Love game

砂翔でパラレル。Under Lover(砂翔) / Love bite(砂翔砂、最中リバ有)の続編。
さっちゃん相手に童貞を卒業した翔ちゃん(23)とさっちゃん(18?)のその後。このお話で完結になります。
※剃毛プレイと異物挿入・洗浄有り。
今回は翔砂描写はありませんが、翔砂で致したあとの話で回想が少しあるのと※※翔ちゃんが剃られたりするので、それらが苦手な方は前話・前々話で完結だと思ってください。
洗浄について:砂月が本気で嫌がる翔ちゃんのナカをキレイキレイ、していますのでご注意ください。
スカ描写はありません。まにあっくでごめんなさい。※なっちゃんは出てきません。
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
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向こうからは雨音だけが聞こえ、あいつは付き合うとは肯定も否定もしなかった。
ただ一言「浮気は許さねえぞ」と、それだけを俺に届けた。

朝食も食べ終え、食休みも済んだ頃合かと、携帯電話の電話帳に登録した砂月の番号へと発信する。
砂月は大学の研究室に篭っているのは変わらないのか、あれから1週間と数日が経過しても一度も会えてはいなかった。これじゃあ、砂月の気を引く方法に電話という手段が増えただけのようにも感じてしまうが、3月も末に差し掛かり、つぼみが次々に花開くこの時期に砂月への想いが少しでも満たされたことは大きかった。

今日は土曜日で、世間一般的にも俺のシフトも休みだからと約束した花見の当日だった。
桜で有名な公園に行くことも考えたけど、砂月は静かな方が好きらしく、俺のアパートの近くにある小さな公園の桜を見に行くことになっていた。
砂月と花見が出来たら嬉しい。でも、デートの内容なんて本当はどうでもよかった。
俺はまだ、砂月と出会ってから片手で足りるほどしか砂月と過ごしたことがない。早く会いたいと毎日のように考えていたことでも、今度は前よりも長く一緒に過ごしたいと思ってしまうんだから、恋愛とは恐ろしい。
そんな状態の俺とは対照的に、砂月は昼の2時だか3時には大学に行くって言うんだから、冷静で悔しくなる。
学校をさぼれとは言わねえけど、少しぐらい寂しそうにしろよな。

やっぱりというかなんというか、砂月は電話に出るのは稀だった。
今日も長期戦になりそうだと内心穏やかでない心音に気づかない振りをしてテーブルの雑誌を手に取った。それは前に破れてしまった空手家の日向龍也が表紙の雑誌で、ネットオークションで手に入れた中古のものだ。バックナンバーの在庫がないから仕方がないが、金というのはなかなかどうして偉大だと雑誌を掲げながら頷く。すると、ベッドのスプリングが連動するように揺れた。
好きなやつに会うための資金繰りで、安めのアパートへ引っ越したことは生活に余裕が生まれることでもあると良い方に捉えることにした。
ついでになかなか途切れないコール音にも、その余裕が移ってくれりゃいいのに。
「たまにはほかのプロテインも試してえけど」
味の当たり外れが大きいからとついつい飲み慣れたものを買い続けてしまっているせいで、嫌気が差すこともある。
砂月はなんか飲んでんのかな?
そうでこぼこしているわけじゃなく、でも、しっかりと筋肉がついた砂月の体が脳裏に蘇って、自分のTシャツを捲りあげてみる。
屈むようにして上体を下げたお腹には横に線が入っているけれど、それは砂月にあるような腹直筋の谷じゃない。背筋を伸ばしても薄っすらと縦に線が入っている程度なのは、確認しなくても知っている。
ため息を吐きながら、雑誌を避けるようにしてベッドに倒れた。
ちっとも出る気配のないコール音は、無情にも留守番電話サービスへと変わってしまった。
昨日送ったメールの返事も来ていないし、メールの返信同様、このぐらいは慣れている。
でも、体の関係から始まっただけに、砂月がフラッとどこかへ行ってしまいそうな不安は消えてくれない。何しろ、今までの俺自身が一夜限りの相手から逃げるばかりだったから。
急かすように、番号を発信してみるとワンコールで切れてしまった。
楽しみにしてたのは俺だけかよ。
苛立ちながらも俺は大人だと言い聞かせ、もう一度掛けてみるとあっさりとコール音が途切れ、不機嫌な砂月の声が届いた。
「うるせえぞ」
掠れそうな低い声に、俺の方が怒りてえよと思いながらも、なるべく明るい声で返した。
「やーっと出たか!今日花見行く約束だったろ?メール、は…見てねえよなぁ」
昨日のうちから砂月を呼ぼうと思って『泊まりに来いよ』と送ったやつだ。
砂月がああいう仕事をしてたのもあって、朝方なイメージがないのももちろんだけど。
「…メールは見た。色々買ってたら、終電が過ぎてたんだ」
「それ、本当か?だったら、返事ぐらいしろっつの」
唇を尖らせると、小さく笑う声。
「何?ナカ、綺麗にして待ってたとか?」
「っ!?」
前からメールの返事はあまり来なかったんだから、不安と同時に来てくれるかもしれないと期待してしまうのは仕方ないだろ。
「くく、図星か。愉しませてやるからいい子で待ってろ」
不機嫌はどこへやら。楽しそうに、それでいて低めた艶のある声で言われては、言葉がつっかえて声を上擦らせた。

