろ。
だけどな、俺は可愛くないぞ、と思いながら、砂月の真似をして、空いた手で唇をとんとんと叩く。
「…――んっ」
キスして、と口にする前に覆いかぶさって重ねられる唇に下腹部の苦しさが引いていくようだった。
砂月の背に腕を回せば、胸の先端を摘まれて、喉から声にならない声が吐息となって鼻から漏れる。
熱くて息が上がってきて、気持ちよくてふわふわする感覚。
でも、乳首から伝わってくる電流のようにびりびりとした快楽もあって、びくんと体が跳ねた。
「んぁっ!!」
耐え切れなかった熱が飛び出して、やっとでの開放に思わず、目を見開いた。
砂月と視線が交わった瞬間、離れた唇が「お前ネコにしとけよ」と囁いた。
わざわざ「この方がキスできるしな」と添えて、啄ばむようにキス。
溢れ出す熱が互いの腹を汚して、くたんと萎えていくそれに息を吐く。
砂月が好きで、気持ちいいからこそ、好きだと思える女役。
挿れるのは確かに気持ちよかったし、あの男が知らないだろう砂月を知れたのは大きいけど、擬似恋愛のままなんて絶対嫌だから、砂月がそれを望むなら、受け入れるのは容易かった。
「はぁ……んん………俺も、こっちすき。好きだ、さつき…」
頬にちゅっと唇を寄せて、直接耳に吹き込まれた「……俺も、」という掠れた声。
嘘でもいいから、なんて言っておいて、即座に「本当に?」と聞き返せば、「相性いいらしいからな」と汗でへばりついた髪をくしゃりと掻き上げられた。
「仕事、やめる…?」
続けて聞いた言葉に一瞬、目を見開いた砂月は、すぐに目を細めて短く肯定してくれた。

再三、夢だったんじゃないかと不安になった俺の手元には1枚の諭吉と一緒に、知らない番号の不在着信。
急いでその番号を発信してみて分かったことは、引越しまでした俺はバカだったということだ。

手の平にいくつも残った痕にキスしながらそう思った。

fin.



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Love bite=愛咬。
前の話を書き上げたあと、すぐに5千文字書いては消してを繰り返してて、しばらく寝かせてから書きました。
執筆2012/10/09〜10/26

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