花見に行く予定だし、朝からすることでもないんだから、あれはただの軽口だったはずだ。
だけど、砂月を抱いてから会うのは初めてで、実際に会うと気まずいかもしれないと身構えていたのに、玄関に迎え入れてすぐ、唇を塞がれてしまえば何も考えられなくなった。
もう、待てって言わないんだな。
バタンと閉まる扉に砂月を押し付けるように唇を重ねて、頬に手を添えられると角度を変える。
唇を重ねた回数はそう多くなくとも、砂月は舌を使うのが好きだというのは分かる。俺は俺で翻弄されるだけなのは面白くなくて、なんとか仕返ししてやりたかった。でも、サンダルでは靴を履いている砂月との身長差が広がってしまうから、背伸び気味で砂月のジャケットを掴んでみる。すると、顎を掴まれて顔を覗き込むように深く重なった。
「んん……ふ…」
角度的にも俺が舌で探るよりも探られる方が簡単で、弱いところを舐められると背筋から腕からぞくぞくと熱が走る。息が苦しくて勝手に涙が滲んでくると、かくんと膝が折れそうな気さえする。そうならないように砂月の首に腕を回せば、伏せがちに見つめてくる翡翠色の瞳がふっと俺じゃない何かに目を留めた。
何かあったっけ?という疑問は、砂月の太ももが間に割り込んできて消えていった。
「っぁ…」
ズボン越しに伝わる小さな振動にびくつくように目を見開いて、ゆっくりと瞳が溶けていく。
セックスもそうだけど、キスがこんなに気持ちよくて満たされるなんて俺は砂月に会うまで知らなかった。
「……ゆるゆる」
僅かに離れた唇がからかうように言うから、噛み付くように砂月の唇を塞いだ。
抱き込むように腰に腕が回ってお尻を撫で、左右の太ももへと伝う。そのまま、足に跨げと言わんばかりに、持ち上げられて砂月に縋りつく。
足先から滑り落ちるサンダルと砂月の靴を脱ぐ動作で、砂月の肩に掛かったカバンが腕にずれ落ちて膝にぶつかった。それだけでは現実に引き戻されなかったのに、廊下に貼ってある日向龍也のポスターが目に入って、一瞬で我に返った。
「んぁっ…はな、花見行くんだろ!俺、帰ってからのが――」
「先にヤることヤッてから行く」
「ばっ…このスケベ!お前とヤッて1回で終われるわけねえんだから」
「それは俺のせいじゃねえだろ?」
一人だけ涼しい顔をしている砂月が恨めしい。
「俺が早いんじゃなくて、お前が好きだからそうなるんであって…」
「せいぜい体力でもつけるんだな」
朝まで付き合わされた日を思い出して頭突きをかましてやろうとしたら、一つしかない部屋のベッドに下ろされてからぶってしまった。
そのまま離れようとした砂月の腕を引っ張る。
「…口とは正反対だな」
「そんなことねえよ。砂月、これ…出して」
立てた膝の間に視線を送ると、砂月はそこにつっと触れて体を後ろに捻った。
「あとでな」
「絶対だぞ!前みたいに自分で出せってのはなしだからな!」
「ハイハイ」
カバンを下ろして、ジャケットを脱いだ砂月はピッチリした服でもないのに、横から見た胸板が厚くてむっとする。
「なぁ、お前プロテイン飲んでる?」
聞きながら起き上がって、砂月の服を後ろから捲りあげた。
「あ?飲んでねえよ」
砂月は本当に仕事を止めたのか、何も痕がついていないことを確認しながら背中に唇を寄せると、砂月は鼻で笑うだけだった。
「んぅ……やっぱな…あんま自分の外見に頓着してなさそうだもんな」
今日の髪もセットされることなく緩くカールがかっている。ジャケットも前と同じ黒のものだ。
「お前と違って鍛えりゃ筋肉つくしな」
積極的に鍛えてないのなら、この背中にあるしっかりと筋が通っている谷間は生まれつきだとでも言う気か。
体質だって分かってても、そんなのずりぃよ。
「ふん、お前の愛でるからいい」
小さく笑う砂月の背中にちゅっちゅと痕をつけながら、前に手を伸ばして砂月のベルトを緩めていく。
それについて特に反応してくれなくて前を覗いてみると、砂月はカバンからローションやコンドームを取り出していた。
どんな神経してたらあんなもん持ち歩けるんだ…。
あぁ、でも、これからこの背中に痕をつけていいのは俺だけになるんだ。
「じゃ、じゃあさ、しっかり鍛えたらムキムキになんのか?」
嬉しくなって声のトーンが上がってしまったけど、砂月の返事は素っ気無かった。
「……筋肉はつけすぎるとろくなことにならねえからな。興味ねえよ」
言われて思い浮かんだのが、出会った日の惨状だった。
俺は砂月が日常的に喧嘩をしているのかは知らない。でも、あそこに居たやつらを全員ねじ伏せてしまうほどに圧倒的で喧嘩慣れしている印象を受けた。
それで、筋肉をつけてろくなことがないって、もしかして、相手を病院送りにしてしまうとか…?
十分あり得そうで、もし砂月と喧嘩になるようなことがあったらと思うと悪寒がする。
「いや、俺としては…そこまでムキムキじゃない方がいいんだけど」
「……あのポスターのやつみたいにか?」
予想外の反応に間抜けな声が出て、砂月がくいと顎で廊下を示した。その先にあるポスターと言えば、日向龍也のものだ。
空手で優勝した瞬間の写真で、道着が乱れて胸筋や腹筋が見えている。砂月よりは筋肉質だけどボディビルダーほどではなかった。
「日向龍也は俺の憧れだからな。身長もお前ぐらいか、それよりあるんじゃねえか。ま、いくら憧れたって俺にはなれねえけど」
ふうん、なんて興味なさそうな相槌が返ってきて、少し得意げになってつついてみる。
「あれ、もしかして嫉妬してたり――っ…」
振り返った砂月に言葉を遮るようにキスされて、驚きよりも先に眉根を寄せて伏せられた瞳に鼓動が高鳴り出す。ゆっくりと押し倒すようにベッドに沈んでいく様が本当に嫉妬しているように見えてきて、可愛いなって思ったのに。
「嫉妬?上等だろ。俺はお前を独占したい」
「なん……」
砂月はからかうように恥ずかしい台詞を言ってのけるけど、嘘でもいいからと好きをねだった俺に、言っていいのか迷うように紡いだあれはなんだったんだろうと思う。
俺ばかりが好きだと伝えてきたという思いがあるせいか、キスやセックスだけでなく全部の主導権を握られてしまったような気分だった。
「くそ、そんなん、俺だって同じだ!」
叫びながら熱が上がる顔を隠すように背けると、期待していたカチャカチャとベルトが外されていく音。
今日会える時間がセックスだけで終わってもいい。砂月と居られれば何でも――。
ずるずると下げられる下着とズボンに声を抑えていたのに、ぽとりと冷たいものがお腹に落ちて「ひっ」なんて高い声。
砂月が持っていたのは、さっきカバンから取り出していたローションのボトルではなく、チューブ型のローションだった。
何種類持ってんだよ、と声を掛けようと思った矢先、砂月が透明のシートを俺の体の下に敷いてくる。
「…?ローションプレイでもすんの…?」
お腹に落とされた冷たい透明の液体に触れると、それはジェル状のものだった。
「それでもいいが、もっといいことだ」
言いながら、砂月が取り出したのは3枚刃だかの剃刀。
「剃刀って……まさか…」
息を呑むように乾いた喉に唾液が通る。
「危ねえから暴れんなよ」
舌なめずりする砂月に耳まで熱くなるのを感じて、反射的に体を起こそうとしたら難なくベッドに沈まされた。
咄嗟に蹴りつけようとした足を強い力で掴まれ、体重を乗せて押さえつけてくる。
体重なんか掛けなくたって、手だけで軽々と押さえ込まれてしまいそうな腕力。
力で敵わないなら言葉でどうにかするしかないけど、俺は砂月の弱みなんて知らないし、下手に怒らせて愛想を尽かされるのも嫌で説得力のありそうな言葉なんて何も思いつかなかった。
「いやだって!アブノーマル過ぎんだろ!」
「俺は前に言ったよな。剃りてえって」
確かに言われたけど、冗談だと思うだろ普通。
てか、電話で言ってた愉しませてやるってこれかよ。
つくづく、変態だ。
どうせ俺は強引にでも「俺と付き合いたいなら言うこと聞け」とかなんとか言われたら聞いてしまいそうな予感がする。だったら。
「――いいぜ、やらせてやるよ!」
僅かばかり、顔が引きつった気がしないでもないが、出来る限り格好をつけて啖呵を切った。
びしっと指した手を掴んで手の平に口付けると、逃げるなよ、とこれ以上ないぐらいに意地の悪い顔で笑った。

おへその辺りから満遍なく塗られたジェルが剃刀によって少しずつ下へと下がっていく。
指でそっと表面だけをくすぐられているような感覚が肌を伝い、ぞくぞくと身を縮まらせる。
「……っ、ぁ……ん…」
なるべく見ないようにと思っても、剃刀なんか使われていると思うと目が離せなかった。
別の意味で身が縮みそうで萎えるかと思った自身は、俺の思考とは真逆ですっかり上向いてしまっている。
それもそのはず、固定するように伸ばした足には砂月の体重が掛かり、指で摘むように自身の先を持たれているのだ。
そのせいで、とろりと溢れる先走りに羞恥心を掻き立てられ、また溢れさせた。
「少しは我慢しろ」
「しょうがねえだろ…」
啖呵を切ったとは言え、ショリ、ショリと軽い音が聞こえるたびに消え入りたくなる。
砂月が手を止めて、露になった肌にジェルを注ぎ足した。
冷たいジェルに唇を噛んでなんとかやり過ごそうとしても、俺の先から零れた雫をすくい上げる指にゆるゆると立ち昇る熱は砂月を調子付かせるだけだった。
「剃られてる気分はどうだ?」
抵抗の意で睨みつけても砂月の表情は変わらず、ジェルを伸ばすように下腹部を撫でて、冷たいそれに俺と砂月の体温が移っていく。
恥ずかしいに決まってる。イキたいに決まってる。
「……好き者…」
「お互い様だろ」
まさか手術でもないのにこんなことを許してるのもそうだけど、剃刀に絡まった毛をシートの隅に乗せられていくことにも、注がれる砂月の視線にも鼓動の熱量が上がってしまうのは事実で、言葉に詰まりながらも反論する。
「……俺は、……別に、お前のを剃りたいとは思ってねえし」
「だろうな。お前はゲイらしい」
俺は男らしいのが好きで、憧れてた反動でそうなっただけだけど、剃りたがるお前はどうなんだよ。
ただの趣味?
「も、やんなら早くしろよ…」
「焦らされて辛いなら、俺が早く終わらせようと思えるほど俺を煽れよ。まあ、これも可愛いがな」
喉の奥で笑いながら、裏筋をなぞられて腰が浮きそうになる。
「やっ…可愛いっていうの禁止だ!き、ん、し!」
「構わねえが、変わりにチビ呼び解禁すんぞ?」
「何でそうなんだよ!どっちも――ひぁっ!」
ガリ、と親指で先端を引っかかれて体が跳ねあがった。
「どっちもは聞けねえな。俺が愉しくねえから」
「ぁ、ぁ……ぁぁあ…」
撫でるように上下に指先が伝って、びくびくと背筋から顔が反れる。
「どうする?チビのチビって呼ばれたいか?」
「っ、あ……くそ、バカにしてんだろ…!」
さぁ?なんて言いながら、砂月は手を離してしまった。
震える自身からとろとろと滴る雫がジェルに混じっていく。
早くイキたければ、煽れって?
ちらりと砂月に目をやると、挑発するように上の服を脱ぎ捨てた。
砂月に触りたい。今すぐにだって挿れてほしいけど、そう言ったって挿れたまま剃られるなんてことになりかねないし、煽るつもりで自分で出してしまうとまた勃ってしまうだけだ。
それで頭を過ぎったのが、砂月を抱く前にしてもらったアレだった。
「……砂月、ローション取って」
差し出した手の平に垂らされた多すぎるローションがぼたぼたとお腹の上に落ちて、ぶるぶると体を震わせる。
「つめて…多いんだよ…」
小さく息を吐いて「逃げねえから」と、砂月に足を退けてもらって折り曲げた太ももを胸につくように浮かせ、抱え込むように伸ばした手で膝裏から太もも、お尻に掛けてべっとりとローションが伝う。
一人でナカを綺麗にするときは目的が違うから抵抗は少ないんだけど。
砂月が言った通りの緩い自身がお腹にぶつかるのも相まって、あまりに火照る顔で頭がぼうっとする。
余裕そうな砂月の顔が僅かにしかめられ、楽しそうに片眉を上げた。
「で?それで終わりじゃねえよな?」
促されるままに秘所へと触れるとぬるぬるとしたローションの力で指先が沈み、羞恥で目を開けられない。
くっと笑う砂月の声で、赤暗い瞼にあのときの砂月が浮かび上がった。
体勢も心持ちも少しも同じではないけれど――。
「……俺も…お前に、触ってほしい」
砂月の言葉を借りて、両方の人差し指をそっと差し込んだ。
耳につく自分の息を詰める声、微かな水音に反応するように震える体がたまらなく嫌だった。
こんなの、全然男らしくない。
「っ早くしねえなら、自分で剃る方がマシだ…!」
「へえ?剃りてえのかよ?なら、それは今度な」
楽しそうな声に、しまったと見開いた瞬間、「前言撤回はねえぞ」と耳元で響く低い声。びくついて指が滑り抜けると、代わりに押し込まれた質量に顔が歪んだ。
ちゃんと慣らしても痛いのに、慣らしてもないそこは体の中でぎちぎちと音を立てているような気がする。
「やぁ……ぁあぁっ……いだ、……っさ、さつ…まだダメだって…!」
「……あんな煽り方しといて、無理…だろ」
砂月の熱だけでなく、瞳だけでも真上から突き抜かれるような感覚。
髪に頬に砂月の苦しそうな吐息が掛かっても、痛みで力が入って緩めてやることが出来ない。
煩い心臓が砂月の音を追い掛けて追い越して、また追い掛けるから、ずっと息が上がってしまう。
「…知るか…お前の真似、しただけだ……」
「真似、ね。どこの子犬かと思ったがな」
言いながら、髪に触れて砂月は苦笑した。
そこには前は外していたヘアピンが三つ。
砂月が「乱れたピンが誘っているように見える」と言っていたのを忘れたわけじゃない。覚えてたからこそ、俺は鏡の前でつけたんだ。
もしかして、効き目ありすぎた?
「はは……今日はお前のが飛び掛ってきてんだろ。犬呼ばわりすんな。しかも、子なんかつけやが――うぁ、いってえ…!」
瞬間、目一杯広げるように顔の両サイドまで脚を押し上げられて、お尻から腰が浮き上がった。
空間が広がるどころか、これだと狭まっているんじゃないかと思うほどに、体が砂月を追い出そうとする。
「ぁ……むり……このかっこ、入んねえ…って…砂月…」
本当は挿れてほしくてたまらなかったけど、あまりの痛みに砂月の顔を押し退ける。すると、ぺろりと手を舐められて、いつも以上に体を走る何かが咄嗟に手を引っ込めさせた。
自身もナカだって、ぬるぬるしてる方が気持ちよくなれるけど、ただの手なのに?
切れ長の瞳に見つめられるだけでもどうにかなりそうで、みち、と砂月が脈打って、精一杯余裕ぶってみせた。
「……は、お前…俺のこと好きな」
「…仕事でもねえのに来てる時点で察しろ」
この前は結局砂月に抱いてもらったし、自分でも上手く抱けたとは思わない。
その上で砂月を動かせた何かがあるとしたら、収まりよくネコでいいと頷いたからだと俺は思っていた。

音が響く浴室でわざと音を立てるかのように胸を舐めてくる熱い舌。
大学まで時間がないと風呂に連れて来られたかと思ったら、イスに座った砂月の膝に向かい合わせに座らされて、ちゅっちゅと弄繰り回されていた。互いのものが裏を合わせるようにぶつかっていて、背中や太ももと触れ合う肌よりも熱いその場所が、視界の端にちらちらと映って羞恥心を煽ってくる。完全に剃られてしまったそこは、白い肌を隠すように砂月が用意したらしいクリームを塗られてしまっていた。
電話で色々買ってたら終電を逃したと言ってたけど、これとかのことじゃねえだろうな。
「ぁぁ……ぁん、んん、砂月、時間っ…」
「俺に集中してろ」
びくびくと反応する体が後ろに倒れそうになる。それを砂月に支えられて、込み上げてくる熱から逃げる余地もなく、また、逃げるつもりもなかった。
「……んぁ!」
先端を甘く噛まれてぴりっとした快楽が走り、小さな痛みを紛らわせるかのように舐られて、またぴくんと甘い声が漏れていく。
「どこが噛まれても感じねえって?」
「俺、噛んだのそこじゃな、あっ、ぁあ……っ」
唇で摘むように引っ張って弾かれるたびに、少しだけ揺れる肌が変に恥ずかしかった。
狭い浴室の電球が近くて明るいからか。
胸が反れているせいもあるだろうけど、自分では鍛えているつもりの筋肉がこんなに柔らかそうに見えるなんて…。もっと鍛えねえと。
「お前の腹は噛めるところがねえし、ここの方がえろい」
言いながら、お腹に触れてその手が唾液で光る先を弾いた。
「ふぁ……んん、えろいのはお前だろぉ……ぁっ、あ……んぅ…」
気が抜けてしまいそうな、くすぐったさの残る刺激に鼻から息が抜け、くりくりと弄られれば弄られるほどツンと形を帯びて感度が高まっていく。
跳ねる体が下にずれて、お尻の割れ目に砂月のものがはまり込んで砂月が顔を歪めた。
砂月の硬いのが俺の袋とぶつかって、そこに雫が滴っている。
それがついさっきまで自分の中に挿っていたと思うとなかなかに顔が引きつるけれど、同時に唾液が溢れて砂月の腰に足を絡めた。
「はぁ……砂月、ナカも」
「まだ足りねえのか」
無理だ、痛いと言っても聞かなかったのは砂月だし、思い出したように繋がったまま剃刀で剃られ始めて、恥ずかしかった記憶しかない。
それで、「締めてくんな」とか無理な話だろ。
「……指でいいから…ぁんっ」
わき腹を掴みながら親指で器用に弾いてくる指に胸から顔を反らして、砂月が反対側の胸へと唇を寄せた。
砂月の鋭い瞳にぞくりと体を震わせ、ねっとりと絡みつく舌で電流のような熱が体を駆け巡った。
「や、ん……ぁ、あっ……ぁん、ぅう…」
色素の薄いそこが唇で弄ばれるたびに赤く染まって、自分の声が浴室に高く響く。
思えば、前に風呂でしたときも俺がつけたキスマークのお返しと言わんばかりに、ちゅうちゅうと――。
「ぁ、ぁぁあ、こら、吸うなっ…!」
浮き上がる腰に砂月はにやりと笑って、甘く噛み擦り舐めてくる。
「はぁ、ぁっい……イキそ……あ、ぁぁ…も、指してくんねなら…」
探り探り手を伸ばして砂月のものにぶつかると、雄を主張するその先を握りこむ。そこから零れる先走りを指に絡めて、ゆっくりと上下に扱いていく。
「っ……」
砂月が脈打って、ぐちゅぐちゅとした音が、自分と繋がるそこから響くのとは違って少しだけ優越感がした。
だけど、そんなものは砂月によって一瞬で消えてしまった。
「そうじゃ、ねえだろ。こうするんだよ」
後ろに倒れこむように反れていた体を起こされて、ぴたりとくっつく体に裏筋が重なり合う。同様に俺の手を掴んで、互いのものを強引に扱かせてくる。
「ひぁん、あぁっ、あん……っあ、ぁ、やば、」
ただ手で砂月を握るだけよりも、どくどくとした鼓動が伝わってきて恥ずかしさと共に体が心臓が跳ね上がる。
それでも砂月は顔を歪めるだけで相変わらず我慢強いなと思ったら、砂月のものとは大きさに差があるせいで砂月の先に届く前に滑り降りていくことに気づいた。
とろとろと溢れる雫が俺のものへと垂れかかって、汗が零れ落ちる。
やっぱこいつずるい…!
「……っん、ぅ…」
砂月の鎖骨に吸い付いて、そこに薄っすらとついた痕を舐めたところでふと思った。
今日見る予定だった、桜の花びらみたいだ、と。
その瞬間、砂月の指が互いのものがぶつかる間に割って入って、俺のものだけを強く刺激してきて堪え切れなかった。
「っ――!」
どっと溢れ出す熱が砂月のものやお腹に掛かり、びくびくとぶつかるのが快感でぞくぞくと体を震えさせた。
砂月のも、と力の入らない指でぐりぐりと先を刺激してやると、砂月のくぐもった声が聞こえて、枷が外れたように欲が飛び散ってくる。
あまりにもじっと見ていたからか、砂月が体を抱き寄せて言った。
「……顔に掛かるぞ」
口でしたらそうなるのかな、とぼんやり思いながら、砂月の唇に口付けた。
「ん…次……んむ…ぁ…」
「月曜の夜――」
そう言ってくれただけでも嬉しくて、頷くようにキスを返した。

仕事が終わり自宅の最寄り駅へ着くと、携帯電話が小さく振動した。
それは音也からのメールで『今度ちゃんと紹介してよ?』と、そんな内容にあいつがいいって言ったらな、と文字を打つ。
土曜の砂月の態度から見ても俺だけが一人歩きしてるとは思わないから、親友に報告した代わりにあれやこれやと聞かれて、今日は砂月とリベンジとして夜桜を見に行く約束だったのもあって、逃げるように会社を出てきたのだ。
ついこの前まで俺は砂月の客だったわけで、それを抜きにして音也にどう言えばいいのか分からなかったのもある。
いっそ全部を話した方がいいのかとも思うけど、砂月はあれでも大学生でそこに自称がつく。俺は砂月が住んでいる場所や通っている大学、年齢だって本当なのか分からないぐらい砂月を知らなくて、刷り込まれたタブーのように聞けないままでいた。だからまだ、俺が知っているほんの少しのことを教えるのは嫌だったんだ。
たぶん好きなやつのことを自分が誰よりも知っていたいってことで。
……強欲だ。
一度打った文字を消して、素直な気持ちを送ることにする。
『俺は今、新婚気分なんだ。しばらくそっとしといてくれ』
そうして、すぐ返ってきたメールには『えーそれって、邪魔するなってこと?まあ、念願だもんね。いいよ!絶倫くんによろしく!』と書かれてあった。
音也はしつこいときは本当にしつこいけど、意外と気の効くやつだよなと思う。
でも、絶倫くんというあだ名は、砂月に言ってしまったときのことを思い出すからやめてほしい。
深く意味を考えずに笑いながら悪乗りしてたのには違いないんだけどさ。

夜道に煌々と眩しいコンビニが見えてきて、そこへと足を運ぶ。
店内に掛かった時計には普段、帰宅する時間から考えると1時間以上も早く、砂月との待ち合わせ場所は俺のアパートで予定の時間には30分ほど早い。
音也から逃げてきたのもそうだけど、「鍛えるぞ」と勇んでいたのにも関わらず、俺は仕事上がりの日課だったトレーニングを昨日から中止していた。
理由は痕がついているかもしれない以上に、重大な問題があるからだ。
そう、砂月によって剃られてしまったアレだ。
トレーニングに直接関係なくても、あんなのうっかりしてて見られたらたまったもんじゃなくて、この2日ほどジムにあるシャワーを使うどころか、小便器でさえ用が足せなくなってしまった。
俺は必ずと言っていいほどシャワーを浴びてたし、ただのトイレで見られることに神経質な方じゃなかったから、すでに何人かに変なやつだと言われてしまっている。
しかも、あいつ――砂月に夜桜なんだし、久しぶりにビール飲みたいって言ったら、別にいいけどなんて返ってきて喜んでたら「毛も生えてねえくせに捕まってもしらねえぞ」なんてからかってきやがった。
それで、頭を叩いてやったらヒットして、思わずにまって笑ってすぐ後悔した。
何が「俺はお前の写真持ってないからな」だよ。
それでM字開脚の写真を欲しがる意味が分からねえ。撮るだけとって時間切れだっつって、放置プレイだし最悪だ。
風呂上りに流れてしまったケアクリームを塗るのだって自分でするって言ってるのに、あの野郎。
からかいたいだけなんだろうけど、やることが極端というかあいつは俺が思ってた通り、欲望に忠実過ぎるほど忠実だ。
一目惚れでも、砂月の趣味を知って嫌いにならないのは、砂月が言うように相性が良かったってことなのか。
それとも、それこそ最初に思った通りの惚れた弱みなのか。
俺は別にセックス目的で砂月を好きになったわけじゃないから複雑だ。
いや、早く童貞を捨てたくて、年下って聞いて抱けるかもって思ったのは本当だしな…。
それもどうなんだろうと思いながら、缶ビールを3本といろんな種類のナッツが入ったおつまみを買って、コンビニを後にした。
店員が訝しんでたような気がしないでもないが、レジ横にある年齢確認のパネルをタッチした上で呼びとめられなかっただけマシだった。

アパートが見えてくると、2階の俺の部屋の前に人影があった。
まだ時間には早いけど、砂月かもしれないと足早に階段を駆け上がる。
上体だけで振り返りながら、かんかんと鳴る音に気をつけて上りきると、そこにいたのは砂月とは雰囲気の違う人だった。アパートの壁にくっついた、小さなランプではフードを被った男の顔はよく見えなくて、屈み気味に声を掛けた。
「あの、俺に何か用でも?」
「あ、翔……」
男の声はある時期によく聞いたものだった。
暗くて顔はよく分からないけど、体格がよくて俺を守りたいだとか言っていた――あの、ストーカー。
家の中に居るならまだしも、外で向かい合ってる状況でどう対応すればいいのか分からなくて、一歩一歩と近づいてくる男に嫌な汗が浮かぶ。
「この前のこと、本当にごめん」
この前って、家に押しかけてきたこと?
それとも、抱かせてくれるって言ったのにさせてくれなかったことか?
「……いいよ、別に。前はちゃんと言えなかったけどさ、俺、付き合ってるやつ、いるんだ」
出来るだけ自然になるように声を弾ませて、なんでもないように家の鍵を取り出しながら横をすり抜ける。
「……あいつ、の何がいいんだ?体格か?俺のことだって結構気に入ってたろ?」
体格がいい――。
それは俺が気に入る最低条件だから、俺は空手の腕に自信があってもそれが通用しなさそうな相手だと認識している。
もしものときを考えて、電話するなら警察かと上着のポケットに突っ込んだ携帯電話を握り締めた。
「あれは酒に酔ってただけだ。俺はほかに好きなやつが居るから、ごめんな」
「考え直したんだ。翔はアレ、卒業したがってたしさ。翔が好きなのに嫌がってたら嫌われるよなって」
卒業云々はすでに砂月でクリアしてるんだけど、それをこの男に伝えたらどうなるか分からない。
どうしたら、諦めてくれるのかも分からなくて謝ることしかできなかった。
「……俺はもう、好きじゃないやつ相手となんて無理だし、その、ごめん…」
「それって翔は俺のことが好きだから、抱かせてくれたってことだよな?謝る必要なんか――」
「違う、そうじゃない。あのときは酔ってたんだって何回も言わせんなよ。悪いけど、俺はお前の想いに答えてやれない」
外なのに大きな声で話す男に苛立って、つい強い口調になってしまった。
はっとして顔を上げた瞬間、距離を詰めた男に腕を捻りあげられて、ポケットから携帯電話が転がり落ちた。
それに気を取られる間もなく、扉に押さえつけられてしまう。
「これ、酒?酔わせてやるから相手、してくれよ」
頬に当たるコンビニ袋がひんやりと冷たくて、背中から下に滑る手が気持ち悪かった。
どこが俺を「守りたい」だ。お前が脅かしてるじゃねえか。
扉に縫い付けられた腕はびくともしないけど、幸いにももう一方の手は自由だ。
爪が食い込みそうなほど力いっぱい拳を握って、抱きしめるように擦り寄ってくる男の顎めがけて振り上げた。
「するわけ、ねえだろっ!」
手ごたえを感じると共に呻き声が聞こえて、男は顎を押さえて少しふらついている。
かと言って、手近に縛るものなんか何もない。
今のうちに部屋に逃げ込もうと素早く携帯電話を拾い上げて、ドアノブに鍵を差し込みながら男を確認するとその向こうに黒い影が一つ。
俺がくれてやった一発で悶える男の胸倉を掴んで、降って来たドスの聞いた声に俺まで足がすくんだ。
――また、会ったな?
地鳴りしているかのように錯覚するほどの圧倒的な存在感に、なんてやつに惚れたんだとぞくりと身のうちが奮え立った。
大きな体がすっかり萎縮して小さくなっているように見える男に砂月は鼻で笑って吐き捨てた。
「二度と、近づくな」
一発や二発殴るかと思ったけどそんなこともなく、振り払うように逃げていく男に砂月は目もくれなかった。
再度、どの口が俺を守りたいと言っていたんだと呆れつつも、コツコツと近づいてくる足音に駆け寄る気がしないのは、砂月の纏う空気に変化がみられないからで。
砂月はドアノブに差し込んだままの鍵を捻り、何も発せないままでいる俺を声もなく中へと誘導した。
携帯電話とコンビニ袋を掴む手が汗で滑る。
閉まる扉の音と同時に肩に置かれた手にびくつき、錠が落ちる音と背後から届いた低い声にまたびくついた。
――単なるストーカーじゃなかったのか?
それが、1度でも関係を持ったことがあるのかと聞かれているようで、お前は仕事で誰かとしたかもしれないけど、俺は浮気してないと突っぱねることも、上手いことアッパー決まったの見たか?なんて言えるわけもなかった。
嘘をついて濁すことも出来るけど、それで納得するやつにも見えない。
「っ酒に酔った勢いで――」
砂月の目が完全に笑ってなくて目を逸らしてしまった。
どん、と背中を押されてつんのめりになりながら靴を脱ぐ。キッチンの前に出た瞬間、ガンっという音と衝撃で頭がぐらぐらと揺れた。
反射的に頭を抑えながら呻いて涙目で見上げると、洗面所への扉を砂月が乱暴に開いたらしかった。
「……ってぇじゃねえか!過去のことだろうが」
「それで開き直れるほど俺は大人でもねえんだよ」
どきりとした。
砂月の纏う落ち着いた雰囲気が羨ましかったけど、自分よりも3つも年下なんだ。
痛む頭を押さえていた腕を掴まれて、流れるように持っていたものを取り上げられてしまうと、今度は上着まで袖から引っ張り脱がされた。
声を上げても、砂月は無言で洗面所に押し込んでくる。
前のマンションに比べて小さな洗面台と鏡しかないそこは洗濯機が場所を取っていて、長身の砂月と入ると圧迫感があって狭い。ただでさえ威圧されているから余計だった。
何がしたいんだと振り向こうとして、着ていたTシャツを一気に捲りあげられた。
「うわっ!……あっ、ちょ」
緊張で上がる体温に3月の空気はまだ肌寒くて、そばだつ胸のそれに砂月の指が掛かって体がしなる。
空いた手で器用に俺のベルトを外していく砂月にいつもの余裕がないような気がして、その手に触れて顔を覗き込んだ。
「…何、ヤりてえの?」
僅かに静止した砂月は扉でぶつけて痛むそこに鼻先を寄せながら、緩めたズボンの中に手を忍ばせてきた。下着の上から形取るように撫でた指が、ボクサーパンツの窓から俺のそれに直接触れる。
独占したいと言ってくれたんだし、嫉妬して怒ってるのかと思ったら可愛いもんだけど、黙り込んだままぐりぐりと刺激してくる砂月が妙に怖くて宥めるように声を掛けた。
「ん…、花見は?そろそろ……散り始めるから見とくかって……大体今日はまだ準備してねえし」
砂月を制すように言いながらも、本気で抗う気にもならなかった。
ナカに挿れなくても出来ることはあるし、砂月に触れられるだけで自分のものじゃないみたいに主張して、触って欲しくなる。
洗面台の鏡は位置が低く、胸から下へと辿る大きな手を直視できなくて体を捻った。
「っやん」
そのせいで砂月の手が滑って、走る快楽に怯む。
変な声が出ても砂月はからかうどころか、股の間から後ろへと通してお尻を揉んでくるから、体が浮き上がりそうになった。それを腰に回された腕に支えられて、砂月の胸に顔を押し付ける。
「なんか言えよ……、待てって言葉知ってるか?」
繰り返ししてきた砂月の真似っぽいことを言ってみると、下着に指を引っ掛けてずり下ろされてしまう。擦れる下着にズボンはいつものことだと分かってても高い声を伴って、火照る顔を紛らわすように砂月の服をぎゅっと握った。
「俺、は……久しぶりに飲めるビールも楽しみだったんだからな」
「……そんなもんより、いい気分にさせてやるから…」
そんな台詞、いつも意地悪く言うくせに、苦しそうな顔で声で抱きしめてくる砂月が俺だけを見ろと訴えているようで、切なくてこの大きな体が愛おしかった。
「……相性がいいからってお前は言ってたけど、俺はお前が巧いから惚れたんじゃねえぞ?」
俺の理想――、そう思っての言葉に砂月は目の色を変えた。
「巧いからと言われた方がマシだ」
「いっ…!」
砂月の胸へと叩きつけるように強く抱きしめてくる腕に困惑するより先に、奥まった箇所へと入ってくる指に体が反応する。ぎしぎしと背骨が鳴って痛い背中よりも、ローションを使っていないそこは滑りが悪く2本の指さえも苦しかった。
好きになった理由がそっちの方がいいって、砂月は一目惚れだって言われたくないとか?
いつだったか「男は容姿で選ぶ」って言ったのはお前なのに、否定すんのかよ。
「んん………、ヤるにしたってローション使えよ…いてえ」
無理やり顔を上げても少し息が楽になった程度で、砂月の顔は見えなかった。
「すぐ善くなるくせに」
長い指が奥まで入り込んで、中のしこりを撫でる。
お前はいいところばかりを弄ってくるんだから仕方ねえだろ。
「っいつも言ってんだろ…お前が好きだからだって……ぁんん…やっ、増やすな」
砂月に抱きつくように縋りついて服の下に手を滑らせると、熱い砂月の背中には汗が浮かんでいるようだった。
「イラつくんだよ。そうやって男を誘惑して、足開いてきたんだろうが」
突然のことに、言葉に詰まった。
酒の力に任せて遊んでたことがあるのは否定しない。でも、そんなのとは違う。
「……バカ、言ってんじゃねえよ………俺は、お前でしか……気持ちいいと思ったことなんかねえし…」
言えば、前立腺を撫でるよりも解すように変わって、少しだけ息が吐けた気がした。
「は、足開いてたって事実で十分じゃねえか。嫌悪感がなかったと言ってるのと同じだ」
「……ふざけんな。人のこと言えた義理かよ!お前の体が痕だらけだったの、すげえ嫌だったんだからな!」
荒くなる息で涎で、砂月の服に染みが広がっていく。
今だって、この服の下に痕がないか確認したくてたまらない。
「ぁああ…!」
俺のことはどうでもいいとばかりに3本の指が力を入れて広げるように動いて、目を見開いた。
「見てみろよ」
強引に首だけで後ろを振り向かせられると、低い位置にある洗面台の鏡に自分の腰が映りこんでいた。
逃げるように引けた腰で背筋が緩やかに反れ、1本の指が抜けると、開かせてくる指で薄いピンク色のそれに銀の糸が引くのが見えた。
瞬間、勢いよく砂月へと顔を押し付ける。
俺が砂月を抱いたとき、砂月は抱かれるのは初めてだと教えてくれた。今一度確かめなくとも、砂月の火照る熱に表情を思い出せば、砂月の初めてが貰えたんだと俺が勝手に思っていればいい話だ。
でも、砂月は前立腺は善くなるまで時間が掛かると言っていた。
矛盾している、と思う。
何度か抱かれたことのある俺でも、初めて気持ちよかったと思ったんだ。
じゃあ、本当に砂月が初めてで慣れてなかったとしたら、俺で達したのはなんだったんだ?
俺のことが好きだから、感じてくれたんだろ?
そう思ったところで、砂月は仕事で色んな客を見てきたんだろうから、そういうのが分からないだけかもしれないと気づいた。善がる相手を前に、擬似恋愛だと割り切って仕事していたとしたら、好きだと伝えても信じてくれるわけがない。
だったら、ネコでいいと頷いたからじゃなくて、俺が砂月を抱けるぐらい好きだと伝えられたから試しに信じてみる気になったってだけじゃねえのか。
「この色魔……酒なんかに頼らなくてもいい気分になれるに決まってる。俺はお前が好きだって、何度言えば伝わるんだ?」
そこでもう一度抱いて証明してやろうか、とは言えないのが情けなかった。一度抱いた上で、嫌だと言われるのはへたくそだと言われているようで堪えるし、ネコでいいのは本当だから。
髪に鼻先を摺り寄せてちゅっちゅと口付ける音に砂月を見上げれば、砂月は自嘲するように口元を吊り上げた。
――俺が、聞き飽きるまで。

服が伸びそうなほど引っ張って衝動のままに唇を押し付けた。
「んっく……すき、ちゅ、は、っん……すきだ」
砂月の薄い唇を食んで、好きだと繰り返すのは格好が悪い気がしたけど、もう何度も言ってきたから今更だし、言って欲しいなら何度でも言葉にしてやる。
次第に深くなっていく眉間の皺に、硬く閉じられる砂月の瞳。力任せに押し付けられる柔らかいそれに笑みと涙が浮かぶ。
1歩、1歩と後退していきながら、砂月のベルトに手を掛けた。それを合図にするように、砂月が自分の服を捲りあげる。僅かに離れた唇が、カチャカチャと手間取るベルトに「まだか?」と囁いて、返事をする間もなく塞がれる。
「ふぁ……ん」
狭い洗面所では早々に逃げ場がなくなって、ぶつかった洗面台の冷たさに一歩押し返しながら、ちらちらと砂月の体を確認する。そこに何も痕がついていないことに胸を撫で下ろしつつ、俺が鎖骨につけた痕までが消えているのは残念だった。
急かすように俺の手首に触れて辿るように指先まで来ると、その温もりはふいに電流となって下腹部へとやってくる。反り返る自身をお腹につくように撫でられて、服の裾に先が引っかかる。砂月の指先が付け根をなぞり、がくんと力が抜け落ちた。
「いでっ!」
瞬間、骨にまでじんと響くような痛みに腰を摩る。
まともに尻餅をついてしまったようで、扉にぶつけた頭よりも痛かった。
「どこもかしこも弱いのどうにかしろ」
「お前が触るからだって――」
顔を上げると、咄嗟に砂月の腕を掴んだせいか、間近で顔を覗き込んでいる砂月が居て心臓が跳ねた。
切れ長の瞳は少しも優しい色を見せず、じっと見ているだけ。なんとなく砂月の柔らかい髪に触れれば、その手に擦り寄るように僅かに首が傾いた。
何、とでも言いたげに眉間の皺が深くなって、口をついて出た。
「一目惚れで間違いねえよ。お前は、嫌かもしんねえけど…」
それは体格だけじゃない。俺が持ってないようなものを持っている、かっこいいやつ。
声だってそうだ。
「……な、これでもダメか?」
膝を立て、自分の服をそっと捲る。
砂月の視線が下へと辿っていくのが酷くゆっくりに思えて、羞恥心で腰の痛みなんて消えてしまったみたいだった。
でも、からかわれて終わるだけよりも、好きだと伝える手段になるかもしれないなら利用した方がいい。
腹部に触れられて、服を握る手に力が入る。指が下に滑ってこすこすと撫で、肌が体が熱を帯びていく。
「自分で剃ったのか?」
「ん、ちくちく、したから……あんまり見るなよ」
頷いて、ぼっとなる顔の代わりに自分のそれを隠すように服を伸ばそうとしたら、腕を掴まれて体を起こされた。
「次から俺の前で披露するんなら、考えてやらなくもねえけど……はぁ、んっ」
突然しゃがんだ砂月が俺のものに触れて、あろうことか口に含めてしまった。
「あんっ……するわけ、ねえだろ…恥ずかしい…」
剃られてしまったこともあるわけだから、どちらかというと今見られることよりも剃ってるところを見られる方が嫌で、こんなことを砂月にされるだけで羞恥と込み上がる熱で頭がクラクラした。
また力が抜けてしまう前にと洗面台に手をついて体を支える。
「俺が置いていった薬、塗ったか?」
伏せがちに見つめる視線が揺れることなく付け根に向けられていて、その言葉が土曜のことを思い出させた。

薬――ケアクリームをつけた人差し指と中指で付け根の際を辿って左右に広がり、今度は太ももの付け根をなぞる。新たにクリームを指先に乗せると、触れるか触れないかの強さで肌を撫でていく。
そこまでなら自身が反応しても仕方ないだろと文句も言えたけれど、薬を塗ってすぐに下着で拭い取るのはダメだとパーカーだけを着せられて下半身丸出しで部屋に戻る破目になった。同様の理由からファスナーを閉めさせてくれないし、のぼせたようなぼうっとする頭で砂月の言いなりになっていた。
そんな状態で撮られた写真は砂月が軽くベッドを掃除してくれている間に腰掛けていた低いテーブルで、砂月の嫌がらせの末にとろとろと先走りを零し、それらを処理する暇もなく時間切れだった。

「ん、見ながらすんなっ……ふぁあ……やぁん」
荒くなる息にどうしようもなく高まる熱をやり過ごしたくて、砂月の目を手の平で隠してみると、意地悪く笑った唇が吸い上げてきてすぐさま洗面台へと戻すだけだった。
「それで?あのあとどうしたんだ」
咥えたまま話す砂月の歯が当たって、びくびくしてしまう。
のぼせてぼうっとしていたのに鮮明に覚えてるのは、放置されたあと反芻するように指で辿ったからだった。
熱くなる頬に砂月は含むように目を細めた。それだけで早まる鼓動に、熱い舌で舐って挑発してくる。
「早漏。たまには我慢してみろ」
「はぁ……お前な、口ん中に出してやろうか」
お返しににっと笑ったら、やってみろ、とでも言うかのように軽く添えていただけの指がくすぐるように撫で上げた。熱い舌が先だけを擦り舐め、離れがちな唇で砂月の吐息が多く掛かって身震いする。
「ぁぁ、んん……ぁ、まじかよ…、……ぁあっ」
溢れる先走りと砂月の唾液でピチャピチャと音が立ち、ごくりと飲む音と煽るようなリップ音で耳からも犯されているような気がする。
気を逸らそうと視線を外そうにも、砂月の鋭い視線から煽るように名前を呼ぶ声から逃れられなかった。
「っも、だめだ…イくって、ぁ、ぁあぁ…!」
言っても離すどころか、口に咥え直されて砂月の熱い口腔へと打ち付けた。開放と高揚する頭で打ち震える視界には砂月の口元がつりあがっているように見えて咄嗟に謝った。
「ひっ、ごめ――んぷっ」
後の祭りだ。
白く濡れる唇で口付けられて、口移しをするように独特な匂いと苦い味が口いっぱいに広がった。まだ、砂月のだったら飲めたかもしれない。でも、自分のなんて飲みたいと思えるものじゃなかった。
「んー!!」
胸を叩いて引き剥がそうとしても、逃がさないように後頭部を押さえつけてくる。
砂月の頬や体に掛かった自分のそれが居たたまれなくて、無理にでも引き剥がすとか我慢すればよかったと思った。ただ、次があっても最中にそんな気になれなかったんだから、同じ結果になりそうだけど。
やっとで離されたときには、ほとんどを飲み込んでしまっていた。
「うげえ、まっず…」
「いい気味だな」
むせながら服で口元を拭って、洗面台の棚にある新しいタオルを砂月に投げつけた。
「俺だってな、お前のなら大丈夫かもしんねえだろうが」
つ、と下腹部を撫でてくる手にびくついて、砂月がくっと笑った。
「ガキにそんなことさせたら犯罪だろ?」
言いながら、体を反転させられて、そのガキのどこに指を入れてるんだと突っ込みたかったけど、言葉にならない声が出るだけだった。
「……ぁ、あっ……んぁ…っあぁ………ぁぁん」
洗面台に手をついて意識を集中すればするほど、砂月で慣れてしまったそこは指の小さな動きさえも感じ取る。砂月のことを少しでも多く知りたくて、全部の神経がそこに集まったんじゃないかとさえ思う。
後ろからされるよりも砂月の顔を見ていたくて振り返ろうとした。でも、見ないようにしていた鏡に映った砂月が俺を見下ろしていて目が合うと、誘うように舌なめずりする。それだけでカァと赤くなる顔に、砂月は服の下に手を滑らせると迷いなく胸の先端に触れて、きゅっと摘む指に体がびくんと跳ねた。
「あん、ぁん………こっそり見てんじゃね…は、あぁ、ぁっ……」
強引な指の抽出にびくびくと膝が震えて、快楽から逃れようとする腰が揺れる。
すると、鏡越しに映る砂月が目を細め、指が抜けていった。
「堂々とならいいのか?」
向き直るチャンスかと思ったのに、背中に覆いかぶさるようにして耳を舐められて、直接頭に響く水音に膝が折れた。洗面台に膝がぶつかって、遠くでベルトを外す音が聞こえる。
「や、耳ッ…!」
逃げるように顔を背けると、その先にあったコンビニ袋が目に入った。
砂月が俺に酒を禁止した理由は金を貯めさせるためだと思っていたけど、そもそも砂月は俺に酒が似合わないと言っていた。酔って乱れた髪とヘアピンが誘っているように見えるからやめろとも。
砂月の本質は初めから見えていたんだ。
その、強い独占欲に耳から胸から、お尻に当たる砂月のものにどうしても奥が疼く。
「全く慣れねえの、んっ……唆られる」
「ひ、ぁ……っお前の声、えろい…んだよ……ぁあん」
摘んだり弾いたり、ぴりぴりした快楽で反れる胸は、砂月を助長させるだけだった。
「やらしい声で啼いてんのはお前だろ?」
やらしいかどうかは別としても、自分の甲高い声が恥ずかしいのは間違いなくて唇を噛む代わりに、砂月へと口付けた。まだ残る苦い味に顔をしかめながら、舌を唇を重ねる。
「は、む………さつ…ん、ふ…」
股下に入り込む、熱くて大きい砂月のものが袋に当たるだけでも酔ってしまいそうだ。
それで、挿れてと言うのは簡単だけど、今日はナカを綺麗にしていないから。
初めにもっと強く言っておけばよかったと後悔しながら、砂月の頬に唇を寄せた。
「ナカ、してないからちょっと待って」
「素股で――」
「嫌だ」
「ゴ――」
「絶対に嫌だ!」
間髪入れずに拒むと砂月が舌打ちした。
「変態を隠す気はねえらしい」
「っお前もだろうが!剃ったり剃ったり剃ったり!」
「くく、それだけかよ?」
うっ。俺なんかのが可愛いと思えるぐらい、十分な気がしなくも――ないか。
上の棚に手を伸ばすと砂月の手がするりと伸びる。
ここか?と聞きながら、戸を開いて電動の髭剃りやワックスなどの中から一つの箱を手に取った。
パッケージを見るなり鼻で笑う砂月に、取り返そうと手を伸ばす。ひょいと避けられて、箱の中から一見剣のような形の洗浄用の注射器を取り出した。筒が丸みを帯びた指ぐらいの太さで、持つところが剣の柄のように横に長くなっている。
「趣味?」
「かっけえだろ」
砂月はもう一度笑って俺が伸ばした手を軽々と避けながら、ズボンなどを脱ぎ捨てる。俺もずり落ちたそれらを脱いで上の服は脱がずに引っ張って少しでも子どもっぽいそれを隠した。一人で風呂に入っているときでさえも見たくないんだから仕方がない。
すたすたと浴室に歩いていく砂月のその背中には俺がつけた痕が薄っすらと残っていて、俺のものだとぎゅっと胸を締め付けた。
屈んだ砂月が手に取ったのは、前に浴室に持ってきて使わなかったローションだった。
砂月はそれを眼前まで持ち上げると、何かを小さく呟いた。聞き返しても「別に」と言うだけだった。
ってか、お湯じゃなくてローション使うのかよ…。
そうして、ボトルの中に注射器を突っ込んで吸い上げていくことよりも、砂月のそそり立つそれに目がいって溢れる唾液を飲み込む。
砂月が注射器を構えて、口元を歪めた。
「すげえ物欲しそうな顔」
滴る雫はもちろんのこと、剣よりも凶器らしいそれに服を伸びるほどに引っ張って叫んだ。
「ちくしょー、見せ付けてんじゃねえ!ゴムつけてでもいいからって思っちまうだろうが」
「つけんのは当然のことなんだがな。ほら、ケツ出せ」
言いながら、浴槽の縁に腰掛ける砂月に近づいて手を伸ばす。注射器にではなく、砂月のそれに。
顔をしかめる砂月を無視して膝をつき、存在感が増した砂月のものに口付けた。ちゅっと小さなリップ音とその味にカァと頬が熱くなって、羞恥心を隠すように舐めてみる。
どくりと脈打って砂月を見上げると、目が合った砂月は顔を押し退けてきた。
「やめろ」
「されんのは恥ずかしい、とか?」
だったら尚更やってやりたいと思ったのに。
砂月に引っ張り起こされて膝立ちになると、抱きしめながら耳元で囁いた声が低く掠れていた。
「その小せえ口の、奥まで捻じ込みたくなるんだよ」
お尻に触れた砂月の手とも相まって分かりやすくびくついた。
咥えるだけでもいっぱいいっぱいになりそうなそれに、大丈夫だなんて強がれないのもあるけれど、言葉の端々に感じる怒気に浮気したらどうなるかを示されているようだった。
「……俺が小さいんじゃなくて、お前がでかいだけだ」
ぼそりと悪態吐いた言葉に砂月が自嘲した。
「は、手離しに喜べたもんじゃねえがな」
言われて、前にでかけりゃいいってもんでもないと言われたのを思い出した。
コンプレックス…?まさか、な。

抱きしめるように砂月の肩に吸い付くと、片尻を掴まれて冷たくて細い筒が中に入ってくる。でも、その感覚は自分でするときとは違って、進み辛くても角度を変えず無理に押し込まれているようで飛び上がった。
勢いよく振り返って自分と繋がっているそれを確認してみても、何かほかのものを入れられているわけじゃないようだった。
「や!いや、いやだ、砂月…!じぶ、自分でするから貸して」
叫びながら掴んでも、砂月に強く抱き寄せられて手が離れてしまう。
入れるまでは強い抵抗感はなかったのになんで。
「……喚くな、すぐ終わる」
ぐっと押し込まれていく感覚に涙が浮かんできて子どものように首を横に振った。
「ぁ、ぁあ…おねがっは、ぁ、砂月、さつき」
「下手な芝居はやめろ」
鬱陶しそうにする砂月の肩に額を押し付けて、そう言われても仕方がないような気がするほどにぶんぶんと頭を振るだけだった。
痛くはないけど、目の前に砂月がいて砂月の温もりを感じても、冷たく無機質なそれが砂月も自分も関係ない誰かにされているようで寒気がする。
「ちがぁ、ぁ…ぁ、まって、まって」
構わず、びゅる、と中に冷たい液体を感じて、一層砂月にしがみ付いた。
ローションはいつもひんやりするし、変な風に嫌な感覚はなかったのに早く出したくてたまらない。
「や、きもちわる、ぁぁ……ひっ!」
僅かに抜けていく筒に少しだけほっとしたのに、抜け切る手前で探るように動いた。
「芝居じゃねえならここも善くねえはずだよな?」
自分でもいいところだと分かる場所がおかしくなったみたいに、ぞわりと不快感しかなかった。
「なん、そこ、ダメだ…!」
「どんな風に?」
ぐちゅりと中から音が響いて、一点だけが熱くてそこから広がるように肌が凍りついてしまったようだった。
逃げないようにと回された砂月の手にも温かみが消えてしまった気がして、そんなのは嫌だった。
「触るなっ…抜けって言ってんだろ!」
半ばやけになって、砂月の肩に噛み付いた。瞬間、小さな呻き声が聞こえて、飛び退いたときには遅かった。
砂月はくっきりとついた歯型に視線をやって、首を傾けた。
「どうやら噛み癖があるらしい。矯正してやろうか」
あと少しで抜けそうだった筒を再度押し込まれて、細い筒が出入りするたびに耳につく嫌な水音にも鳥肌が立つようだった。
お前がさっさと抜かねえから悪いんだろ!と叫びたかったけど、そんな抗議なんかどうでもよくなるほどに吹き出る汗で服は濡れに濡れていた。
「や、やだってば……も、噛まないから、さつき……」
舌打ちと共に一気に抜けていくそれに砂月を抱きしめようと思ったら、カランという音が響いて唇に口付けられた。
「んん、は……んっ…」
僅かに唇が離れて小さく息を吐くと、もう一度やんわりと重なる。潤む瞳で視界が霞んで砂月の表情が読み取れなかったけど、慰めるように繰り返されるキスにまた涙が零れた。

「ぁん、……ぁぁぁっ、ゆっくり……」
待ちきれなかったと言わんばかりに強引に腰を進めてくる砂月に身を震わせて、壁に掛けたシャワーノズルに縋りつく。
トイレに行くときに腰に巻いたバスタオルは空っぽの浴槽へと投げ捨てられ、服を脱ぐ間もなく腰を掴まれた。
砂月の熱くてはちきれそうだったそれは、ローションでとろとろになっていて、いつも苦しいほどに邪魔な痛みが少しだけ減っていた。
「っ……柔らかいな」
理由はどうあれ、時間をかけて十分に解していたようなものだし、前にしたときからあまり日が空いていないことも嬉しかった。
「言った途端に締めんな……っく」
それでも無理に奥まで納まるとすぐ、砂月が脈打って打ち付けられた温かいそれにぞくぞくと体が震え上がった。
「だって、ぁ、ぁっ、あ……さつきの、」
強い異物感に吐き出そうとしているようにも思えるけれど、ぎちぎちとした感覚と気持ち悪かったローションが洗い流されていく気がする。何よりお腹を下すと分かっていても、あとになって砂月が存在していると感じられると思うときゅうきゅうと締め付けてしまう。
「……はぁ、中出しだけで善がってたら持たねえぞ」
ゆっくりと堆積を減らしながら送り出される熱に、砕けそうになる腰はお腹に回された砂月の手に支えられて、かろうじて立っている状態だった。
扉を閉めたのもあって、自分の声が響くことは2度の経験から諦めてはいるけれど、立ってするのも、後ろからされるのも初めてで突き出すように反れた背筋に腰は、洗面所での自分の姿を思い出して恥ずかしかった。
でも、自分の体を見ると服でほとんどが隠れているし、穴が空きそうなほど見られないからマシとも言えた。
「明日休み…だからいい…」
「……すぐに茹で上がるくせに、ねだるのは迷いがねえよな、お前」
「砂月がほしいんだって…言ってんだろ…」
抜けていく砂月につられて太ももに伝う熱に唇を噛んで、ぎりぎりで止まるとやってくる快楽が想像出来て息を呑んだ。
次いで、息を吐く。
奥まで、欲しい。
早く、と声に出すまでもなく、パンと高い音を立てて打ち付けられて一瞬で体が強張った。
「やぁん、ぁ、ひぁ、……ぁあっあん、ぁんっ…!」
いくら好きなようにしていいと言っても、砂月の律動はほとんどがゆっくりで優しさを感じるものだったのに、今日は一切そんなものがなかった。
ただただ激しく突き上げられて、腰を打つ音に粘着質な音が絡みつく。
「らめ、あん、ぁっ、ゆくり……さつ、ぁっ、んっは……砂月…!」
痛みにも似た快楽が焦点を合わせてくれなくて、チカチカと白く映る。
必死にノズルにしがみ付いてはいるものの、がくがくと落ちそうになる腰は砂月に軽々と固定されて、初めて抱かれたとき以上に本当の意味で砂月のいいように抱かれているんじゃないかと思った。
「…あぁ、は、ぁあん……だめ、……そなにしたら、ひっ、ん……へんなる…!」
「……は、なればいい」
「ぁぁあぁん」
硬くなる砂月のものがゆっくりといいところを擦りあげてきて、だらだらと白濁を零してしまった。
慣れない達し方はすっきりとした開放感がなくて、頭が熱くてぼうっとしてしまう。それだけならいいけど、ベッドでもないのに体がそれまで以上に官能するようになるのが問題だった。
「ひぁ、や、ん……ぁ、あっ、んんぅ…」
まだ吐き出しきれていないそれに触れて、先を優しく擦ってくる親指に声が溢れる。
そのとき、俺の真下に洗面器があるのを自分が零した熱によって意識した。快楽に夢中になって周りが見えていなかったのもあるだろうけど、日常的にそこにあるのが当たり前だったせいで気にもしていなかった。
砂月の手の中で、自身がびくびくと震えているのが分かって、更にビクつくとノズルに頭をぶつけた。
「いっつ……」
ノズルを睨むように顔を上げると、その隣にある鏡が目に入った。曇っていると思っていた鏡は自分よりも大きな手で拭ったような痕がついていて、ふるふると熱が溢れていく。
その紅潮しきった自分の頬と蕩けて緩みきった顔はもちろんのこと、服の裾に出来た染みの奥にある俺の萎えていくものを握る砂月の手が鏡に映っていて、洗面器を別のところに退ける余裕もなく慌てて服を伸ばした。
「隠すな。今、いいとこだったろ」
バッチリ見ていたらしい、顔から火が出そうな台詞と共にぶつかった砂月の手が半端なところまで服を捲り上げてしまう。抵抗してもう一度服を引っ張ろうとしたら、腰を揺さぶられて、中を掻き回される感覚にノズルに縋りつくしかなかった。
「ぁん、あっあっ…」
今日は珍しく後ろからしたがると思ったら、そういうことかよ。
「お前はたのし、かもしんねーけどな……んん、俺はシャワーやトイレだって……、外で使えなくなっちまったんだからな…!」
「いい、傾向じゃねえか。俺以外の奴にエサをチラつかせてやる必要なんざねえだろ?」
少しも抗議にならなかったらしい開き直り具合に呆気に取られた。
なんだ、それ。
砂月がわざわざ「剃りたい」と口にしていたのは、俺以外の誰にも見せるなと暗に言っていたんじゃないのかと思ったら心臓が煩かった。
「あ、やめ、も、ぐるぐるすんな!」
「じゃあ、こっちな」
言いながら、砂月が律動を再開した。
「あん、ぁあんっ……ぁ、ぁ、ひぅ……んっ…ぁぁあ」
勢いに任せて、ずちゅずちゅとした鈍い音が甘い声がリズミカルに浴室に響く。
突き出すように反れてしまう腰のせいか、打ち付けられるたびに砂月の袋が俺のとぶつかって砂月に奥の奥までを貫かれているんだと思ったら興奮した。それも手伝って、いいところを知り尽くされてしまったかのように快楽が止め処なかった。
「っぁぁぁ……きもちい、けど……っぅあ、早いの、足立たたな、」
訴えても、腰を掴む手に力が入るだけで勢いは衰えなかった。
いつもは引き抜かれていくのが気持ちいいのに切ないようなもどかしさを感じていたけど、すぐさま深くまで突き上げられるのが荒っぽくて頭がおかしくなりそうで、ゆっくりとゆっくりと擦り上げて欲しかった。
「や!待てってば、っひん……そんな、強いのっ……くせになったらどうすん、ひぁあ…!」
「逆、効果だな」
砂月の大きいのが奥まで入りきる前に引き返して、前立腺だけを突いてくる。
「ぁ、あっ、だめだめ……あ、ぁあっんぅ…砂月、ぁんっやだぁあ……!」
息が苦しくて開いた唇からは引っ切り無しに声が漏れ、涎が伝っていく。
快楽に濡れた瞳からはぼたぼたと涙が落ち、震える自身から滴る雫が洗面器に溜まっていくのがぼやけて見えた。
「ゆっくりして……っうぁ、イく、イく……砂月の、ぜんぶ……、…ぁ、ぁ…ぃぁ――!」
ずん、と奥まで腰を打ち付けられて、溜まる熱を吐き出した。
快感に浸る僅かな時間も与えられず、繋がったまま砂月が膝裏を掴んできて体が浮き上がった。わけのわからないまま、自分でも支えようと砂月の腕に掴まると弾かれたように目を見開いた。
ぴゅ、ぴゅと零れる熱が弧を描き、洗面器や鏡、浴槽にまで飛び散っている。
「は、ひっ……や!おろせばか!あんっ」
砂月が動くごとに奥深く入り込んで、びくんと声を詰まらせた。
勢いが落ちていくと、砂月がゆっくりとイスに腰掛けて胸に凭れさせられる。膝裏を掴んだまま抱きしめてくる腕で足が勝手に開いてしまうけど、肩に顔を乗せて擦り寄ってくる砂月が可愛くて、自分の丸見えになっているそれに見ない振りをした。
「…きつく、ないのか」
言いながら、ぎちぎちと繋がっている箇所に触れてくる。
「んぁ……はぁ…ん、それは俺の台詞だけどな…きついに決まってんだろ…」
言うと、撫でてくる指がぴたりと止まった。
やっぱり砂月は大きいのを気にしているのか…?
「…でもな」
床に転がっている剣型の注射器を指差すと、砂月もそちらに目を留めた。
「俺は砂月じゃないと気持ちよくないらしい……んん…」
脈打つ砂月に呼応するように、ぐっと反り返った自身に砂月が苦笑した。
「緩いな、本当に……っん」
よれた服がずり落ちて曝された肩に砂月が吸い付いた。
それが少し、嬉しそうに見えた。
また俺が勝手に考えているだけかもしれないけど、砂月が言っていた「相性がいい」というのは、怖がったり萎えたりしないって意味なんじゃないのかと思った。砂月を抱く前にそんなようなことを聞かれた覚えもある。
だとするなら、砂月を好きな理由が巧いからだと言われた方がマシって、コンプレックスを受け入れて欲しかったってことにならねえか?
ったく、コンプレックスは他人から見ると長所にもなり得るって本当だな。
羨ましすぎんだろ!贅沢だ。
心の中で叫んで、ちゅっちゅと首筋やうなじに痕を散らしていく砂月に唇を尖らせる。
「……緩すぎて、今日も花見出来んのかなって不安だったんだけど、二次会直行だもんな」
「外でヤッて欲しかったんなら先に言えよ」
「ばかじゃねえの…そんなんされたら、止まんなくな、ん…ふぁ…」
優しく唇を重ねてくる砂月の眉間には皺が消えていて、八の字に歪められていた。
表情は全然違うけど、なんとなくドライヤーで砂月の髪を乾かしたときを思い出して、俺たちの間に少しも思い出がないわけじゃないんだと頬が緩む。

「んんぅ……砂月、今度、紹介したいやつが居るんだけど――」

fin.

手の平へのキス=懇願。



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コンセプトは「男気全開な翔ちゃんを書こうとしたら、予想以上にゲイだった」です。男気全開の意味を履き違えた感満載です。さっちゃんについては「過去に生きるタイプ」です。根に持ちそうだなってすごく思う。
Under Lover、Love bite後からちょこちょこ書いては消しを繰り返してて、あまりにも日が空きすぎてしまったために最初から書き起こしました。
さっちゃんの裏設定は色々あるんですが、特に書く必要もないかと思ったので省きました。医大生です。
執筆2013/06/28〜08/06

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